第15話 魔王城では?

 朝俺が起きてこないのを不審に思ったポッチャリさんが隣の俺の部屋を覗くとベットに敷いてあったシーツごと俺がいないのだ。

 夜間は部屋で寝ているか、眠れなければ部屋の隅に壁に向かて座禅組んでいるのでいないはずがない。

 ただベットのシーツが無いので


『寝小便でもして水場で洗いに行ったか?

 最近は大人ぶって私の相手をしてくれないので、少しいじってやろう。』


と水場に行くがいない!

 洗ったり干したりしたシーツも無い!

 慌ててエンマ様に報告に行く。

 魔王城では上を下への大騒ぎである。

 ベットの下から便壺の中までありとあらゆるところが探された。・・・というのも一応俺は妾腹とは言え王位継承権第一位の王子で、公爵家・宰相の娘で第一夫人のエンマ様が俺の後ろ盾になっているからだ。


 エンマ様もポッチャリさんも俺を青い顔をして探し回る。

 王宮の隅々は勿論の事俺が良く行く母親・愛妾の元別宅までも探し回るが見つからない。

 特にポッチャリさんは俺専属の女官で夜間では俺の健康管理等の責任がある、だから見つからないと責任問題で最悪処刑されてしまう事もありえる。

 エンマ様は実家の宰相にも手を回しているが、実際に捜索に当たるのは第三夫人の実父牛将軍の息がかかった近衛騎士団が当たるので本気で探していない。・・・そのうえ俺を誘拐した張本人が近衛騎士団だから当然か!

 

 一応形だけだが政敵になる第三夫人の宮殿にも捜査の手が入る。


「フンどれだけ私の宮殿を探しても見つかるはずがないでしょう。

 私は何もしていないのだから。」


と言って鼻で笑っている。

 実は第三夫人はで、ドス黒い靄を纏った女官と近衛騎士団を使って城の外に俺を連れ出してしまっているのだ。

 どれだけ第三夫人の宮殿を探しても見つかるはずもなかった。


 どれだけ探しても俺がいないので、ついには非常時に打ち鳴らされる鐘が


『ガーン』『ガーン』


と打ち鳴らされた。

 魔王国にある支城も同様に鐘が


『ガーン』『ガーン』


と打ち鳴らされた。

 この非常時に城にいた者、外出していた者の氏名が書きだされ、外出していたものは特にその理由やアリバイが調べられていく。


『ガーン』『ガーン』


と魔王城から非常時の鐘が打ち鳴らされるのを聞いた時に丁度俺に首を切られて馬に引き摺られた死んだ兵士をドス黒い靄を纏った女官と近衛騎士が捕まえたところだった。


『チッ、早々に戻るしかないね。

 殺された兵士はこの人族の廃村に放り込んでおけ。

 餓鬼じゃなかったがこの兵士が殺された事を口実に人族、隣国のマルク帝国と戦う事になる。』


と言って兵士を廃村に放り込み、魔王城へと取って返すのだった。

 当然のことながら外に出ていたドス黒い靄を纏った女官と近衛騎士の兵は取り調べを受けるが・・・筋書きはできている。

 ドス黒い靄を纏った女官を牛将軍・近衛騎士団副団長が直々に取り調べる、ドス黒い靄を纏った女官は


「私は本日は女官として後宮の警戒の任に付いておりました。

 深夜第一夫人の宮殿付近に、不審な人影を見かけたので当直の近衛騎士団に連絡して近衛騎士団員と共に追いかけたのです。

 しかし追いついた先は人族、マルク帝国の廃村だった場所です。

 その村に着いた時にはその不審な人物・一般兵の兵士は殺されていたのです。」


と説明した。

 尋問する牛将軍・近衛騎士団長は


「その不審な人物は行方不明になっている第一王子を連れていなかったのか?」


と聞くとドス黒い靄を纏った女官は


「何か大きな荷物を持って逃げ、その荷物を馬に括り付けていたのですが、私が人族の廃村に駆け付けた時はその荷物はありませんでした。」


ととぼける。 

 一緒に行った近衛騎士団員も同様の回答で


「人族、隣国のマルク帝国が金で殺された兵士を買収して第一王子を連れ去ったのです。」


と答え、さらに


「これは私の失態、何としても人族、マルク帝国の手から第一王子を助け出したい。」


と熱く語った。

 それを聞いた牛将軍・近衛騎士団副団長は


「さすが、我が近衛騎士団員である。

 その意気やよし!

 手兵を連れてマルク帝国の廃村近くの人族の村、ハインリッヒ辺境伯の村を襲い、第一王子を救い出せ。」


と命令したのだ。・・・ものの見事に筋書きが出来ている。

 出陣の用意は当然できているが牛将軍・近衛副団長は関係者の聞き取りも行わなければいけない・・・娘が魔王から寵愛を受けているとはいえ第一夫人に直接話を聞くわけにはいかない。・・・となれば第一王子の専属の女官・ポッチャリさんが呼ばれる。

 牛将軍・近衛副団長はポッチャリさんを見て


『これはこれは色気のある美少女じゃないか・・・罪をかぶせて性奴隷落ちさせて十分に可愛がってやろうではないか。』


と思い


「こ奴を地下牢に閉じ込めておけ。

 取り調べは人族の村から第一王子を救い出してからだ。」


と部下に命じ哀れポッチャリさん虜囚りょしゅうの身となった。


 魔王城から


『ブオーン』『ブオーーン』


と角笛が吹き鳴らされて、城門が開かれるとまるで用意していたかのように軍馬に乗った完全武装の近衛騎士団が人族の村・マルク帝国のハインリッヒ辺境伯の治める村へと出撃したのだった。

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