あの頃の私に決別を

真白いろは

ここに来るまで

 ある時言われた。「…誰だっけ。」と。すごくすごく嬉しかった。もう嬉しすぎて口角が上がった。

 私が誰だか分からない。それはすごく素敵なことだった。



 あれはいつから始まったのか。確か小学生の時だった気がする。ある時友達が私にこんなことを言った。


「同じチームやだ〜。」


 丁度それはドッジボールの時で、女子は2つのグループに分かれるのだ。私の押し付け合いが始まった。Aグループに行けば嫌がられ、Bグループに行っても嫌がられた。さすが小学生。自分の気持ちに素直なのだ。運動音痴は自分のグループに入れたくない。仕方なく、私はただ眺めていた。そこから、私は嫌われ者になってしまった。話しかけても逃げられ、体育なんて苦痛でしかなかった。


 それから経った、中学生の時。今度は皆、気を遣ってグループには入れてくれるようになった。だが、ひとつ問題点があった。


「もっと速く走れよノロマ!」

「なんでこんなこともできないの?」

「ねえ、手抜いてるでしょ。そういうの1番嫌い。」


 まただ。また運動神経の悪さが足を引っ張った。うちの中学は気の強い子が多く、よくそんなことを言われた。

 しょうがないじゃん。本気でやってるよ。でもできないの。

 泣きながら帰ってきた日もたくさんあった。でも泣くのは帰り道から。学校で泣いたらもっとブスだと思われるから。容姿もすごく悪かったのだ。

 私抜きの女子ライングループができたこともあった。3年間、そんな環境にいた。


 いよいよ高校受験。お母さんと志望校選びだ。


「どんな高校がいいの?」

「…落ち着いたところ。」


 もうあんな想いをせずに済むところ。落ち着いた学校。

 第1志望はすぐに決まった。少し近いところにある、大学の附属高校。真面目な人が多く、勉強に特化した高校。問題は第2志望だった。あがったのは2つ。

 ひとつは第1のような高校。でも、うちの中学では人気な高校。

 もうひとつは、すごくおしゃれな雰囲気の高校。でもみんなで楽しむような空気感があった。そこはかなり遠く、うちの中学では選んだ人はたぶん出ないような高校。

 お母さんは2個目が好きだった。おしゃれなの好きだもんね。


「どっちにする?」

「…2個目しようかな。」


 私はお母さんが好きだった。だから2個目にした。少し心苦しかったけど。

 そこから勉強して、結果は第2志望に決まった。第1志望は受からなかった。まずは喜ぶ。そして不安になる。ここだと間違いなく私は浮く気がするのだ。嫌だ。もう嫌だ。もうあんなことになりたくない。

 卒業式の1週間前。怖すぎて泣いた。高校でもあんな感じだったらと思って眠れなかったのだ。


「嫌だ…!」


 手鏡を割ってしまった。もう見たくなさすぎて気づいたら割れていた。怖い。そう思ったら息が荒くなって心臓の音が大きくなった。笑い声が聞こえて後ろを振り向くが誰もいない。でもまだ聞こえてきていた。クラスメイトの笑い声に囲まれているようだった。

 深夜25時に心が死にかけた。

 

 次の日は休日で、お母さんには間違えて落として割ったということにした。

 もうこのままじゃ息が止まりそうだ。ルーズリーフに『改造計画』と書き込んで、もうあんな想いしないようにプランを立てた。


 まず痩せる。そして髪はまっすぐでサラサラに。眼鏡もやめてコンタクト。肌も綺麗に整える。

 美容院や眼科、皮膚科をすぐに予約して、ダイエットした。お母さんたちにはすごく驚かれていた。


 そして卒業式の翌日。美容院帰りにふとガラスに映る自分を見た。

 金はかかったがストレートでサラサラな髪。コンタクトで真面目さも消え、薬を塗った効果で肌も綺麗になっている。足も腕も前より細くなり、浮腫みもない。

 これは誰だろう。少し見入ってしまった。

 そんな時だ。スマホが振動してメッセージが届いた。


『今日会える?』


 塾の男友達からだ。


『うん。会えるよ?』

『じゃあ16時に塾のビルの下で。』

『りょーかい』


 どうしたんだろう。

 そいつは大人しめではあるが面白いやつだった。しかも意外と運動ができる。頭もまあまあいい。

 まさかな、と思っていた。が、本当だった。


「…変わった。」

「でしょ?イメチェンだよ。で?」

「…好きなんだけど…。どうなのかな〜…みたいな?」

「…いいよ。」

「え?」

「いいよ。めっちゃ嬉しい。っていうかちゃんと言えよ〜。」

「なんか分かんなくて…。」


 帰ってから何回か頬をつねった。夢みたいだ。まさか告白されるとは思わなかった。っていうかイメチェン前から好きでいてくれてたんだ…。

 自然と涙が出た。あんな私でも好きでいてくれる人がいたことが嬉しかった。


 そして春休み。私は運動しまくった。いくら可愛くなっても運動神経でやられると思ったのだ。ランニング、元野球部のお父さんとキャッチボール。サッカーで結構上手な方らしい弟とパス練習。


 そして入学式当日。

 学校に着くまでにいっぱい動画を見た。人と仲良くするには。明るくなるためには。自信をつけるには。


 もうあんな日々に戻りたくないから。


 高校には中学の子はいなかった。私1人。最高すぎる。新しいクラスに向かい、まず1番可愛いモデルのような子に話しかけた。話してみると面白い子で、すぐに打ち解けることができた。

 おとなしい子にも話しかけ、よく笑うようにした。


 そして4月下旬のある日。


「ーーさんって元気かなぁ。」

「あーそんなやつもいたね〜。」


 最寄駅で中学の子が話していた。しかも私の話題。だが2人とも全く私には気づかない。目が合った。しかし気づかない。スマホをいじるふりをして聞き耳を立ててしまった。


「高校でもあんな感じなのかな。」

「そうじゃね?容易に想像できるんだけど。」


 …笑ってしまいそうだ。もうあの頃の私ではないのだから。

 今の私は、体育祭の応援団、文化祭実行委員、音楽会実行委員、しかも運動部なのだ。いやー我ながらやばいと思う。どうした、私。


 そしてその次の日。中学の頃仲が良かった子が歩いていて、思わず話しかけてしまった。すると言われた。


「…誰でしたっけ。」

「え?私だよ私!」

「…えええええ!?」


 なんと気づかれない。いや見た目も変わりすぎたな。声でしか気づかれる要素がない。すごく嬉しかった。もう中学までの私とは違うのだ。


 でも中学まで好きだったことは少し変えて続けている。

 『小説を書くこと』だ。中学まで使っていたサイトはサブにして、これからここをメインにしたいと思う。『カクヨム』だ。


 初めまして。真白いろはと申します。

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あの頃の私に決別を 真白いろは @rikosyousetu36

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