第7話 駄々漏れ魔力

カタリーナが案内役でパパタローとカリンはそれぞれに着替えたあと、合流し長く続く廊下を歩いていた。その後にカタリーナに衣装を貰ったムニンがついてくる。

「猫耳?本物?」とカリンの目がキラキラ光っている。

ムニンが耳をぴこぴこと動かした。

自己紹介をしあっている。


カリンは背丈にあるドレスを借り、まさに少女な振るまいをしていた。

「昨日より成長してて、いいな。10歳くらいかな?」

「8歳も一気に年取ったから骨がなんだかギシギシするのよね。超成長期。」

「それに、この衣装いいでしょう~。昔、こんなの着たかったんだ!カタリーナさんが選んでくれたんだよ。」

「この屋敷には何でもありそうだな。」

パパタローは千歳飴が似合いそうな、写真館に出てきそうなフォーマルな服装をしていた。

「パパタローは5歳位だね。子供の頃って可愛かったんだ~。お坊ちゃまって感じだね。」

カリンがニヤついた顔でパパタローを見た。

「うっさいわ!」


「ムニンは何歳なの?」

「確かに気になるね。何歳?」

「さぁ?17とか?獣人化しちゃったからなぁ…。調べておきます!」


調べるって?何をどう調べるんだろう? と同時に同じ事を考えていた。


「ところで…」

「ところで?」

「カリンの三つ編みは、珍しいな。」

「こっちでは流行ってるんだって。カタリーナさんが、剣技の前に邪魔になるだろうからって、ってくれたの。」

そういえば、カタリーナを始めとする女性の方は、三つ編みをしている確率が多いな。

「そうか。なかなか似合ってる。しかも剣技もいつの間にか上達しているとは!」

「あら。珍しい。パパタローが褒めてくれるなんて!なんだか、体が動くのよね。不思議。」



「ところで…」

「2回目の「ところで」だ。何?」

パパタローは言いづらそうに、一言置き続けた。

「クラウスさんと、仲が良さげだな。」


「!は。」

カリンは顔を背けた。顔が赤くなったのを見逃さない。

「何を言ってるのよ。私は10歳の子供としか見られてないわよ。」

「そうか?なんかいい感じに見えたけどね。」

「何でもかんでも身近でくっつようとするのは止めなさいよ!」

「いや。そこまでは言ってない。仲が良さげだねー。いい感じだねー。と言っただけで、くっつけとは言ってない。」

カリンが真っ赤になって手刀が飛んできた。


ブンッ


これは!

命の危険を感じたパパタローが仰け反るように避けたが、

バチッ。パパタローの後頭部に何か激突した。


って!!」


カリンが首をパパタローといる側とは逆に首を勢いよく振ったことで、太い三つ編みがパパタローの後頭部に直撃したのだ。

パパタローは床に転がった。

「ああー。いい忘れてた。カタリーナさんが、三つ編みがちょっとした武器になるんだって。気をつけてね。ふふふ。」

少し笑った怖い感じのカリンが見下ろして言った。


「ぶつけてから言うなよ…。」

「カリン。わかりやすいにゃぁ。」

ムニンが呆れて後方を歩いていた。


おごそかな雰囲気な廊下が続く。この建物にはクラッシック音楽が合いそうだ。

二人は絨毯じゅうたんを踏む度に返ってくる、厚みのある反動に慣れないで歩いていた。

ここまでに来るまでにいくつもの似たような重厚な扉があり、日本の狭小住宅で育ってきた者からすると、うらやましいを通り過ぎて、扱いにくそうで、庶民には優雅な生活が想像ができないでいた。

