第3話 魔眼

 それから30分もしないうちにレインとリンはダンジョン前でダンジョンに潜る準備を整えて合流した。リンは物資の乗った荷車を引いてきている。


「さて、さっさと届けて今日中に帰ってきましょう。」


 エストの見積もりではキャンプ1にたどり着いた時点で夜になっており、キャンプ1で一泊する前提だった。だけど、それは途中で魔物に足止めを食らう前提の話だ。とはいえ途中で全く魔物にエンカウントしないというのはほとんどない。だから、エストの前提はそう考えて当たり前のものだった。


「やっぱりレインさんは日帰りのつもりですよね。」


 レインが日帰りのつもり来ていることはリンもわかっていた。そして、それが最速で一番安全だとわかっているからリンは護衛を増やしたくなかったのだ。


「だってベースキャンプに泊まると高いですし地上まで帰ってきた方が快適に寝れますしできることなら帰ってきたいじゃないですか。」


「まあ、順調にいくならわたしも帰りたいですけど時間がかかるようでしたら泊まりにしましょう。無理してもしょうがないですし。」


 二人はそう話しながらダンジョンに入っていく。


「それじゃ使いますか。」


 ダンジョンに入ったレインは右目につけた眼帯を外す。一般的な黒色の左目とは明らかに色の異なる赤い右目が姿を現す。左右の色が異なるオッドアイは魔眼の持ち主であることの証だ。そして、魔眼持ちであることをレインは隠している。これは魔眼持ちがロクな目にあわないことを知っているからだ。実際、魔眼持ちを隠すことはよくあることだ。とはいえ、ダンジョン内で魔眼を使っているので知っている冒険者は少なくない。


「レインさんの魔眼久しぶりに見ました。それじゃよろしくお願いします。」


 リンはそう言って頭を下げる。しかし、レインの魔眼の能力を正しく知っている人間はほんのわずかしかいない。それはレインが魔眼の能力を偽って伝えてるからだ。レインはケビンたち前パーティメンバーをはじめ聞かれた多くの人に『夜目が効く』効果だと伝えていた。たとえどんなに暗くても敵が近くにいれば見えると。


「じゃあ、ちょっと行ってきますね。」


 レインは護衛であるにも関わらずリンの傍から離れる。それはリンのいる場所が安全だとわかっているからだ。レインの魔眼の能力は暗くても敵が見えるどころではない。たとえ壁の裏に潜んでいたり姿を隠していてもレインには存在を隠すことができない。レインの魔眼は敵の位置を見通すことができる能力だ。そして、リンはレインの魔眼を正しく知る数少ない一人だ。リンはそれを理解していたから他の護衛を置きたくなかったのだ。上層程度の敵ならばレインは一人で簡単に片づける。リンはただ荷車を最短ルートで引いていけばいい。


「順調ですね。」


近くの敵を一掃して帰ってきたレインにリンは声をかける。


「これくらいの階層ならこんなもんですよ。」


 たとえ魔眼を使っても身体能力が上がったり魔法の威力が上がるわけじゃない。だから、この階層では無双できても下層では火力不足に陥る問題はどうにもできなかった。たとえ、ケビンが魔眼の真の能力を知っていたとしても彼の決断は変わらなかっただろうとレインは思う。


「ねえレインさん。ギルドを作ったら誘いたい人はいるんですか?」


 リンの質問にレインは少し考えてから答える。


「メンバーが育ったらクレアには声はかけようかなと思ってます。あいつはこのまま終わっていい人じゃないですから。」


 クレアはほぼケビンと入れ替わりで抜けた昔のパーティメンバーだ。優秀な魔術師でステラとクレアの後衛組は当時から圧倒的な安定感を誇っていた。当時、まだまだ新米だった俺たちのパーティで圧倒的な火力を誇った彼女は当時の最前線ギルドにスカウトされてパーティを抜けていった。その後、クレアの入ったギルドは主要メンバーの多くを失ったことで衰退。今ではキャンプ2にたどり着くのもやっとというところまで衰退してしまった。


「あそこはギルドマスターも失いましたからね。新しくギルドマスターになった方もあまり精力的ではなく酒場に籠ってばっかりだそうですし。新規のギルドメンバーの募集もしてないみたいですよ。」


 この街では珍しくもない話だ。最前線のギルドの入れ替わりも激しく次にどこが落ちぶれてもおかしくないのが現状だ。それでも、レインはクレアに光るものを感じていた。だから、彼女にはもう一度最前線で戦ってほしいとレインは思っていた。とはいえ、レインのギルドがそこまでたどり着くのはどれくらい先なのかはわからないが。


「あとはリンさんがいてくれたら心強いとは思いますけど。」

「わたしですか?」


 レインに急に名前を出されてリンは驚いた表情をする。


「前のパーティにいたころから机仕事はいろいろ大変だったので。ギルドを作ったら依頼の受付だったりメンバー募集だったりいろいろ仕事も増えそうなので安心して任せられる人がいると心強いかなと。とはいえ、無名の新米ギルドに依頼を持ってくる人も入りたい人もいないと思うのでしばらくその心配は無いと思うんですけど。」


 お金のことだったり最前線攻略のサポートメンバー集めだったり前のパーティでもダンジョンに潜るまでに大変な思いをしたこと記憶がレインには何度もあった。ギルドを作るのなら協会とのやり取りもしないといけなくなるしダンジョンに潜る以外の仕事は増えるだろう。レインにとってその辺を十分にこなせるかは不安な部分ではあった。


「そういうことですか。わたしなら全然いいですよ。」


 さらっとOKを出したリンに今度はレインが驚く。


「いやいや、俺もそんなにお金を持ってるわけじゃないので協会にいるより給料下がっちゃいますよ?」

「それくらい大した問題じゃないですよ。言ったじゃないですかレインさんの力になりたいって。レインさんに必要とされるなら喜んでやりますよ。」


 こうしてレインはギルドの最初の仲間を手に入れたのだった。

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