第5話 体がちっさくなっちゃった!

ノリシオが口から炎を吐いて、外の化け物と戦ってくれている。

俺達もこの場から何とかして逃げなければ!


「カリン、お前、その体でどの位動ける?」

「アクセルとブレーキの操作できそうか?」

パパタローがシートに立ち上がり、ハンドルを握りしめた。

「なるほど!やってみる。」と、パパタローの行動を見たカリンは何をしたいのか察し、助手席に上がり、運転手席の足置きの空間に降りて小山座りをした。

ペダルに届くか試すが、あとちょい足が届かない。

それを見たパパタローが後部座席からゆるきゃら 富士ちゃんぬいぐるみを背中に押し込んだ。

「届いた!」

もう一体の富士ちゃんぬいぐるみを渡した。

「安全のためにもう一個ぬいぐるみを体の前におけ。アクセルとブレーキの指示は出すから、そのとおりに押せ!ここから逃げるぞ!」

と、パパタローも立ち姿勢でシートベルトを一応取り付けた。


「パパタロー、頭いい!」


「いくぞ!」


ノリシオが守ってくれていることもあり、少しリラックスしたパパタローは脳に酸素が回ったのか奇行な行動をした。


スマホをいじりだした。

「4649」っとパスコードを打ち込み、宇宙人の画像が出てきたかと思うと、

低音が森に鳴り響き、ギター音が悪魔の叫び声のようだ。 何て歌っているのかわからないボーカルの声が断絶魔のように響いた。

デスメタルを爆音で鳴らし、ライトをハイビームで点灯し、音楽に合わせクラクションをデタラメに鳴らした!


「うるさぁーい!」カリンが両耳を押させて叫ぶ


「なんだって!?」パパタローが叫び返しながら、音を切る。

「う!」「る!」「さ!」「い!」「っ!」カリンが更に大きな声で叫んだが、

うるさいの言葉が響いた。

「うるさい…」とバツが悪そうに小声で話した。


理解したパパタローは

「OK!うるさい上等!」

っと再びデスメタルを最大音量で鳴らした。

どうやらパパタローの思いつきは成功したようだ。

ゴブリンは聞いたこともない騒音に怯ひるんでいる。

ハイビームの先には、舗装はされていないが、道が見える。走れる!

空からノリシオの援護で、ゴブリンに攻撃を仕掛け、ゴブリンがひるんだ。

ノリシオはフロントガラスに舞い降りてコンコンとつつき、飛び立った。


着いて来いって!?

OK!

カリン、アクセルを押せぇ!!


赤い車はデスメタル♪を撒き散らしノリシオを追った。

「♪終焉の月夜」

闇に満ちた夜・月が静かに輝く

死神の影が闇を彷徨う

血みどろの地獄へと堕ちていけ

悪魔たちの狂乱がはびこる

暗黒の淵で目覚める

ゴブリンの笑い声が響く

女たちの叫びが闇に消える

逃げられないぜ、この終焉の時に

悪魔の囁きが耳をかすめる

死神の鎌が命を刈り取る

血と暗闇が狩りを始める

地獄の炎が全てを焼き尽くす

月夜の闇に身を委ねよ

女たちの叫びが響き渡る

血みどろの地獄に堕ちるがいい

逃げられないぜ、終わりの時まで~~~~!!!!!!!


