第5話 母が死んだ!

 俺の横のベットに産後の肥立ちが悪く、体調が悪そうにしている母親のニーナが寝ている。

 時々魔法のライトの明かりが消えるとドス黒い靄を纏った女官が十日に一度くらいの割合で、夜な夜な現れて母親の介護をして行く。・・・う~ん気になる!?

 その女官が来るたびに母親が弱っていくのだ。・・・う~ん何かしているのか?

 しているとしか思えないが赤子の俺では手も足も出ない。・・・訴えることも出来ない!


 エンマ様が、その後何度か俺のいる部屋に来て体調が優れないニーナを見舞っていた。

 なんやかんやと言いながらも基本的にエンマ様は親切でニーナの額に手を置き魔力を流し込んでいる。

 回復魔法とはいかないまでも、それで母親の体調は良くなっているようだ。


 俺は赤子ながら周りの人の話から


① 現在、俺と母親が住んでいるのは魔王城の後宮にあるめかけの住む離れと呼ばれる区域である。


② 時々見舞いに来るエンマ様は魔王の正妻・第一夫人で魔王城の後宮の6つある宮殿のうちの1つに住んでいる。


③ エンマ様の実家は地方領主の公爵家、先々代の魔王の兄弟で、父親は宰相として魔王城で働いている。


またその暮らしぶりから


① 時代は日本では縄文時代から弥生時代にかけて、ヨーロッパでは古代ギリシャ文明頃のもので、魔法が使えるために文明文化が歪に発展しているようだ。


② 文明・・・絵画・美術が無い、建築様式も古代ギリシャ様式によく似てはいるが石を積み上げただけの武骨なものだ。・・・それで時々崩落事故が起きるようだ。

  書籍については・・・紙は無い?ただ羊皮紙や木簡を利用した書籍があるようだ。・・・俺の狭い魔王城内の行動範囲では見たことが無い。


③ 武器武具・・・石器時代から青銅文化さらに鉄器時代への過渡期?ただアーティファクトと言われるミスリルやオリハルコン製の名剣や鎧も存在するようだ。


④ 宗教・・・魔族の国では魔王が祭主の魔王教のみだ。

  一神教の弊害で他の神を否定している為に廃仏棄釈で仏教美術を壊したように絵画や美術が無くなったようだ。


実際に過去におけるキリスト教徒によるギリシャ神話の芸術の破壊、現代でもイスラム教徒による他宗派の芸術の破壊などが起きており、イスラムでは音曲までも禁止され演奏者の迫害もされているのだ。・・・閑話休題。


 そのエンマ様のお腹がだんだん大きくなってきて、俺が産まれてから十ヶ月後、女の子を産んだ。

 女の子の名前はシオリと名付けられた。


『栞・・・シオリだって?!』


不思議なえにしを感じる。

 シオリが生まれた日初雪が降った。

 暖炉にパチパチと炎があがる。

 窓はガラスが無いが不思議と寒くなかった。・・・どうやら魔法の結界によって気温がコントロールされているようだ。


 俺は歯が生えハイハイから伝い歩きが出来るようになったが・・・まだ屈辱の日は続く。

 ポッチャリに下の世話や風呂に一緒に入る事だ。


 俺は3歳になった。

 流石にポッチャリに下の世話はされていないが、風呂には一緒に入れられる。・・・う~ん本当は嬉しい・・・(社長)。

 

 俺が3歳になったその日に、それまで寝たきりで痩せぎすだったエルフ族の母親のニーナが亡くなってしまった。


『俺はまだ3歳になったところなのに・・・ところでどうなる俺?!』


等と考えていると、エンマ様が2歳になったシオリを抱えて部屋に入ってきた。

 エンマ様はベットに横たわる母親の姿を見て


「棺や葬儀の準備はどうなっているの女官頭。」


とドス黒い靄を身に纏わせた女官に聞く・・・いやいやこいつが女官頭だったの?


「いえ、まだ王から何の指示もありません。」


「王は忙しいのよ。それではわらわが葬儀の準備を指示します。

 女官頭、すぐニーナの着ていたもので、白色の一番豪華な衣装を持ってきなさい。

 それと、ニーナの使っていた化粧道具もお出しなさい。」


と命じると


「衣装も化粧道具もありません。」


とニーナ付の女官頭が答える。


『かわいそうな母親だ化粧道具も無いのか。・・・でも化粧していなくても俺の母親は美人だ!』


などと俺は思った。

 エンマ様は抱いていたシオリを俺のベットに寝かせると、ついてきたエンマ様付きの女官に何事か告げる。

 また、ニーナ付の女官頭に向かって


「細長い木の棒を何本か持ってきて、切る物も持って来てね。」


と告げる。

 ニーナ付の女官頭の持ってきた木を使って、寝ているニーナの体の大きさにあわせて木を切らせる。

俺は


『この世界には測りが無いのか。無ければ作るか、大きくなってからだが。』


と思っていると、エンマ様が


「これで棺を作らせなさい。」


と言って、木を女官頭に持っていかせた。

 俺は


『魔族であるエンマ様にとってエルフ族は敵ではないのか?』


と思っていると、俺のベットで寝ていたシオリが目を覚まして大声で泣きはじめた。

 エンマ様はシオリを抱いてあやすとニッコリと微笑んだ。

 魔族のシオリの頭にも山羊の角が生えているがとても可愛い。

 俺はそんな二人を見て母親が亡くなった寂しさを覚えてポツリと涙をこぼすとエンマ様が俺を抱いてあやしてくれた。・・・う~んその行動に


『エンマ様が閻魔様でなく仏様になった。』


等と考えるとエンマ様が俺を睨んで


「今、何か不埒な事を考えたでしょう。」


と言いながら俺の頬を指で突いた。

 しばらくしてエンマ様付きの女官達が持ってきたエンマ様の化粧道具で、エンマ様自らがニーナの死に化粧を施した。

 エンマ様の豪華な衣装?素材が麻から絹になっただけなものに着替えさせる。

 死に装束が整うとニーナ付の女官頭が部屋に棺を持って来た。

 棺の中にニーナを横たえさせると、エンマ様が


「これから三日三晩ニーナの喪に服すること、葬儀は三日後に行う。

妾は、その間このニーナの部屋でシオリとジョーとともに過ごす。」


と言って、シオリと俺を抱きかかえる。

 三日後、魔王主催でニーナの葬儀が行われた。

 魔王は葬儀が始まるとすぐ出て行ったが・・・?

 ニーナの葬儀、火葬後エンマ様が


「後六年後、ジョーの魔法鑑定の日まで妾の子として育てる。」


と宣言したのだった。

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