第13話 連れ出された俺

 俺はこの異世界に転生してから9歳になっていた。

 ところで今の俺の状態は部屋で寝ていたところを、寝ているシーツを使って守り刀ごと簀巻すまきにされているのだ。

 甘い香りの眠り香を嗅がされて意識を失っていた為に、魔王城のどこをどう進んで今が何処なのかも解らない状態だが


『パカラ』『パカラ』


と馬の蹄の音が聞こえ、歩く振動で気が付いたのだ。

 上手く動けない所を見ると簀巻きにされて、馬の背にでも括り付けられているようだ。

 はからずも俺は10歳にならずして、魔王城から放逐された。・・・いや誘拐されて魔王城から連れ出されたのだ。


 原因については心当たりがある王位継承権を巡る争いだ。

 第三夫人が王位継承権を持った第二王子を産んだのが原因だ。

 俺は愛妾から生まれたとは言え王位継承権を持つ第一王子なので、俺を排除すれば王位継承権第一位の地位が転がり込んでくるのだ。


 第三夫人は立派な牛の角を持った女性で、彼女の父親は牛将軍と呼ばれる地方豪族であり、現在父親は近衛騎士団の副団長を務めている武闘派だ。


 ちなみに俺の母親はエルフ族で国交の樹立の為に結婚したが今はもう亡くなりエルフ族とはほぼ国交断絶状態である。

 俺の保護者をしてくれていたエンマ様の母親は魔族の中でもサキュバス系の家系で、父親の方は先々代の魔王とは兄弟で公爵の地位を授かり、現在宰相を務めている。・・・ちらりと垣間見える権力闘争。


 俺はいまだ9歳とは言え身体強化魔法が使えるようになっている。

 庭の大石を軽々と持ち上げるのを見られれば身体強化魔法が使えるのがばれるのは時間の問題だった。・・・誰かに見られて称号に


『剛力王子』


と言うのが付いている。

 それに俺が後1年、10歳になるまでの間に火魔法等の魔法鑑定の儀式で認定されている魔法を覚えてしまえば、次期王、が俺で第二王子には目が無くなる。

 美少年・・・自分で言うかな・・・で剛腕王子と人気の高い俺に焦りを覚えた第三夫人が強硬策に出たのだ。


 実の子が次期王になる眼が無くなる事をうれいた第三夫人がドス黒い靄を纏った元ニーナ付き女官頭に


「目障りなジョーを誘拐して殺してしまいなさい。

 そうね殺すならば・・・ゴニョゴニョ・・・分かったわね。」


と命じたのだ。

 魔王城内では殺人はご法度だ。

 有無を言わさず犯人は処刑されてしまう。

 誘拐は・・・捜査機関・近衛騎士団が余り力を入れない。・・・外に連れ出されれば縄文か弥生時代の世界、自然豊かな森林が鬱蒼うっそうしげり人など探しようがないのだ。

 ましてや今回俺の誘拐は第三夫人の実父、近衛騎士団副団長もからんでいるのだ。


 俺は簀巻すまきにされて、馬に括り付けられて・・・魔王城の郊外の農道を


『パカラ』『パカラ』


と歩いている。

 振動で俺を縛る紐が緩む。

 胸の守り刀が抜けそうだ。

 何とか守り刀を抜いて、俺の顔の周りのシーツを切り裂く。

 新鮮な空気と太陽の光・・・朝日が入ってきた。

 太陽の状態からすると連れ出されてから6から7時間というところか。


 シーツを切り裂いた破れから外の様子をうかがう。

 大きな牛の角を持った兵士と近衛騎士団5名を引き連れたドス黒い靄を纏った女官とが何事か話している。

 話がまとまったのか、女官が牛の角を持った兵士に袋を渡している。

 兵士がそれを受け取り


『チャリン』『チャリン』


と音を楽しむように手の上で袋を何度か放り投げている。

 ドス黒い靄を纏った女官は


「頼んだわよ。」


と言って近衛騎士団の兵士を従えてもときた道を帰って行った。


「小僧はここで殺しても良いが、人族に責任を擦り付けるために、人族との境の廃村で殺してくれと言われたんだ。

 あと2時間ほどの命だな小僧。」


と兵士が独り言をつぶやくのを聞いた。

 俺は2時間後にはあの世行きなら待っているわけにはいかない。

 俺は守り刀を使ってブチブチブチと拘束している縄ごと敷布も切る。

 馬に括り付けていた紐も切ったのか


『ドサリ』


と地面に落ちると、拘束が全て解けたので自由になった。

 俺はすぐさま身体強化魔法を使って跳ね起きると、守り刀を構えるのだった。

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