第4話 少女救出

 そんな会話をした後もレインたちは順調にダンジョンを進みあっという間にキャンプ1までたどり着いた。


「これで納品完了っと。あとは帰るだけですね。」


どうやら物資も枯渇する前に間に合ったようだ。キャンプ1にできた街の中ではすでに酒を飲み始めている人たちもいる。地上ではちょうど太陽が沈む頃なので既に地上までの帰還を諦めてここで1泊するつもりの人が大半だ。レインたちのようにこの時間から地上に戻ろうとする人はほとんどいない。


「さて、行きますか。」


 レインの声を合図に二人はキャンプ1の喧騒を後にした。


「ちょっとそれますけどいいですか?」


 7階層まで戻ってきた辺りでレインが足を止める。


「どうかしたんですか?」


 リンからはレインが壁の方を見ているようにしか見えないのだがリンはレインがその先を見ていることを知っている。


「人が魔物に襲われています。少し待っていてください」


 レインはそう言うと走り出しダンジョンの闇の中へ消えていった。それからしばらくしてレインが泣いている少女を抱えて帰ってきた。


「奥に、まだ奥に仲間がいるんです。助けてください。」


 どうやら他にも仲間がいたらしい。リンがレインに目を向けるとレイン小さく横に首を振った。どうやら残りはすでに助かる状態では無いらしい。


「まずは君の治療からだ。」


 少女は全身傷だらけで立っているのもやっとという状況だ。よく見ると装備は明らかに後衛のものだが手には背に合わないかなり大きめの剣を持っている。きっと剣は仲間のものだろうとリンは考える。リンがレインに助けられた時も同じように仲間の剣を持って力任せに振り回してがむしゃらに逃げ回っていたところをレインに助けられた。


「リンさん、急いで地上に戻りますよ。ダンジョンブレイクの予兆があります。」


 レインは少女に魔法をかけながらそう言った。ダンジョンブレイクとはダンジョンから大量の魔物が地上に一気に押し寄せる現象だ。地上の人々はほとんど戦う備えをしておらず街に魔物が飛び出す事態になれば少なからず死傷者が出る。その予兆をつかんだのならば一刻も早く地上に戻りそのことを報告しなければいけない。そのことを理解しているレインたちは地上への道を急ぐ。


「それで具体的には何が見えたんですか?」


 地上への道中、落ち着いたタイミングでリンはレインに問いかける。レインが保護した少女は緊張の糸が切れ極限状態で戦っていた疲れからかリンが押す荷車の荷台で寝ている。


「まずあの子を助けたとき対峙していたのはシャドウバットたちでした。」


 シャドウバットは5層から出現が確認されている魔物であり、多くの冒険者がこのダンジョンで初めて遭遇する飛行型の魔物になる。


「シャドウバットですか。彼らは臆病でこちらから手出ししない限りは襲ってこない魔物ですよね。」


 これが少女たちのパーティが手を出して返り討ちにあっただけならダンジョンではよくある話だ。


「そのシャドウバットの群れの中にフロストオウルが紛れ込んでいたんですよ。」

「フロストオウルですか。それは異常事態ですね。」


 フロストオウルはシャドウバットにとって天敵になる魔物だ。フロストバットがより狙いやすいシャドウバットを襲ってないこともシャドウバットがフロストバットから逃げていないことも奇妙である。そして何よりフロストオウルは13階層から生息が確認されている魔物だ。イレギュラーが起きない限りベースキャンプのある9階層を突破して7階層で見るのはありえない。


「それから彼女の仲間の死体を食っていたのはおそらくダイアウルフです。これもこの階層にいる魔物じゃありません。」


 本来より下層の魔物が上層に姿を現すとそれに連動するように他の魔物は上層に退避しようとする。結果的に地上まで大量の魔物があふれ出してくるのがダンジョンブレイクの原因とされている。ダイアウルフも10層から生息する魔物であり、7階層にいてはいけない魔物だ。


「ダイアウルフまでいるとなるとダンジョンブレイクは時間の問題ですか。」


 リンは深刻そうにつぶやく。ダイアウルフ自体は過去に何度か8階層より上層でも目撃されているのだがその度にダンジョンブレイクが起きかけたり実際に発生している。とはいえ、これはレインが魔眼で見ただけであり肉眼で発見したわけではない。フロストオウルはレインが倒してしまっているためダンジョンブレイクの原因になる魔物の討伐クエストが出せないという問題を二人は理解していた。


「とりあえず協会から調査クエストは出しますけどそこでダイアウルフを発見できないとなると困ったことになりそうですね。」


 調査クエストは異常が無いか調査するためのもので中心はフロストオウルが見つかった7層ではなくそれによって魔物が流れ込んでいる可能性がある6層が中心となる。


「とりあえず明日俺がもう一度向かってみようとは思いますけど事情聴取とかもあるのでどれくらい探索できるかはわからないですよね。」


 フロストオウルが上層にいたというだけで問題なのにそれに襲われないシャドウバットがいたという報告をリンが協会にすれば目撃者から話を聞く流れになるのは当然のことになるだろう。そして、無我夢中に逃げ回っていた少女より冷静に対応できていたレインの方が協会からしても信頼の高い報告になるのは間違いない。協会がレインに聴取するのは二人の中では確定事項だった。


「とはいえ頑張るしかないので頑張りますけど。」


 その後、魔眼を隠すための口裏合わせをしながらレインたちは地上へと戻っていくのだった。

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