第14話 反撃

 俺を殺す事を請け負った兵士は後方から荷物が落ちる


『ドサリ』


という物音で振り向くと、簀巻きになっていたはずの少年が身構えている。


「小僧どうやって拘束を解いた。」


と言って馬の鞍から下げてあった戦斧を取る。


「死ね!」


と大声を出して戦斧を振り上げ、馬の腹に踵を入れた。


『ドスン』『ドスン』『ドスン』


と地響きをあげながらデカイ馬が俺に向かって来る。

 俺は守り刀を正眼の構えから脇構えに変化させる。

 脇構えは体で剣の長さを隠す構えだ。・・・その構えに変化している間に守り刀を伸ばし雷光を纏わせる。


「さあこい!」


と脇構えにとったまま兵士を迎え撃つ。


『ドスン』『ドスン』『ドスン』


とデカイ馬に乗った兵士が速度を落とさず駆け寄る。

 俺は兵士の戦斧持つ腕に向かって長くなった守り刀を振り下ろし、さらに向かって来る兵士の乗った馬を横へ飛んで避ける。

 兵士は腕を切られ戦斧を落としたのも気付かず馬に乗り


『ドスン』『ドスン』『ドスン』


と俺の横を駆け抜ける。


 俺は身体強化魔法を使って飛びあがると、通り過ぎたそのデカイ馬の乗っている兵士の背に降り立つ。

 兵士が後ろを振り向く間を与えずに持っていた守り刀で首を切り裂いた。

 動脈を切ったのか首から


『ブシュシュシュ』


と凄い勢いで血が噴き出す。

 兵士が戦斧を持つ手を首の傷に当てようとするが、腕が無いので血の勢いはおさまらない。


『グラリ』


と身体が傾くとそのままズルズルと馬の背から


『ドサリ』


と落ちた。

 兵士はしばらくビクビクと痙攣けいれんしていたが血の流れが少なくなると動かなくなった。

 俺は兵士の体から持ち物をあさる。

 兵士の乗っていた馬と俺を乗せていた馬の二頭、それに兵士の鎧と戦斧、俺を殺す手間賃の入った袋、兵士は火魔法が使えなかったのか火打石を手に入れたのだ。

 ただ兵士の鎧は臭い!脱がすのを躊躇ためらった。


 俺を殺す手間賃の入った袋の中には大銀貨5枚・・・前世の日本では50万円程の価値か・・・が入っていた。・・・俺の小遣いでも月中金貨1枚(1枚1000万円)だよ。せめて小金貨5枚(500万円)にしてくれよ!俺の命は50万円程の価値かと思うとなんか情けなくなりガッカリだ。

 これで俺が魔王城に戻っても50万円程度の金でまた殺されると思えば戻れないな・・・。

 それに近衛騎士団も俺の誘拐に加担しているので戻れば証拠隠滅の為に殺されるのは火を見るよりも明らかだ・・・無理だな。・・・と思って魔王城の方を見やれば・・・いや・・・いやいや・・・遠くに砂煙が見える。

 俺は異常に目が良いうえに身体強化魔法を使っているのでドス黒い靄を纏った女官が近衛騎士団5名を引き連れて


『パカラ』『パカラ』『パカラ』『パカラ』


と馬を走らせて戻ってきるのが見えるうえに聞こえる。

 くたばった兵士が戦う際に大声を上げていたので何かあったのかと様子見に戻ってきたようだ。


 不味い・・・どうする?

 くたばった兵士の足を乗っていた馬に括り付けて馬のお尻を軽く切る。

 驚いた馬は俺を殺害する予定だった廃村に向かて駆け出した。・・・しまった!俺の乗せていた馬も手綱が括り付けあったので一緒に駆けだした。 


 その方が良いか!・・・馬に乗って逃げても追いかけられるだけだ。

 相手からは俺は良く見えていないはずだ。

 一か八か・・・俺は運に任せて道を外れて鬱蒼うっそうとした魔の森へと逃げ込んだ。

 俺が道を外れた魔の森の木立の陰に身を隠すと。

 くたばった兵士を引き摺る二頭の馬を追いかけて、ドス黒い靄を纏った女官が近衛騎士団の兵を従えて俺と兵士の戦った場所を駆け抜けていった。


 これで窮地は脱したが血の跡が残っている。

 今回は黒い靄を纏った女官や近衛騎士団の兵は先を急いでいて見逃したが血の跡を何とかしなければならない。

 奴等が戻って来て血の跡が見つかるとこの辺りを山狩りされるからだ。

 俺は木の枝を持って戦った場所に戻って血の跡を掃いて消す。・・・何とか血の跡を消したが不自然だが仕方が無い時間さえ稼げれば。

 俺は戻ってくる黒い靄を纏った女官達に見つかる前に現場から離れようと、もう一度魔の森に向かって身を低くして駆けるのだった。

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