第10話 インフェルノの森

 魔王城の城門を出ようとして門番の爺様に止められたのは訳がある。

 この世界にも動植物分布の境界線・・・日本で有名なブラキストン線のようなもの・・・が存在する。

 魔王城はこの世界の動植物分布の一つの境界線上で北側を魔の森、南側をインフェルノの森とに挟まれている。

 この世界を地球儀のようにして見ると、北極に高さ7千メートル級の山岳地帯が存在する。

 その中心ほぼ北極点にはこの世界の最高峰1万2千メートルの神の住む山と呼ばれる火山が煙を吐いている。

 その火山の裾野を幽魔の森と呼ばれる森が広がり、そこから南に行くと魔の森そしてインフェルノの森、赤道付近がグリンフォレストと呼ばれる森が広がる。

 南半球は北半球の丁度反対の動植物分布となるのだろうが・・・そのほとんどが海で情報は無い。

 動植物分布の境界線で見るとグリンフォレストでは前世でよく見かけた獣で、インフェルノの森から小型の魔獣が出始め、インフェルノの森よりも魔の森、魔の森よりも幽魔の森の魔獣が強く大型化、狂暴化していくのだ。


 地球儀でこの世界を見たと言ったが、この世界は天動説が主流で海は海竜等の魔物の住み家で、その先は滝のように流れて虚無へと消えると教えられ南半球に向かう者はいない。

 また時の女神の教えにより1日は24時間で1年は365日と地球と同じような暦が使われている。

 

 俺は小型魔獣の住むインフェルノの森に入り一角ウサギを1羽倒しただけで、レベルアップしてレベルアップ酔いを起こした。

 何とか母親と元住んでいた愛妾宅の中庭で倒れているところをポッチャリさんに助けられた。

 翌日もポッチャリさんに


「遊びすぎですよ。」


と怒られて、その日一日は時々様子を見に来るポッチャリさんににこやかに笑って、僕は良い子とアピールしていた。

 その翌日には力を持て余した俺はこっそりと部屋を脱け出した。

 行先は言わずと知れた母親と元住んでいた愛妾宅にある魔王城の城壁に地震などで出来た自然の階段を降りた先インフェルノの森だ。

 レベルアップ酔いは酷かったがレベルアップは魅力的だ。

 一昨日諦めた一角ウサギの肉や鞣革は跡形もなかった。


 インフェルノの森に一歩踏み入るとまたしても一角ウサギが飛んできた。

 飛んで火にいる夏の虫ならぬ一角ウサギ。

 守り刀に雷光を纏わせてスィッと切ると光となって消えた。・・・う~ん何が出るかなワクワク。

 出たよ、出ました一角ウサギの魔石に角に肉に鞣革。

 異空間収納に一角ウサギの角は小銅貨1枚(百円)だったが、肉や鞣革を入れると


一角ウサギの肉・・・食料(本当にこれだけ、そのまんまじゃん)売れば小銀貨1枚(千円)と出たのでポチッと売却ボタンを押す。


一角ウサギの鞣革・・・衣服や敷物になる。売れば小銀貨5枚(5千円)と出たのでこれも売却ボタンを押す。

 

 残った角と魔石は腰に下げた袋に入れた。

 レベルアップはしなかった。・・・う~ん?


 そんな事をしているともう一羽・・・匹でも正解らしいが、ウサギの耳が羽のように長いからと聞いので・・・が向かって来た。・・・う~ん羽と数えるほど可愛くないが鳥のように飛んでくる。


 こいつも守り刀でバッサリだ。

 光って消えたが今回のドロップアイテムは肉は無く、一角ウサギの魔石と角と鞣革だった。

 今度も鞣革を異空間収納で販売した。

 これで所持金が1万円を超えた。・・・なんか嬉しい・・・(社長)。

 今回もレベルアップなしか?


 もう一羽背後から飛んできた。・・・後ろからとは卑怯なり。・・・なんて言っていられない!

 クルリと回るように守り刀でバッサリと切った。

 一角ウサギが光となって消えた。


『レベルが上がりました。』


と言うアナウンスが聞こえた途端、めまいと吐き気がした。

 またしてもラノベでよくあるレベルアップ酔いと言う奴が襲って来た。

 まあ二度目のレベルアップ酔いだから何とか無理をして体が動きそうだ。

 今回のドロップアイテムは角と魔石だけだったので袋に入れて、魔王城の城壁をやはりゼーゼー言いながらやっとの思いで上がった。


 レベルアップ酔いで酔っ払ったとはいえ、6歳児の子供が今日だけで前世での貨幣価格1万円以上を稼いだことになる。

 汗だくだったので風呂場に行って水風呂に飛び込んだ。

 風呂の脱衣所からポッチャリさんが残念そうに覗いていた。

 夕食時食欲がないとポッチャリさんに言うと


「今日も遊びすぎですよ。」


と怒られて消化に良い物をと夕食は水のようなスープだ。

 それで俺は夕食の水のようなスープに袋にあった一角ウサギの魔石と角を砕いて混ぜて飲んだ。

 気持ち悪く夕食後は直ぐにベット倒れ込んだ。

 一角ウサギの角の精力剤の効果で体が火照って寝苦しかったが元気が出た。・・・精神年齢は28歳を超えるオッサン!・・・神田川の歌詞ではないが『襖一枚・・・隣の部屋で』・・・軽い寝息をたてるポッチャリさんを襲いそうになる心に蓋をした。

 そのおかげか翌日、身体強化魔法の発動がスムーズで維持時間も長く発動できた。


 ポッチャリさんの目を盗んで俺のインフェルノの森通いが続く。

 インフェルノの森には一角ウサギだけではなく鳥やその他の魔獣がうろついている。


 例えば一角ウサギの他には50センチはあろうかと思われる巨大な野ネズミもうろついている。

 こいつらは10匹ほどの集団で


「キーッ」「キーッ」


言いながら襲って来るので始末が悪い。

 こいつらが現れると俺もそうだが守り刀も嫌なのか凄まじい落雷を落として殲滅する。

 魔石の他には悪運の尻尾・・・人によっては幸運の尻尾とも言う・・・や肉をドロップするのだが・・・気持ちが悪いので拾う事は無い。・・・販売価格も小銅貨2、3枚(2円から3円)程だ。

 ただ魔王城の貧民街の屋台ではこの肉が中銅貨1枚(10円)程で売られているそうだ。


 その他には魔猪や魔鹿そして翼のある天馬や角のあるユニコーン等の魔馬を見かけることがある。

 魔馬は気配探知に優れているのか俺が近づく前に逃げて見かける事は無い。

 逆に襲ってくるのが魔猪や魔鹿だ。

 魔猪は魔石の他には毛皮や肉それに時々牙をドロップする。

 肉は小銀貨5枚の5千円、毛皮は中銀貨1枚の1万円、牙は大銅貨5枚の500円だ。

 魔鹿も魔石と毛皮、肉そして角だ。

 肉や毛皮は魔猪と同額だが角は状態によるが最低でも大金貨1枚・10万円にもなる高価なものだ。

 そして野ネズミ以外の集団と言えば魔狼だ。

 知能が高く狡猾で得物を自分の狩場へと誘導して仕留めるのだ。

 魔狼は魔石以外には鞣革と牙がドロップした。

 魔狼の牙は小銅貨1枚で鞣革の方は小銀貨6枚(6千円)と一角ウサギよりも高めだった。

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