カタリーナを始めとするメイドさんが複数人いるお陰で、この建物は掃除が行き届いており、ホコリやシミといったものがどこにもない。

この世界のメイドは名称独占の資格を持ち、それなりの待遇を受けている。

これぞプロフェッショナルな仕事だ。


広間に到着したが、スタート地点に戻れと言われたら、戻れる気がしなかった。

床には濃緋色こきあけいろ絨毯じゅうたんが敷かれており、

奥の壁には中央に暖炉、両隣には年代物と推察できる大きな肖像画が配置されていた。

額縁も見事なものだが、肖像画も名のある画家が書いたに違いない。

そこから始まるように、両隣から肖像画が何枚も続いていた。ご先祖様だろうか。

似たような顔が続いていた。


部屋の中央にはカタカナの”コ”の閉じられていない方を長~くした形の

テーブルが配置されている。

一体、何人用なのかとつっこみたくなる気持ちも忘れて、ありのままを受け入れていた。


カリンはパパタローに小声で聞いてきた。

「テーブルマナー、大丈夫?」

パパタローは親指を立てて一言いった。

「見た目は子供だから大丈夫」。


なに?その理屈…。

「ずぅずぅしい脳は30なのに…。」

「30言うな~。」


「こちらに」とカタリーナはパパタローを座席に乗せ、カリンはその隣に自分で席に座った。

椅子の座面がふわっと座りやすい。


「え?僕まで良いのにゃ?」

「旦那さまから、獣人化したお祝いにということですよ。」

「ありがとうにゃ。」


「旦那様がお見えになりました。」


ヴィクターは斜向かいに座った。少し後方にカタリーナが立っている。


※配置図


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   カタリーナ   

         ヴィクター

        ■■■■

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        ■  ■

 パパタロー→  ■  ■

 カリン  → ■  ■

 ムニン  → ■  ■

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        ■  ■


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「昨夜はゆっくりできましたかな。」

「はい。おかげさまで。」


「私はミストハイツ地域の領主をしております。ヴィクター・シルバーハートと申します。」

「昨夜は我が領地内で、魔物が発生してしまい、申し訳ありませんでした。」

ヴィクターが立ち上がり、深々と頭を下げた。


「頭をお上げください。」


パパタローが席から立ち上がり、深々と頭を下げながら自己紹介を始めました。

それを見たカリンもワンテンポ遅れて立ち上がり、礼をした。

「私は白洲花しらすか太郎です。このりんです。

ゴブリンに襲われているところを、助けていただき、ありがとうございます。なんとお礼を言って良いのかわかりません。この子は、兄夫婦からの大切な預かり物でして、何かあったら、顔向けできないところでした。」


パパタローの真剣な表情に、皆、真剣に聞き入ってた。

普段はふざけてばかりの彼が、今回は心からの感謝を伝えるために真剣な態度で話している。

その言葉に、カリンも微笑みながら、頭を下げました。彼女もパパタローの言葉に感謝の意を表していた。


「昨夜よりお姿が変化したように感じるのですが。」

「私はさほどの変化はないのですが、カリンが大きくなりました。もともと私は30歳、彼女は16歳でしたので、見ての通りで体が子どものままなのですが…。」

「そうでしたか。不思議なことですね。」


「ムニンもおめでとう。」

「これも、パパタローのお陰にゃ。パパタローから漏れ出している魔力を吸収したら、獣人に進化したにゃ。これから夢術系統の魔術を磨いていくのにゃ。」

「そうか、頼んだぞ。」


「とにかく、この出会いに何かの意味があるかもしれません。昨日の事など、お聞きしたいこともありますが、まずは食事としましょう。ミストハイツ領内で採れた自慢の品々です。」


