第10話 きっと、好きな人が同じ私達ですから♪

「というわけで、今日から一緒にお昼を食べるようになりました!わたしの大親友の、伊勢ゆかりちゃんです!」

「え、ええっと、よろしくお願いします……」

「よろしくー!伊勢さんすごい綺麗だから、あたしちゃんと話してみたかったんだよね!というか、もっとはやくあたしに言いなよ琴葉~♪」

「わっ、ちょっ!頭わしゃわしゃしないで~!」


 5月も終盤に差し掛かる中間テスト明けの、最初のお昼休み。琴葉さんの自己紹介で、私は教室の真ん中の席に座っていた。


 周囲からの目線も少し痛いけれど、おおむね石見さんは私の事を受け入れてくれているようで少し嬉しい。ギャルっぽさが強いから未だに苦手ではあるけれど、とても気さくな人ね。


「実はさ伊勢さん!琴葉ってばあたしに伊勢さんの事すっごいPRしてきてさ、あたしも熱量に押されたっていうか!すっごい綺麗な子だよって、あたし何回聞いたか!」

「わー!ちょっとかのか!なんで全部ばらしちゃうの!?」


 そう、琴葉さんが私の事をそういう風にね。私の為に、私の事を想って。

 どうしよう、自分でも顔が真っ赤になってるのが分かる。もっと深く、琴葉さんを好きになっていくのがよく分かる。


 ああ、本当に好きよ。琴葉さん、貴女の事をつい先程よりもずっと……。


「……私は初めましてかな~?よろしくね~、伊勢さん」

「え、あ、よろしく。えっと、朝比奈さん」


 柔和な笑みを浮かべて、朝比奈さんはそう言ってくれる。

 ふわふわした雰囲気と容姿で、どちらかといえば朝比奈さんの方が話しやすい印象があったのだけれど。実際は、石見さんの方が接しやすい印象を受けた。


 なんとなく、その理由が私には分かる。


 朝比奈さんが琴葉さんを見る目が、私の琴葉さんを見る目と似ている気がする。友愛でなく、恋愛の感情を秘めている瞳。琴葉さんを恋愛的に好きな私を、朝比奈さんは感じ取っているのかしら?


「ねぇ、伊勢さんはどうしてことちゃんとそんなに仲がいいの?」

「え?」

「私、ことちゃんから大親友だなんて言われたことなかったな~」

「あ、あはは、そうだったっけ~……」

「あたしもあたしも~!んもう、恥ずかしがらなくていいんだぜ琴葉」

「カッコよくいっても、かのかには言わな~い!」

「あ、なんだと!」


 琴葉さんが上手く流して、石見さんが茶化したから流れたけれど。今の朝比奈さんの言葉には、確かに私に対する嫉妬と敵意があった………気がする。


 はぁ、琴葉さんは本当に。どれだけの人を魅了すれば気が済むのかしら。



「伊勢さん、少しお話しない?」

「………ええ、いいわよ。私も、朝比奈さんとは一度話さなければと思ったから」


 放課後、かのかちゃんとことちゃんが女子テニス部の助っ人に行って、教室に私たちの他に誰もいなくなった後の事です。きっと、彼女も今日のお昼で私と似たような事を考えていたのでしょう。二人して、ずっと教室まで残っていました。


 改めて、伊勢さんの事を眺めます。長く艶やかな黒髪、切れ長の瞳に、纏う雰囲気はクールそのもの。女の子の私から見ても、かなりの美人だということはよく分かります。私とは真逆の、とても綺麗な女の子。


「今日のお昼はすみませんでした。私、少し意地悪でしたね」

「いえ、私も琴葉さんの紹介でいきなりだったし。貴方たちの完成した関係に私が入っていって、何も気にしてないのはきっと琴葉さんくらいでしょう」

「ふふっ、そういうところも、ことちゃんの美点ですから」


 きっとことちゃんは、自分の善性由来で人をあまり疑っていないんです。だから私が傍にいて守ってあげなくちゃと切に思いますけど、そのせいで人をよく勘違いさせているのでしょう。そういったところで、私も伊勢さんも同類なのでしょうね。


 さて、本題に入らないと。ことちゃんのテニスをしている姿は、私も非常に見ておきたいところですから。


「私、ことちゃんの事が好きなんです。友情ではなく、恋愛感情として」

「……ええ、なんとなくそう感じていたわ」

「つい先日、ことちゃんに告白もしました」

「っ!?」


 分かりやすく動揺する伊勢さんを見て、私の勘は間違っていなかったと確信しました。


「伊勢さんは告白したんですか?」

「ど、どうして貴女に言わなきゃ……」

「ふふっ、いいじゃないですか。私たち、同じ女の子を好きになった同士のようなものですし」

「…………したわ。返事はまだ貰っていないし、その関係を私が望んだのもあるけれど」


 ………やっぱり。


『琴葉ちゃん?今日もお昼は別々ですか?』

『うん、ごめんね~!ちょっと行きたいところがあるからっ!』


 少し前、ことちゃんはそんな事を言っていました。伊勢さんが一時期ことちゃんと行動していたのも見かけていましたし、なんとなく察しはついていましたが。


「ことちゃんはなんと?」

「琴葉さんは、恋愛感情の好きが分からないって。それでもその好きを理解したいと、私をいつか好きになりたいと言ってくれたわ」


 ………そうなんですね。きっと、伊勢さんはまっすぐに想いを伝えたんでしょう。私のように、キスというスキンシップを使わずに。


「あ、朝比奈さんはどうなの?」

「私ですか?…………私は」



『好きですことちゃん。私は、貴女の事を好きなんです。沢山キスしたい、沢山イチャイチャしたい。他の人と二人で会ってほしくない、貴女の行動を全て把握したい。それくらい、ことちゃんの事を恋愛的な意味で好きなんです』