「だめでしょこの歌詞!!!逃げられる歌はないの!?」

カリンが叫んだ。

「なんだって!?」パパタローにはまたも聞こえてなかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 


「なんとか逃げれたね!屋敷の光が見えない?」と操作を止めた。光が点滅している。車のライトをオン・オフすると、相手もオン・オフをした。

カリンは少しほっとしてパパタローの席に手を付き、胸を撫で下ろした。

パパタローは爆音を消したことで、まわりに静寂の暗闇が戻っていた。

何とかあそこの屋敷まで行こう。


立ち運転中のパパタローはバックミラーを見た。


「しつこいなぁ…。」


後ろから、ゆっくりと、でも着実にゴブリンが追ってきている。


「カリン、アクセルだ」

「えー、またぁ~?」


泥濘ぬかるみで車は思うように早く走れない。


前方にある大木の根元が光ったのが見えた。

上空で驚いた鳥たちが一斉に逃げ立ち、月明かりの空に黒い影が増えていった。

大木はゆっくりと傾き始め、轟音と共に倒れた。

その大木が行く手を阻んでしまった。


「うわ~、カリン!!ブレーキだ。ブレーキ!!」

パパタローが叫ぶとカリンが一気にブレーキをかけたことで、車が右にそれ何匹かのゴブリンをサイドから引き倒した。

そして倒れた大木の根元辺りから、数十匹のゴブリンが現れた。


偶然、ゴブリンを轢いてしまったパパタローが気が付いた。そして、細い糸がプチッっと切れた。

「もしかしたらなんだけど…。車のほうが強いよな。ひき逃げは気が引けて遠慮していたんだが…窮鼠猫を噛むだな。」

自分たちを傷つけよう・殺そうとしてくる者に対して、逃げること一択だったが、追い詰められたことで、返り討ちにするほかないと覚悟を決めたのだ。


車内で準備している間、各ミラーやら気配やらゴブリンたちが車の周囲をじわじわと取り囲んでいるのが分かった。


「そろそろかな。」と料理に胡椒を少々的な軽い感じで鼻歌を歌うパパタローが何だか怖い。


数匹のゴブリンが斧や棍棒を振りかぶりながら突進してきた。

ハンドルを目一杯、左に回し、カリンに合図を送り、アクセル全開にふかした。

エンジンの轟音が森の中に響き渡り、泥水が車体の周りに飛び散っている。

車はスピンし、周囲にいたゴブリンをなぎ倒した。

車体に肉片がぶつかる鈍い音がした。

車のボディは激しい戦闘の影響で傷だらけだ。泥濘の中を激走し、ゴブリンたちをなぎ倒した結果、車体にはひび割れやへこみがたくさん生じていた。周囲の木々や岩などの障害物との激しい接触によって、塗装も剥がれ、ボディ全体が傷んでいる。


「きゃぁ~~~目が回る~~~~」


しかし、そんなことをうれいてる場合ではない。

今度は前方にいるゴブリンに仕掛けようし、一瞬、車を止めてしまった。

天井がボコッと音がしたかと思うと、斧で切りつけられ、空と涎を垂らした赤い目をしたゴブリンが現れた。斧を振りかざした。



キャーーーー!!



そこの子供達よ!

助かりたいなら前方の結界に飛び込むんだ。

車の前に人影と闇が現れた。


「本当だな!」

「…」


返事を待てるような時間はない。

車の上にはゴブリンが斧を振りかざしているのが、コマ送りのように見えた。

仮に体が大人であっても、この状況では非力であることが分かっていた。

「この声を信じる!」

「カリン!アクセル押せ~!!」

「え~。知らないよ!!」とカリンがアクセルを両手で抑え込んだ。

天井のゴブリンがバランスを崩し、地面に落ちた。

前方のゴブリンがライトで目をやられ動けなくなっている所を跳ね飛ばし、フロントガラスに飛び込んで、ガラスにヒビが入ったがそのまま後方へ飛ばされていった。車は見事、結界に飛び込んだ。


月明かりの逆光で顔こそは見えないが声の主が独り言を呟く。

「騒がしいと来てみれば、魔物が入り込んでいたか。しかも子供を襲っているとは。領主として、これはとんだ失態だ…。」

何か唱えると地面が泥状化し、ゴブリンが土下に飲み込まれた。それまでの喧騒が一瞬に静寂に包まれた。


「土に還れ」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 

車は球体の結界の中で反転していた。

「カリン、無事か?」

「もうダメェ~~~。」

車の中でエアバックが作動し、二人はひっくり返っていた。

流石さすが、日本製エアバックだ。


闇から身なりがきちんとした、初老の白髪の紳士が現れ、

パパタロー達は割れたガラスから、なんとか這い出した。


2人の子供に初老の紳士は驚いている様子だった。


「助けて頂きありがとうございます。白洲花しらすか 太郎たろうとこちらがりんです。」

「…先程の声の方ですか?」

「そうです。この領地を治めておりますヴィクター・シルバーハートと申します。」

「我が敷地内で魔物が出現してしまい、大変申し訳無い。」

「今日はさぞ疲れていることでしょう」

「我が家に泊まっていきなさい。」

「ありがとうございます。」

「ありがとうございます。」

二人は礼を言った。


「詳しい話は明日聞かせてください。」


パパタローはヴィクターが空を旋回しているノリシオを見ているのを気がついた。

「あれは、パパタローさんの従魔ですか。」

「そうみたいです。」

「ありがとう~ノリシオ!助かったよ~。」とカリンが小さな手を振ると、ノリシオがどういたしましてと返事をしているように鳴いた。

ヒョエ~

「従魔に感謝の言葉ですか。確かにそういうことも必要かもしれませんな。気付かせくれてありがとう。」

「いえ?」


「カタリーナ。子供たちの案内を頼む。私は念の為、見回ってくるよ」そう言うと、ヴィクターと替わるように、カタリーナという女性が暗闇から現れた。

「かしこまりました。御主人様。」

カタリーナが会釈をした。

「ヴィクター様のメイドをしておりますカタリーナと申します。」

彼女の笑顔は、暖かく、親しみやすく、周囲の人々に安心感を与えてくれる。

透明感のある美しい肌で、華奢に見える。

長い黒髪は、しっとりと輝き、軽やかに揺れる姿が一層に魅力的に見える。

彼女の大きな目は、海を思わせるような深いブルーで、その瞳には、強さと優しさがあった。

カタリーナはヴィクターのメイドとして恥じぬように服装を常に清楚で整然と着こなしており、彼女の整った容姿と優しい性格は、彼女が自分の仕事に真摯に取り組む姿勢をより際出せていた。


「太郎さん、凛さん。失礼しますね。」と断りを入れ、パパタローとカリンを抱き上げた。


カタリーナのふわっとした感じに二人は心地よさを隠しきれず、抱き運ばれている間に眠ってしまった。

「あはっ。小さい…。大変でしたね…。ゆっくりお休みください。」

カタリーナも小さな2人を抱きかかえ幸せそうだ。

客室に通され、ベッドに寝かされた。

カタリーナは暫くの間、2人に付き添ってベッドの端に座って頭を撫でていた。


外の木にノリシオが止まって、二人を見守っていた。

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