「頼む。」

かしこまりました。」

ヴィクターが合図をすると、カタリーナの部下が料理を運んできた。

勝手ながらであるが、説明の都合上、仮の名称として「ミストハイツ《霧の高地》の畜産グルメコース」とでも名付けておこう。


前菜: ミストハイツ《霧の高地》の風味豊かなハーブと蜂蜜を使ったらしき家畜のチーズとハーブの盛り合わせ

主菜: 霧の高地で育てられた肉牛のステーキとらしき家畜のロースト、添えられた野菜は霧の高地野菜の焼き野菜

デザート: 霧の高地のハーブで香りづけされたハチミツケーキとブルーベリークリームのせ


カタリーナが説明した。

霧の高地茶: 湿度の高い霧の高地では茶葉が育ちやすく、風味豊かで高品質なお茶が生産される

霧の高地野菜: 湿度が高いため、霧の高地特有の野菜・根菜や葉菜が栽培されます

霧の高地の果物: 霧の高地では、独特の気候条件が果物の成長に適しており、ブルーベリーやいちじくなどが栽培されています。

霧の高地のハーブ: 霧の高地の湿度と標高の高さがハーブの栽培に適しているので、ローズマリーやタイムなどのハーブが生産されます。

霧の高地の蜂蜜: 霧の多い地域では植物の生育が盛んであり、それによって蜜源が豊富になるため、高品質の蜂蜜が生産されています。


畜産は肉牛や羊などの家畜が飼育されています。霧の高地の気候や地形によっては、肉牛や羊の飼育に適した広大な草原や山岳地帯が存在し、これらの地域で畜産業が発展しました。

また、霧の高地で育てられる家畜は、自然豊かな環境で健康的に育てられることが多いため、肉の品質が高く、風味豊かな特徴があります。霧の高地の地域性や豊かな自然環境が肉製品の品質や価値を向上させる一因となっています。


乳製品も生産している。


ヴィクター・シルバーハートはメーア・ウント・ベルゲン国王から西側に位置しているミストハイツ領地を拝命し領民のために尽力している。

領地内では農業と牧畜を主要な産業としており、豊かな自然環境を活かした地域の食料供給と経済活動で地域を支えている。また、ヴィクター・ドグラナールという商会を有しており、王国の経済の一翼を担っていた。

地域の発展と住民の幸福を願い、誠実な統治と持続可能な開発に尽力している。


絶滅危惧種の保護も行っている。

ミストハイツ地方では「ヒッポグリフ」は、馬の体と鷲の翼を持つ生物で、大空を駆ける姿は非常に迫力があるのだが、食肉としても有能だったため乱獲され希少となってしまった。メーア・ウント・ベルゲン王国の絶滅危惧種として大切に育てられている。体格は中型で、力強く、頑丈な体つきをしています。主に農作業や運搬などに使われてきましたが、軍事転用にも想定されていた。


神よ、この食卓に集った者たちの幸福と安全を祈ります。今日の食事が私たちに栄養を与え、心身を癒し、絆を深めるものとなりますように。感謝いたします。


パパタローとカリンは祈りの言葉を待って食事を始めた。

手を合わせ「いただきます。」と言う、二人を不思議そうに見ていた。

お国の食事の挨拶ですか?

"いただきます"は、食事を始める前に神に感謝を捧げる日本の習慣です。それは食べ物をいただくことができることへの謙虚な感謝の表現・命をいただくという感謝の気持ちです。

「そうですか。では、我々も」

「いただきます。」


「うまいです!」

パパタローとカリンが前菜を口にすると、霧の高地で育った羊のチーズとハーブの組み合わせが口の中に広がりました。チーズの濃厚な味わいとハーブの香りが絶妙にマッチし、食欲をそそる一皿でした。主菜の肉牛のステーキと羊のローストもまた、霧の高地の素材を堪能できる贅沢な料理でした。ステーキはジューシーで柔らかく、肉の旨みが口いっぱいに広がります。一方、羊のローストはほのかな香りと深い味わいが特徴で、まさに霧の高地の風味が凝縮されていました。デザートのハチミツケーキとブルーベリークリームは、食後の締めくくりにぴったり。ハチミツの甘さとハーブの風味が絶妙に溶け合い、口の中で贅沢な味わいを楽しませてくれました。ブルーベリークリームの爽やかな酸味が、デザートをさらに引き立てます。パパタローとカリンは、霧の高地の食材を使ったこの素晴らしいコース料理を心から楽しんでいました。


