第7話 クレアとの再会

「クレア、久しぶりだな。」


 協会を出たところで懐かしい顔を見かけたレインは声をかけた。


「レイン、久しぶり。大活躍だったみたいね。」


 【神速の猛狼】の事件が広まる過程においてレインが捨てられたメンバーを助けたという話は同時に広まっていた。レインとクレアは周りの邪魔にならないところに場所を移して話し始めた。


「あそこにいたのがたまたま俺だっただけだ。」


 あの場面に遭遇して助けられるだけの力があるのだったら助けるのは当たり前だとレインは当然のように言う。


「リンさんの時もレインはそうだった。」


 クレアは懐かしむように言う。クレアはレインがリンを助けたときのパーティメンバーであり、その場にいたため当時のことをよく知っていた。


「ステラは元気?」

「あいつは相変わらず元気だよ。今はキャンプ2に協会の手伝いで行ってるから直近はあってないけど。」


 ステラはレインとクレアにとって共にパーティを組んだ仲間であり、一緒に成長した戦友だ。だから、この3人のうち2人が出会うと残り1人の話題になることはよくあることだった。


「それと俺、ステラのパーティ抜けることになった。」


 ステラの話がでたついでにレインはクレアにパーティ脱退の件を伝える。


「えっ、どうして?」


 普段あまり感情が表情に出ないクレアが珍しくわかりやすいくらい驚いた表情をする。


「俺の実力不足だよ。今の最下層まで潜るには俺の魔法じゃほとんど出せなくてね。ケビンと話をして抜けることになった。」

「ステラに反対されなかったの?」


 軽く経緯の説明を受けたクレアは当然の疑問のように聞く。


「その話をした時にはすでにステラはキャンプ2に旅立ってたからまだステラは俺が抜けたことは知らないはず。」

「そう。ケビンは判断を誤ったのね。」


 レインを外したのは間違いだと確信してるようにクレアは言う。


「ケビンは間違ってないよ。俺自身が一番俺の実力をわかってたから。本来はケビンに決断させる前に俺から言わなきゃダメだった。」


 レインは悔やむように言う。


「レイン、知ってる?わたし含めてあなたたちのパーティからキャリアアップを目指して抜けた人の中で成功した人は1人もいないんだよ。」


 レインとステラはかなり長く組んでいたがそれ以外のパーティメンバーは割と入れ替えが多かった。それはクレアのように高みを目指して抜けていく人だったり、レインたちがパーティの強化を目的にメンバーを入れ替えたりしていたからだ。今回、その対象がレイン自身だっただけだとレインは割り切っていた。


「それは偶然だよ。俺たちと一緒に戦った仲間はみんな光る才能を持っていたし、どこかかが少し違ってれば成功してたはずの人だっていっぱいいたよ。少なくともみんな俺よりはポテンシャルは高い人ばかりだった。」


 ほんの少しの歯車がズレてしまえば高いポテンシャルを秘めていても成功しないことは珍しくない。自分はたまたまステラやケビンと相性が良く回復魔法の希少性もあってパーティに残り続けられていたとレインは考えていた。回復術師を2人も抱えられるパーティは多くなくそれがパーティの強みになっていたのは事実だった。


「あなたは自分を過小評価しすぎ。予言する、あのパーティがこれ以上うまくいくことは無い。」


 クレアはそう断言した。


「そんなことは無いだろ。ステラやケビンがいて俺のところがグレードアップできるならむしろもっと強くなるはずだろ?」


 それとは対照的にレインはステラたちの成功を疑ってなかった。そもそもレインはそっちの方がステラたちのためになると思って抜けたのだ。疑うはずがない。


「確かにグレードアップできれば成功する。でも、それはあなたより優秀な人がいればの話。そんな人が簡単に見つかるならわたしはとっくに成功してる。」


 クレアは悔しそうにそう言った。まるでレインの代わりを探し続けていたようなそんな雰囲気をレインはクレアの言葉から感じていた。


「なあクレア、今度俺ギルド作ることにしたんだ。だからまた一緒に冒険しないか?」


 過去にクレアはレインたちのパーティを抜けたことを後悔しているという話をレインたちにしていた。当時はクレアの所属しているギルドが内部崩壊を起こしてこの先どうなるかわからない状況だった。そこからなんとかクレアのギルドは生き残っているわけだが昔のように攻略の最前線ではなくなってしまった。だからこそレインはクレアは誘えばまた一緒に冒険できると思っていた。


「もう遅い。今のわたしにそんな資格は無い。」


 相変わらずの抑揚のない声でクレアはそれでも少し悲しそうにうつむいて言う。


「ありがとう。誘ってくれてうれしかった。また今度。」


 クレアはそう言ってその場を離れていく。きっとクレアにも何か事情があるのだろう。それでもレインは断られると思っていなかったショックで何も言えないままその場に立ち尽くしていた。


「なんでだよ、クレア。」


 レインのつぶやきは誰かに届くことは無く街の喧騒にかき消される。こうして、クレアの勧誘は失敗に終わった。

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