『…………わたし、他の子からも告白されてるの』

『え?』

『わたし、恋愛感情がいまいち分かってなくてさ。その子にもすっごく待ってもらってて、いっぱいその子に甘えちゃってる』

『………………そう、なんですね』

『今すぐすみちゃんの気持ちには答えられない。今はその子の想いにいっぱいいっぱいで、ちゃんと自分の好きを見つけたいの!だから、今はごめんなさい』

『……………ことちゃんは、私の事を嫌いですか?』

『そんなわけない!すみちゃんはわたしの大切な親友で、わたしのだいすきな人だよ!』

『………ふふっ、酷い人ですねことちゃんは』

『ご、ごめんなさい………』


『でしたら、その人よりも私に夢中にさせます。だから、これからもアプローチし続けますね~♪私、すごく諦めがわるいので♪』


『そ、うなるんだ……!?ま、またほっぺに!?』

『ふふっ、ごちそうさまです♡』



 最後の最後に、またことちゃんにキスしたのは内緒にしておきましょうか。流石に意地悪が過ぎますし、あれは私の大切な思い出ですからね♪


「恋愛感情が分からないと、私は振られましたよ。それでも、私はことちゃんの横に居続けます。ことちゃんも容認してくれましたし、アプローチは続けます♪」

「……貴女、意外とふわふわしていないわよね」

「ええ、これでも恋する乙女なので~。意中の相手を射止めるためなら、なんだってしますよ♪」


 呆れているような苦笑いをして、伊勢さんはそう言いました。ふふっ、なんだかおもしろいですね。私たちは恋敵のはずなのに、結局どちらもことちゃんに振り回されているなんて。本当に、ことちゃんは罪な女の子です!


「ふふっ、じゃあ私たちは恋のライバルということで。どちらが勝っても、文句はなしで♪」

「……そうね。私も、貴女に必死に追いつくわ」


 自分に自信がないのでしょうか?でもそんな彼女だからこそ、ことちゃんは真剣に応えたいと思ったのでしょうか。

 私も、恋のライバルなんて置いておけば。


「それじゃあゆかりちゃん。今からことちゃんとかのかちゃんのテニス姿を見に行きませんか?私たちの好きな人は、あれでスポーツ万能なんですよ♪」

「………ええ、それじゃあ一緒に行くわ。ありがとう、すみれさん」


 きっと私たちは、仲のいい友達になれると思うんです♪



「わぁ!二人とも、見に来てくれたんだ!」

「え、ええ」

「ふふっ、当たり前じゃないですか♪」


 テニス部の助っ人で練習試合をしていると、その途中でゆかりちゃんとすみちゃんが来てくれた!そして二人の距離がなんとなく縮まっているのを見て、心の中でかなり安堵した~。二人とも、なんだかお昼は変な空気になってたし!


 わたしのせいだったら、なんて。自惚れしすぎかもしれないけど、万が一わたしのせいだったら土下座しても足りないし。だから、二人が仲良さそうでよかった~。


 そんな安堵の感情でいると、すみちゃんがお水を渡してくれた。いやぁ、ほんとに優しいなぁ。気が利くというか、わたしは幸せ者、だ、な…………。


 あれ?ゆかりちゃんが、他校の女の子と話してる。


「あれ?かのかちゃんは?」

「か、かのかなら、次の試合を第一コートでだと思うよ!わたしも後で応援行くから、すみちゃん先に行ってあげてて!」

「は~い。それじゃあ、お先に行ってますね~」


 そうやってすみちゃんと別れた後、わたしはゆかりちゃんの方へ歩いていく。なんだかゆかりちゃんが微笑んでいたから、それがわたし以外の前だと珍しくって。


 なんだか、もやもやした。


「ゆかりちゃん!」

「琴葉さんお疲れ様。すごいわね、部員でもないのに他校の人に勝つなんて」

「ペアの子が強いからだよ~!………………ねぇ、ゆかりちゃん」


 なんだか、胸がくるしい。この理由が分からないから、それももやもやする。


「さっきの子と、なに話してたの?」

「先ほどの子、琴葉さんの事が気になったみたいよ。ふふっ、この前の練習試合にはいなかったのにって言ってたわ。流石ね琴葉さん」

「そ、そーなんだー!」


 よかった!ゆかりちゃんに話しただけで、簡単にもやもやが無くなってくれた!わたしの事を話してたのなら、わたしに直接聞きに来てくれればいいのに!


「こ、琴葉さん?」

「ん?なーにゆかりちゃん!」

「そ、その………。私の服の袖を掴んで、何かあったの?」

「へ?」


 その指摘通り、わたしはゆかりちゃんの服の袖を掴んでた。

 な、なんだろう?全然意識してなかったのに、ほんとにいつの間にか掴んでた。


「琴葉さん?」

「…………えと、ごめんね!えへへ、ゆかりちゃん見て安心しちゃったのかも!」

「ふふっ、何それ。変な琴葉さんね」

「ゆかりちゃんを見て安心したのはほんと!ゆかりちゃんが他校の子と話してて、なんだかもやもや~!ってしちゃったから、そのせいかも!」


 ほんと、どうしちゃったんだろわたし。そんな赤ちゃんじゃないんだから、流石にゆかりちゃんに甘えすぎちゃってるかな!


「よしっ、かのかを見に行こ!ゆかりちゃん!」

「……………えっ、ええ」


 そうやってゆかりちゃんの手を握ると安心する。だから、かのかのコートに着くまでの短すぎる間だけど、ちょっとだけ甘えようかな!

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