第9話 恋愛なんて、わたしにはまだ分からなくって
「それで、一つ提案があるの!」
「て、提案?」
5月の中間試験2日目。午前でテストが終わった後の放課後、琴葉さんに呼び出されていつものベンチへと来ていた。そこでそんな事を言われるものだから、やっぱり琴葉さんは悪い。このシチュエーションだと、普通は告白の返事だと思うのだけど。
「実はね~、私はゆかりちゃんの友達100人計画は諦めてないんだよ!だから提案!試験休み終わりから、教室でかのかとすみちゃんと一緒に食べない!?」
「………………………………えっと」
公に琴葉さんとお昼を一緒に出来るのなら、確かにそれは嬉しいことだけれど。それでも、いきなり私が3人の輪にいきなり入るのは難しくないかしら?
「もち、ちゃんと二人には言うつもり!ん~、でもサプライズの方がいいかなぁ?」
「ぜっっったいに、サプライズだけはやめて頂戴!?」
「え~、その方が楽しいと思うけど」
「それはないわよ。それに、その、申し訳ないけれど……」
どうして友達関係が苦手な私が、サプライズなんて作戦を許容すると思ったのかしら琴葉さんは!?この子のこういう鋼の精神は、私も見習いたいところだけれど。いくら何でも、私のような日陰者女にはハードルが高すぎる。
それに、学校で琴葉さんと二人きりになれる時間はかなり貴重だし……。確かに友達は欲しいけれど、私は琴葉さんと二人の方が……。
「私たちのグループにいたら、いつでもゆかりちゃんと一緒だと思ったんだけどなぁ……」
「私、頑張るわ琴葉さん」
「ほんと!?やったー!」
どうして私はこんなに単純なのかしら……。
「それじゃあ、話は二人にしておくねっ!」
「え、ええ。えっと、今からどこかに行くの?」
「うん、10人くらいでの女子会兼勉強会!」
きっと琴葉さんは自覚していないだろうけど、クラス内のヒエラルキーが高い子ばかりが集まるのでしょうね。当然のように私は初耳だったわけだし。
「ゆかりちゃんも行こっ!わたし、今日はゆかりちゃん成分が足りてないんだもんっ!」
ああ、琴葉さん。その純真無垢なその笑顔は、今の私にとっては悪魔の顔に見えるわ。
「誘ってくれたのは嬉しいけれど、ごめんなさい。私、勉強は一人でしたい派なのよ」
「えっ、そうだったの?それは残念だな……」
もちろん貴女と二人きりならば全力で勉強を教えるわよ!なんて言ってしまったら、琴葉さんはどんな顔をするかしら。私なら、すごく訝しんだ顔をするでしょうね。
「じゃあじゃあ、今日はこれで許してやろ~!」
「ひゅえっ!?」
そんな思考ばかりしていたから、私は琴葉さんのハグに対してなんの心構えも取れなかった。その結果が、琴葉さんの前ではクールにしていた私の変な声だった。
ギギギという音を出しながら、なんとか下を向く。10cmくらいの身長差がある私たちは、ハグすると私の体に琴葉さんがすっぽりと収まる形になる。それを上から眺めると、何よりも可愛い琴葉さんが見れるの。いえ、琴葉さんはいつも可愛いのだけれど。
「ど、どうしたの琴葉さん?」
「ゆかりちゃん成分のほきゅ~!えへへ、だいすきだよゆかりちゃんっ!」
「づうぁ……!わ、私も大好きよ………」
そんなの反則よ!上目遣いしながらそんなっ、だいすきなんてっ!貴女の好きの種類は知っているけれど、それはもう犯罪よ!?
「んんっ、その……。こういう事は、あまりしてはいけないわよ?」
私以外には。私にも、あまりしないでほしい。いつ理性が飛んでもおかしくないから。
「は~い!えへへ、ゆかりちゃん~♪」
本当に!理性が!おかしくなる!!
△
「も~、遅いですよ琴葉ちゃん?」
「やはー、ごめんごめん!ちょっとね!」
ゆかりちゃん成分を補給した後、わたしは高校の図書館へと向かった。図書館前にはすみちゃんが、壁にもたれかかるように待っていてくれた。
「他のみんなは?」
「皆さん、先に中で勉強していますよ?ちょっと10分くらいって言ってたのに、何してたんですか~?」
「ええっと、友達と会っててね。あ、その友達の事なんだけ──」
「伊勢ゆかりさん、ですか?」
びっくりするほど低いすみちゃんの声に、一瞬体がびくっとなる。な、なぜにここまで空気が固まってるの?わ、わたし何かしちゃった?