「お酒が飲みたい…。しゅわしゅわ~。」

「今は子供でしょ。」

「自重します。」

「おさかにゃ~。」


「ところで、お二人はどういうご関係で…。顔が似ているようなので、最初は親子かと思ったのですが…。」

「私とカリンは直接の血は繋がっておりません。兄夫婦から預かっているのですよ。」

「私が出てきたの!あそこには戻りません!叔父さん!!」

パパタローはカリンを見て笑って言った。

「5歳の姿の子供に叔父さんは止めてくれよう。」

「もう日本あそこに戻れる気がしないんだけどね。」

「色々とご事情がお有りなんですね。」


「シラスカ…。変わったお名前ですね。」

「日本でもなかなかいないじゃないでしょうか。」

「そうですか、お国では珍しいお名前なのですね。」

「日本という国は聞いたことがありませんが、この地はメーア・ウント・ベルゲン王国に属しております。」

キョトンとしている二人を見て、察したヴィクターさんが地図を見せてくれたが、日本が無い。

日本だけではない。そこにはメルカトル図法でよく見る世界地図はなかった。


「これは世界地図ですか?」

「そうですね。まだ発見されていない大陸があるようですが…。」

「そうなんですか。」

なんとまぁ、大航海時代風の地図なんだろうか…。


そういえば、ここまで来るまでに、見慣れない文字があった。ゴブリン自体も信じられないが、豪邸の前に舗装されていない道路も珍しい…。

夢を食べる猫もいれば、話もしている、それが今は獣人化している。

魔法陣も見えるし…。

うすうすは感じていたがここは異世界ということだろう。

しかし、小さくなって転移されたのは、何か理由があるのだろうか。


「所々で魔法陣ぽいものが見えるのですが。」

「それはそれは、ではお見せしたほうが早いですね。」

と言うと、彼はグラスの上に手をかざし、短い言葉を唱えました。すると、その言葉の力で水がグラスに注がれたのです。


手品かな?ってボケても仕方がないな、ここまできたら魔法と認識するべきだろう。

さすがに口からトランプは出てきまい。

ひねくれたい衝動を抑え、素直に考えてみた結論が口から出ました。

「魔法とか魔術ですか?」とパパタローが尋ねると、ヴィクターは頷いて答えました。

「どちらかと言うと今回は魔術でしょうか。」

「魔法は超自然系で精霊の力を借りたりします。」


「そうなんですか。」


「まぁ、慌てても仕方がないか…。」

「そうです。慌てても状況は変わりません。落ち着いて、現状を受け入れながら、次にどうするかを考えるのが良いでしょう。」


パパタローの興味が別のところにうつった。

「何か気になることでも?」


「私にもそれ《魔術》を使えますか?」とパパタローが尋ねると、ヴィクターは考え込んでから答えました。「そうですね…」

「パパタローさんには右目の印を中心に魔力を感じます。」とヴィクターは深く考え込みます。そして、しばらくの間、考え込んだ後で言いました。「可能性はありますね。ただし、魔力を使うには訓練と理解が必要です。もし興味があれば、一緒に学んでみましょう。」


「いいんですか?」

「もちろんです。では、基礎中の基礎ですね。私に続き、同じ呪文スペルを唱えてください。」

「ウォーターボール」

「ウォーターボール」

パパタローの手がグラスの方へ伸び、短い唱えを始めました。

「うわわ。」


ばしゃーん


「出たというか、びしょ濡れだ。」

ヴィクターが予期して防御結界を張っていたので、他の人たちは無事でした。

「理解できましたか?」とヴィクターが尋ねると、パパタローはきっぱりと答えました。

「これは、元居た世界なら子どもたちを笑顔にできますね。」とパパタローは大道芸にでも使うイメージなのだろうか、ヴィクターにそう言った。

何やらパパタローの脳内でワールドピースが展開されているようだ。

パパタローの魔力によって、子どもたちが笑顔になり、幸せな世界が広がる可能性を感じたのだ。


それを見てカリンも詠唱してみた。

「ウォーターボール」

……

何も出ない。


あれ?

