第11話 石見かのかの大親友

「ねぇ琴葉、あんた最近すみれとゆかりと何かあったの?」

「んぐぅっ!?」


 すみちゃんとゆかりちゃんが飲み物を買いに行った、5月も終盤のお昼休みの屋上。2人で何気ない話をしていた最中に、かのかは突然そんな事を言ってきた。


 当然心当たりしかないわたしとしては、その発言に飲んでいたお茶を吹き出すしかなかったわけで。というか、かのかはなんとなく気づいてたの!?わりと普段通りに接していたのに、やっぱりかのかって変なところで鋭いよなぁ………。


「言っとくけど、琴葉の態度が分かりやすすぎるだけだからね」

「そんなぁ!?わたし、滅茶苦茶ババ抜きとか得意なのに!」

「それ多分、他の人が琴葉に気を使ってくれただけだと思うよ……」


 そ、そんな事はない!とも、若干言いづらい……。現にこうして、かのかには完ぺきに思考が読まれ切っているわけで……。


「まぁ、琴葉が分かりやすすぎるのはおいといて」

「おいとかないで!?」

「琴葉、ほんとに2人と何かあったでしょ?あんた、めっちゃ2人に気を遣ってるし」


 気を、使ってるのかな?わたしなりに、普段通りの友達関係を意識して振舞っていた───


『私は、貴女を私に惚れさせる』


『ことちゃんの事を恋愛的な意味で好きなんです』


 …………振舞えて、いたのかな。


 大切な友達2人への返事を保留にする形で、わたしは今こうやって4人で居れるわけで。恋愛感情が分かるまで、なんて。そんな不誠実の極みみたいな状況に甘えてしまっているから、わたしはずっと気を遣っていたりするのかな。


「……わたし、さいていだなぁ」


 辛いのは2人のはずなのに、わたしはどこか受け身で。気を遣っている、なんて。まるでわたしが優位な状況にいることを無意識に感じているような。


「琴葉?」

「……ホントになんでもないよ!今回は、残念ながらかのかの気のせい!だから、ホントに大丈夫!」


 こんななんでもない田舎娘の私に『好き』と言ってくれた2人に、わたしはちゃんと誠実でいなきゃ。せめて、今の状況よりもひどい事にはならないように。せめて、2人が好きでいてくれるわたしであれるように。


「そっか!一応、琴葉の言う事は信じてあげる。でもさ、琴葉」

「わっぷっ!?」


 な、なに!?あ、かのかの胸の中に顔をうずめられてるだけか。……あはは、なんか最近こうされること多いなぁ。わたし、頼りないのかなぁ。


「………あたしは琴葉の事すきだからさ。どんな時でも、琴葉の味方だから」

「……えへへ、ありがと。わたしも、かのかの事すきだよ」


 なんてことのない、友達同士のすきの交換。

 それがとても心地よくて、わたしはびっくりするくらい安心してしまって。最近あんまり眠れていなかったせいか、唐突に睡魔が襲ってきた。


「ねぇかのか、ちょっと寝ていい?なんか、ねむくって」

「も~、琴葉は甘えたがりだね!ほら、あたしの膝貸してあげるから!あと15分くらい寝ちゃいなー」


 一人暮らしを始めて、誰かの膝で寝るのはきっと初めて。実家に居たころは帰省したお姉ちゃんが良くしてくれてたけど、なんだかすっごく安心する。だってもう、意識が遠くに行き始めてるもん。


「かのか、ありがと…………」

「ははっ、ほんとしょうがないんだから!あたしは琴葉の味方だからさ。安心して、ゆっくり眠りな」

「うん……」


 眩しいくらいなそのギャル笑顔、ほんと強いなー……。さっすが、わたしの、しんゆ……。



「わぁ~♪ことちゃん可愛いですね……!」

「う、うらやま……!ではなく、そうね。可愛いわ、すごく……!」

「あはは、2人とも顔がマジすぎるって」


 琴葉が眠ってすぐ、ゆかりとすみが屋上に戻ってきた。あたしの膝枕で眠る琴葉を見た二人の反応は、それはそれは怖かったね!もうね、目がマジなのよ。友愛とか恋愛とか、そんなものを通り過ぎた強さを感じたよ。


「こらこら!琴葉寝てるんだから、あんま近寄んなー」

「だったら、私に代わってくれてもいいですよ~。ほら、かのかちゃんも足が疲れてきているでしょうし」

「わ、私も……。ええ、代わるわよ」


 うーん、下心が見え見えだなこの2人………。


『貴女の事が好きよ琴葉さん。ちゃんと、恋愛的な意味でね』


 ゆかりは、校舎裏で。


『ことちゃんの事を恋愛的な意味で好きなんです』


 すみは、学校の図書館の前で。


 2人が琴葉に告白したのを、あたしは偶然見かけた。

 別に同性同士なんて気にもしないけど、その二つが琴葉に向けてとなったらまた別の話だ。しかも、ゆかりもすみも同じグループ!二人がそんなのしたら、逆にあたしだけはぶられてるみたいじゃんか!


 なんて、そんな馬鹿話はおいといて。


「あたしね、琴葉の事がすきなわけよ。ちゃんと、同性の大親友として」


 進学校だった中学で上手く馴染めなかったあたしにとって、高校で初めてできた友達は琴葉だ。陸上に打ち込んで友達なんて要らないって拒絶していたあたしにとって、琴葉はそれを破ってくれた大切な人間だ。何よりも眩しくて、誰よりも優しくて。甘えたがりで、そのくせ一人で大事なことは抱え込んで。


 多分、ゆかりとすみには遠く及ばないだろう琴葉への想いも。あたしにとっては、何よりも大切で重たい友情だ。


「だから、琴葉が悲しむのは見逃せない。悩んでいることを全部聞いてあげたい。その負担を、少しでも軽くしてやりたい。だから二人にお願い。琴葉の事、ちゃんと見てあげて。自分の気持ちだけじゃなく、琴葉の気持ちを汲んであげて」


 うーん、こんな事言うつもりじゃなかったんだけどなぁ。ほんと、なんでこんなに熱くなっちゃってんだろ。


 いつの間にか琴葉の事、こんなにすきになってたんだ。


「……はい。かのかちゃんの言ったこと、ちゃんと肝に銘じます」

「……ありがとう、かのかさん。貴女の気持ち、しっかりと受け取ったわ」


 もーほら!2人とも真剣な顔しちゃって、めっちゃ真面目な雰囲気になっちゃってる!

 あたしも、きっと琴葉も。こんな雰囲気は全然得意じゃないんだよ!


「さて、この話は終わり!あとは、この膝で寝てるカワイ子ちゃんの撮影会にしちゃお!」

「ふふっ、賛成です♪」

「……ええ」


 うん、こんな緩い雰囲気の方がいい。眠りこけてる琴葉には悪いけど、ちょっとだけ写真の被写体になってて貰おう!そのくらいなら、琴葉も文句言わないでしょ!


 ………なんか、例えは悪いけど誘蛾灯みたいだな琴葉。

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