第9話 魔王ダンジョン
魔王ダンジョンとは魔王が創造した巨大迷宮だ。
入り口は神聖アリアンツ帝国の王都スタンフォードの中心部にあり、1000層とも言われる巨大迷宮の最下層で魔王が待ち構えている。
魔王ダンジョンは【
もちろん、龍穴の恩恵はダンジョン冒険者にも適応される。
冒険者はダンジョンで死んでも一定の時間が経過することで自動的に蘇ることが可能だ。そのためダンジョン冒険者にとって死は割と身近だったりする。
『うっかり昨日、死んじまったよ』
『良かったな。死んだのが魔王ダンジョンで』
などという冒険者同士の会話が酒場やギルドで平然と交わされる。
ちなみに繰り返し蘇る魔物たちを放置しておくと大変だ。大量発生した魔物はダンジョンより溢れ出て地上の人間を襲うのだ。
実際、冒険者ギルドが設立される以前は、魔物が頻繁に地上に溢れ出て来て魔物の大群に襲われ多くの人々が命を落としていたらしい。
要するに魔王の存在は定かではないが、魔王の眷属たる魔物が人間にとって大いなる脅威であることは確固たる事実である————。
端的にダンジョン冒険者はそれら魔物を間引くのが仕事だ。
ユウヒも魔物討伐のクエスト報酬と魔物の素材などを売って生計を立てている。
危険も多いが、これがなかなかに良い稼ぎになる。良質な
世界は魔王ダンジョンで廻っていると言っても過言ではない。戦う術があるのならば、ダンジョン冒険者にならない手はないのだ。
皮肉なことに魔王ダンジョンは脅威であり同時に恵みでもあるのだ。
そのため冒険者にとって『仮に勇者が魔王を討伐してしまったら魔王ダンジョンはどうなるんだ?』という懸念は尽きない。
金のなる木を失うことを多くの者たちは恐れているのだ。
結果『せめて俺が生きてる間は討伐されないでくれよ魔王様』などという不謹慎な願いが生まれる。
見事なまでに人間は魔王の掌の上で踊らされている。人間の欲望に付け込むのが狙いだとするのならば魔王とは本当に恐ろしい存在である。
ユウヒたち三人が受付カウンター前に集合すると、受付嬢のナタリーがクエストの説明を開始する。
「密猟者は魔王ダンジョンの魔物を地上に持ち出して、ペットとしてブラックマーケットに流してるわ。ダンジョン産の魔物を地上に持ち出すのは違法よ。ダンジョン条約で固く禁じられているわ」
「そう言えば……ここ最近、ダンジョン産のペットが飼い主に襲い掛かり大怪我を負うという事件が多発して話題になっているな」
忘れてはならない。どんなに可愛らしい見た目をしていたとしても、魔王の眷属たる魔物にとって人間とはあくまで敵対的対象なのだということを。
ユウヒが代表して確認する。
「ナタリー。シャドウギルドにこのクエストが回ってきたということは、密猟者は別に生かして捕える必要はないってことだよな?」
魔物討伐や素材収集など一般的なクエストは冒険者ギルドが請け負う。
一方で『対冒険者』などの荒事ごとは、対人スキルや隠密スキルを得意とするシャドウギルドの冒険者が請け負うのが通例だ。
「もちろん。むしろ依頼者は見せしめに『皆殺し』にして欲しいそうよ」
受付嬢が平然と応える。これは生き死にの軽い魔王ダンジョンならでわの日常会話である。
「ちなみに依頼者はセブンブレイズよ?」
「ふむ。魔王ダンジョンの治安維持も勇者の務めということじゃな」
「皆殺しにしろとか勇者様も意外と過激っすね!」
「いや、密猟者どもが派手にやり過ぎたってことだ。勇者様たちを怒らせちまったんだよ。おー、怖い怖い」
「そういうことよ。ちなみにセブンブレイズの金払いはいいわよ? 報酬には期待してもらって構わないわ」
「ヒュ~♪ いいじゃんいいじゃん! ユウ兄! 受けよう受けよう!」
「うむ。受けて構わんぞ」
仲間たちは乗り気だ。
「分かった。ナタリー。手続きを頼む」
黒髪青年たちはクエストを受注して慣れ親しんだ魔王ダンジョンに向かう。
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