カリンが不思議がって、"これはどういう原理なんですか?" と尋ねると、ヴィクターは微笑みながら答えました。「エネルギーに術を使うことで、何か生み出すのです。つまり魔力に特定の呪文やエネルギーを使うことによって現実を操作することができるんです。これを自然界のエネルギーを利用するのであれば魔法とか自然界のエネルギーに依存しない魔術といったりします。

ただし、その詳細な原理や仕組みは非常に複雑で、理解するのは難しいのです。使い方は魔理ともいって魔法のことわりと言います。心理、道理、倫理、地理、数理、物理とか言うでしょう。」

「確かに、水が集まるイメージを持つことで、物理的にそこに水があるかのように魔力を使うことができます。魔力はイメージや信念にも大きく依存します。そのように考えることで、魔力をより効果的に使うことができるでしょう。」


カリンが試してみたものの、うまくいかない。魔法を使うには、訓練や理解だけでなく、個々人の感性や才能も関与します。失敗は成功への近道であり、王道でもあるのです。練習を積んでいくことで改善されることもあります。諦めずに続けてみることが大切ですよ。


「カリンは頭がいいからな。考え過ぎなんだよ。」

「つまりは、閃き・想像力だな」


ん~…。

「どうされました?」

「いやもしかして。」

「ファイヤーボール」パパタローが唱えると、さっきの水の玉が出て落ちた。

「フェイント技できた…。」

「フェイント?」


「じゃ、これは?」

「ミックス!」水玉の中に炎がある物体が現れ、落ちた。

「すごい!」


「もしかして!えいっ」。水と炎が螺旋をかいて現れ、消えた。

掛け声のみで、魔法が発現した。

「何だか疲れますね。」


「そうでしょう。パパタローさん、忠告しておきますが、イメージは安定的にできないと、命を落としかねないですよ。」

「はぁ。」パパタローは理解できないでいた。


「さて、それはさて起き…、お名前の件です。」

「名前ですか?」

「はい。白洲花はこちらでは問題になりそうですので、名前を変えたほうが良いでしょう。」

「なぜですか?」

「うまくいえないのですが、名前の響きが王家のミドルネームと似ているのです。ミドルネームは一部の者しかわかりませんが。」

「わかりました。トラブルは避けたいですので、名前を考えます…。」


パパタローが閃いた。

スターレット・ソレイユ。

「パパタロー・スターレット・ソレイユ、

 カリン・スターレット・ソレイユ。

 …なんてのはどうでしょうか。」


「こちらでしっくりきそうです。何か意味はあるんですか?」

「車から名前をいただきました。意味は「小さな星」・「太陽」です。」

「壮大なお名前ですね。」

壮大な名前に改名したパパタローは根拠なく気持ちが大きくなっていた。


「こちらが特に大事な話ですが…」

パパタローさん、右目に狐の模様がありますね。

あと、カリンさんの右腕にも…。


生まれてからですか?