「う、うん!知ってたんだねすみちゃん!」
「当たり前ですよ。琴葉ちゃんの事は、なんでも知ってますから」
「ま、またまた~!」
こわい!怖いよすみちゃん!?びっくりするくらいに目が据わってるし、いつものふわふわした雰囲気はどこへ行っちゃったの!?
じょ、冗談もあんまり通じてないみたいだし、なんだかちょっと拗ねてる?もしかして、わたしがゆかりちゃんと一緒にいたことに?
なんて、流石に考えすぎかなっ!すみちゃんはそんなので怒る子じゃないし、皆に優しいわたしの憧れなんだから!
「えと………、ほんとにごめん!それで相談っていうのはね、ゆかりちゃんもテスト明けから一緒にお昼食べたいなって事なんだけど」
「一緒に……。そう、ですか……。ねぇ、琴葉ちゃん?」
「うん!」
「琴葉ちゃんは、伊勢さんの事を好きなんですか?」
ゆかりちゃんの事をすきか。確かにゆかりちゃんに告白されて、好きとすきの違いをわたしは身をもって知った。
けど、未だにわたしの中に好きは芽生えてくれていない。
「うん!わたし、ゆかりちゃんの事だいすきだよ!」
すきって単語だけでここまで考えてしまうのは、わたしも段々成長出来てるってことなのかな!すみちゃんの質問は『友達として』っていう枕詞が付いてると思うけど、それでもつい考えてしまった。
今目の前にいて、わたしと話してくれているのはすみちゃんなんだから!すみちゃんといっぱいちゃんと話さないと!
「………こと、は、ちゃんは。恋人とか、いたりしませんよね?」
「へぇっ!?」
な、なんで恋人の話になっちゃったの!?わたし、ゆかりちゃんの事を考えてて何か聞き逃しちゃった!?
「いないよ!?ど、どうしてそんなぁ!?」
「ん………」
こ、え、な、なに!?すみちゃんの顔が至近距離っていうか、これ、キス!?わ、わたし、すみちゃんに頬にキスされてるの!?ていうか、すみちゃんがキスしてきたの!?
「な、え、ど、どうして!?」
や、ヤバだ!頭の中が混乱しすぎて、思考がまとまらない!
キスされたわたしはこんななのに、キスをしてきたすみちゃんはなんか……!なんかすっごい色っぽい顔してる!?やめて!?自分の唇をなぞるように触らないで!?
「………えっと、私の初キスでした~!な、なんて……」
「だめじゃん!?」
わたしなんかで貴重なすみちゃんの初キスを使っちゃうなんて、そんなの絶対よくないよ!?か、返してあげないと!いやいや、どうやってキスって返すの!?ほんとに思考が混乱しきってる!
い、いや、でも頬キスくらいなら大丈夫?ゆかりちゃんもしてきた………って、あれはまたちょっと特別なキスでは!?
「ね、ねぇ、今の見た!?」「一年生かな?こんなところでだいた~ん♪」
「はっ!?」
わたしたちの横を、おそらく上級生であろう女の人たちが通っていく。て、ていうか見られた!?
「も、も~すみちゃん!わたしで遊びすぎだよ~!」
「遊びで、私は初キスを捧げたりしませんよ♪」
「は、はい………」
あ、遊びじゃなかった………。遊びじゃなかった!?え、っと、それは、つまり、その……。え、そういうことなんですか!?
「えと、その、すみちゃん!?」
ま、また頬にキスされて………っ!
「す、すみちゃ……」
「無理やりキスしてすみません。でも、これが今の私の有り余る気持ちなんです」
真剣な眼差しで、他の解釈を一切許さない言葉で。
「好きですことちゃん。私は、貴女の事を好きなんです。沢山キスしたい、沢山イチャイチャしたい。他の人と二人で会ってほしくない、貴女の行動を全て把握したい。それくらい、ことちゃんの事を恋愛的な意味で好きなんです」
青空の下、学校の図書館の前というシチュエーションで。
わたしは、ゆかりちゃんに続いてすみちゃんに告白をされました。
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