パパタローとカリンは思い出すようにがんばったが、覚えていない。

いや、ないですね。この世界に来た時についたのかな。

何か大事なことがあった気もするのですが…。


そうですか…


私の推測ですが、生まれ変わったわけではないようなので、異世界転移時にそのしるしは付けられたのでしょう。

ただ、それがないと、魔力を持ち合わせていないあなた方は、こちらの世界では生きていけないようです。

厄介なのは、その印は魅力チャームの印になっているようで、魔物を引き付けているようです。ですので、知らずに貴方の目を見つめると魅惑的に見えてしまうようです。

ここは結界内なので、ある程度は問題ないのですが、

このまま制御せず放置することは魔物が少しづつ集まってきて危険です。


カリンさんは、チャームではなく、風特性 機敏さ俊敏さがあるようです。

狐の特性でしょうか。

クラウスとの剣技を思い出し、道理で…と思った。


「魔法陣が見えるのですが。」

「上級魔力持ちになると見えるようになります。基本的には見えません。紫外線が見えないのと同じでしょうか。印の効果でしょう。」

「なるほど。」


ヴィクターはカタリーナを見た。

カタリーナは隣の部屋から、お盆の上に2つのアイテムを持ってきた。

「魔力の制御ができるようになるまでは、こちらをお使いください。」


パパタローとカリンはアイテムを付けてみた。

「どう?」

「どうって言っても…。」

リストバンドと眼帯と言ったところだろうか。

ヴィクター・シルバーハートはしばらく考え、口を開いた。


「このまま敷地外でても大丈夫ですが…」と言いかけヴィクターは考えた。

「どうだろう。ここで出会ったのは何かのご縁ですし、住み込みで働くというのは。午前は農場で働き、午後から勉強や剣技、魔法の特訓をしませんか。」


そのとき、給仕をしていた男が割って入った。「旦那様、発言をお許しください。彼らは呪いの印を持っているのです。魔導具で押さえたからと言っても、魔物がよって来るのですよ。」


「テリアス!」とカタリーナが止めに入った。


ヴィクターは深く考え、重要な問いを投げかけた。「テリアスが心配するのももっともです。しかし、ただ見て見ぬ振りをするわけにはいかない。もし、その印が悪用された場合、私たちはどうすべきでしょうか。私の監視のもとで、彼らが安全に過ごせるように配慮することが、社会全体のためになります。」


「わかりました…」とテリアスが言う。


パパタローとカリンは顔を見合わせた。

「テリアスさん申し訳ありません」とパパタローが謝罪する。

「ぜひ。お願いします。」とパパタローが答えた。

「ではパパタローさんにはミストハイツの農業を手伝っていただきます。」とヴィクターが言うと一人の男を呼んだ。


「旦那様、お呼びでしょうか。」とアシュレ・アグリ・ノイという男が現れた。

アシュレは牧場の主任として信頼され、姿勢や自信に満ちた表情があった。


40代前半だろうか。牧場の環境で働く人物としては、清潔感があり、適切な身だしなみを整えていた。筋肉質でがっしりとした体格で牧場の仕事は肉体労働が伴うことが多いため、筋肉質で健康的な体格になったのだろう。


「遠いところすまん」

「いえ問題ありません」とアシュレが答えた。


「明日から、彼に仕事を手伝ってもらいます、パパタローさんです。」とヴィクターが告げた。

5歳の姿のパパタローに驚いていたが、経緯を話した後、アシュレ・アグリ・ノイは「分かりました。旦那様の言いつけとあれば」と応じた。

「ミストハイツの大地には精霊が宿っています。パパタローさんの印と魔力制御にきっと役立つことでしょう。明日の朝からお願いします。」とヴィクターが語った。

「ありがとうございます。」とパパタローが答えた。


「そして、カリンさん。」とヴィクターが次に言った。

「はいっ。」

「カリンさんには私の息子クラウスを手伝ってもらいます。」とヴィクターがクラウスに指示した。

クラウスがニコッと笑った。

「彼は元商人ですので、人とのネットワークは広いですよ。また、空いた時間に、剣術を磨き上げてください。」とヴィクターがクラウスを見ながら話した。

「ここは、魔法と剣の世界です。いつか、元の世界に戻れる日がくるかもしれません。その時のために、今を生きていく準備をしていきましょう。その日を待ちましょう。」とクラウスが続けた。


今後のことが見えてきたことで、心軽やかになったパパタローのいたずら心が芽生えた。

パパタローは今度は窓を開け、窓から手を出した。

「今日は止めたほうがいい。倒れますよ。」とヴィクターが忠告すると、パパタローは従おうと窓から手を引っ込めようとした時、指から薄っすら水が溢れた。そのままパパタローは意識を失ってその場で倒れ込んだ。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


肉球の柔らかさとほどよい湿り気、そして指で触れたときのぷにぷに感。まさに至福の体験。これぞ肉球フェチのための極上の至福だな。愛らしさと温かさ、この何とも言えぬ重さ…。いや、重い…

はっと目覚めると猫娘?がタイのマッサージのようにパパタローの顔に乗り、ふみふみしていた。時々、コサックダンスぽいものを取り入れたときは、頬が波打った。


「パパタロー、起きてくれないにゃ〜」とムニンが楽しげに長い尻尾でバランスを取りながら踏みつける。

ふみふみふみふみ~踏みつけられていおるのに喜ぶパパタローはMだにゃ~。そんな僕はSなのにゃ~。


「喜んどらんわ!。猫娘!」と少しモゴモゴと叫んだ。何度か足が口に入る。

「ははぁ~ん。タロっちは何か勘違いをしているにゃ。そして何かよこしまだなや。」

「勘違いでよこしまって何だよ」

「僕は娘じゃないにゃ。対義語だと…えっと息子にゃ!」

「え”!?男か!?」と驚きで口が空いた時、足が入った。…。うげっ。

白いピンとした眉毛が数本、あと髭。長い尻尾は猫のしなやかさと俊敏さ、耳は感情や状態によって、耳の動きや角度が変化し、彼の表情や心情をより豊かに表現しているが、息子か娘か見分けがつかなかった。


「お前、眼の前の男がショックがっていることを喜んでるだろ。」

「大体、誤解を与えるような、その胸はなんだ!?」

「もふもふでしょ。それともパパタローは何だと思ったんだにゃ?」

耳がピンとなった。

「くっ」言い返すことができないパパタローだった。



「いやー、パパタローの駄々漏れ魔力の顔の上で寝てたら、また獣人になっちゃったにゃ。これは病みつきになりそうだにゃ。」

「分かった。人の顔の上で人を見下しながら会話するの止めてくれ。」とパパタローが言った。


「あっ。ごめん。」そう言うと上を見て黙っていた。

「…」。

「あの…ムニンさん、どうされたのですか?」

「パパタローさんのリクエストで上を見て黙っているのです。」

「そういうのはいいから。俺は、重いから顔から降りろといってんの。軽いって言えば軽いけど。あー、そんなのどうでもいい!足が口に入るから。」

「『重い』『重くないって』って、どっちなんだにゃ。パパタロー君。だいたいこの後、パパタローの涎で汚れた足を洗う身になってみてよ。」ムニンがむっとした表情で言う。

「ムニン君、寝てる男の顔に乗ってる時点でおかしいと思いなさい。というか、その前に御前の足は綺麗なんだろうな」パパタローがむっとした表情で返す。

「歩く時は素足だからね。てへっ」とムニンは猫ポーズで舌を出して無邪気な表情をした。

「何が『てへっ』だ。ごまかすな。口の中が砂っぽいよ。じゃりじゃりだ。」パパタローは舌を出した。

「変なもの踏んでないだろうな!」

「そういえば…」

「あ!やっぱいい、聞きたくない聞きたくない。あ~~~~~~~~~~~~」

パパタローは耳を両手でパタパタと叩きながらあ~あ~と叫んだ。

「聞いてよ!顔の上で寝ていたのはね、パパタローが悪夢に襲われないようにしてたんだにゃ。お陰で幸せな目覚めだったでしょ。まぁ、起きなかったら、こないだゲットした悪夢を植え付けてみようと思ってたにゃ!うなされて起きるのも一興だにゃ。」とムニンが言った。

「夢食いは僕の得意技だからねっ。特に悪夢はねっ」とムニンがキックのポーズで言う。

「結局、お前の自己満足じゃねぇか~~。」

ムニンの言動は中々スルーできず、パパタローは質問しあぐねていた。


コホンと一つ咳払い。

「気持ちを切り替えて。ムニンくん質問だよ。」

「何だい?タロっち」

「女カテゴライズの猫族の得意技は?」

「さぁ?会ったことないからなぁ…いい夢を見せてくれるんだっけ?悪夢だっけ?」

「会ったこと無いんだ…。結婚とかどうするんだ?」

「僕は獣人だから、人間でも恋愛対象さっ。僕は愛に従順なんだにゃ。」

「あ。そ。」


「で、阿呆あほうな話をしてる間に…4時かぁ…。寒っ。寒いわ~。」とパパタローが白い息を吐きながら言った。


「おはようございます。パパタローさん。」

「おはようございます。カタリーナさん。こんな早くどうされたんですか。」

「外にアシュレさんの迎えが参っております。」

「こんな早くしかも寒い中、何だか悪いですね。」

「いえいえ、そう思いまして、これを使ってください。」

と、カタリーナはパパタローに作業用のつなぎと、もふもふのジャケット、手袋、帽子を渡した。

「ありがとうございます。これは暖かそうだ。早速。」と袖を通した。

「あったけぇ~」


「あれ、この猫耳の方は?」

ムニンがニヤニヤしてカタリーナを見ていた。

「! もしかして、ムニンちゃんですか!?パパタローさんに男にしてもらったんですね。夜の内に立派になられて…。」

「にゃ!」

「誤解を受けるような発言は控えてくださいね。カタリーナさんっ。」

「そういうつもりじゃ!」とかカタリーナが顔を赤くした。


この後、カタリーナとムニンはパパタローの存在をそっちのけで女子?談義に花を咲かせていた。


…この間に顔洗ってこよう。

「ふぅ」

「顔は5歳でも言ってることがおっさんだぁ。」

「7歳くらいに成長したかな…。」

鏡を見ていたパパタローは顔を洗い、拭いたタオルを肩にかけ、外に出た。

空はまだ暗く 息が白い。星がびっしりと煌めいていた。綺麗を通り越して怖さがあった。


「いつ見ても広いですね。」

「ほんとにゃ。広いにゃー。」


カタリーナとムニンが外にやって来た。

3人で星空を見ていると、黒い翼が舞ってきた。徐々にパパタロー達の頭上にまで来たかと思うと、ほこりをたてて、地上に降り立った。

アシュレさんが馬の体に鷲のような頭と翼が付いたような動物で舞い降りてきたのだ。


「パパタローさん、お早うございます。」

驚きながらパパタローは、「アシュレさん、おはようございます。これは?」

アシュレさんはその動物の顔を撫でながら説明しだした。

「ここで育てている、ヒッポグリフです。絶滅寸前だったのですが、ヴィクター様が絶滅危惧種のヒッポグリフをこの地で保護して、育てています。人間に育てられてしまったので、野生には戻れませんが、それでも意義があることです。

ということで、パパタローさんには、この子たちの世話をしていただきます。

早速ですが、背中に乗って、手綱たづなを取ってください。」とアシュレが言った。


一人は心細いなと思ったパパタローはとっさにムニンに言う。


「ムニンも来る?」

ムニンは満更でもなさそうだ。

「いいのかにゃぁ~」

「パパタローは私の価値が分かっているなぁ。」とムニンがニンマリした。

アシュレさんが、「まぁ、問題ないでしょう。仲間はたくさんいても困らない。」

「OKがでたぞ。」パパタローがムニンの猫耳頭を荒っぽく撫でた。「よろしくな!」

「ちょっと!猫毛が乱れる!」とムニンが逃げるように言った。

カタリーナさんとアシュレさんが笑っている。


「牧場までは40キロ程度先なので、道はある程度は整地されてますが、馬車で5時間がかかります。ヒッポグリフだと30分程度です。」とアシュレが言いました。


「へぇ・・・。」

30分程度ということは時速80キロかな。

パパタローはおそるおそる、手綱たづなを掴み背中にのった。

ムニンは軽々とパパタローの後ろに乗った。

羽がすべすべで気持ちい。羽の中は温かい。

「これは…眠いにゃ」ムニンは丸くなって羽の中に入っていった。

「では!現地で!会いましょう。」とアシュレさんが言い、ヒッポグリフのお尻をたたくと、その場で軽快にジャンプし、一気に上空へ加速し飛び立った。加速時は呼吸ができなかったパパタローだったが水平飛行になると、呼吸ができるようになった。

地平線に、今にも太陽が頭を出しそうに、濃いオレンジ色が広がっていた。

陽が出ると、大地が呼応するようかのように、風が吹きが葉を揺らし、夜露を振り払った。風が吹く度にキラキラと輝いていた。


「眩しい」とパパタローは手で目を覆った。

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