第3話 告白って、え、ホント!?

「琴葉―!もうそろそろ起きないと、次の授業遅刻しちゃうよ!」

「うへぇ!?ご、ごめんごめん!」

「も~、可愛いですね琴葉ちゃん♪」


 もうそろそろ新生活に慣れ始めてきた、5月の中旬。桜が舞う季節は終わって、もうじき雨がしとしとと降る季節が見え始める頃。


  そんな若干の間延び感が蔓延る光央高校1年Bクラスの教室で、わたしは二人の女の子に撫でられ続け………って!ちょっと長くない!?撫で過ぎじゃない!?


「もー!二人とも撫で過ぎ!わたしは犬や猫じゃないんだよ!?」

「えー、琴葉は犬っぽくない?」

「確かに、琴葉ちゃんは犬っぽいですね」


 などなどわたしの事をからかってくるのは、わたしの大切な友達二人。


 金髪とカラコン!ピンクのネイルに着崩した制服!な、まさにわたしが想像していた都会ギャルっぽさが外見の特徴の、クラスの皆の人気者!石見かのか!ちなみにとても美人!

 わたしよりは少し暗い茶髪に、ゆるふわ~な髪の毛!おっとりとした雰囲気を纏っている、清楚と優しさの最強タッグ!クラスの皆の人気者、朝比奈すみれ!ちなみにとても美少女!


うん!わたしの周りには美女と美少女が多すぎる!もちろん中学生の頃もわたしの周りに可愛い子は多かったけど、それとはなんか違う。都会の美女と美少女は、なんか可愛いとは違う!わたしは気まずいですよ!


「も~、わたしはちゃんと人間だぞ~。………あっ」


 そんなわたしたちを見て笑っているみんなを後ろを、ゆかりちゃんが歩いていく。


 あの日以来、ゆかりちゃんの相談に沢山乗っていた。同じグループに誘ったり、私同伴でクラスの内外問わずに友達作りに行ったり。

 でもその先々で主に話すのはわたしになってしまって、上手くゆかりちゃんの懸け橋になる事は出来なかった。


 そこである日のお昼休み、ゆかりちゃんはこう言った。


『……私、一度琴葉さんから離れてみようと思うの。でないときっと、私はダメになる』


 わたしとしては非常にショックだったし、ゆかりちゃんの提案はよく分からなかったけれど。それでも、ゆかりちゃんも悲しそうに目を伏せていたのを見てわたしも頑張ろうと思った。


 そうして素の自分を出しつつ、嘘を混ぜつつ、都会に負けない!と頑張った結果、今のわたしはここにいる。心地よくて楽しくて、まさに華の女子高生!なんだけど、どこかもの悲しさを覚えるわたしがいる。そして、その答えをわたしは知っている。


「………よし」


 わたしの大親友こと、伊勢ゆかりちゃんと。このまま薄れていく関係になんてなりたくない!



「やっほ!久しぶり?じゃないかもだけど、久しぶりゆかりちゃん!」

「………………」


 いつもの隠れた綺麗スポット、校舎裏の植物に囲まれたベンチ。そこに行くと、ゆかりちゃんはそこにいた。右手に学食のパンを持って、わたしの顔を見て驚いているようにすら見えた。わたしの顔、何かついているのだろうか?


「どうして、ここに?」

「もち!ゆかりちゃんとお昼ご飯を食べに!」


 ふいとそっぽを向きながら呟くゆかりちゃんの言葉に、わたしは当然の目的を言う。その言葉に頬を染めるゆかりちゃんが、わたしはすきだ。


「他の人と食べる用事があったでしょう?それなのに、私と一緒に食べて大丈夫なの?」


 むむむ、もしや今日は拗ねゆかりちゃんか?めっちゃ可愛いけど、ここはわたしの気持ちを伝えるのが先かな!


「だいじょうぶ!だって、最近寂しかったんだから!」

「え?」

「大好きなゆかりちゃんと喋られないし!一緒のお昼だって結構久しぶりで、ゆかりちゃんはなんとなくわたしを避けてるように感じたし!」

「だ、だいす……っ!んん!せ、先週は一緒に食べたでしょう?それに、避けていたのは貴女の為を………」


 なんだか言葉が萎んでいくゆかりちゃんは、怒られた実家のみこちゃん(わんこ)を思い出してしまった。とってもとっても可愛いけど、わたしだって若干避けられていたのはご立腹なのです!だから、自分の言葉をできるだけ伝えるんだ。


 その為に、わたしはゆかりちゃんに抱き着いた。


「っ!?か、かか香取さん!?」

「わたしはゆかりちゃんの事がだいすきだよ!もし一人がイヤなら、ちょっとでも寂しいと感じたなら、ちゃんとわたしを頼ってほしい!」

「そ、そんなに言わっ──」


 今度はちゃんと目を見れる体勢で、もっと真剣な眼差しで!


「可愛くて綺麗で、クールなゆかりちゃんの事!わたしはすきだから!だいすきだからっ!」


 よ、よし!これでわたしの気持ちはちゃんと伝わってくれたはず!私頑張った!ここ最近の都会修行のお陰だ!


 そこからちょっとの沈黙。ゆかりちゃんは真っ赤な顔のまま口をパクパクさせて、一度目を閉じてわたしを真剣な眼差しで見つめてくる。見つめて、見つめて……………。ん?あれ?な、なんか見つめてくる時間長くない?


 それから1分くらい経って、ゆかりちゃんはそっと目を閉じる。そうしてそのまま、体をわたしの方に向けてくれた。


「わ、私も………。香取さんの事、好き。大好き、よ………」


 そんな嬉しいことを言ってくれたかと思うと、今度は目を閉じてじーっと待っているゆかりちゃん。フルフルと若干震えているし、というかなにか待っている……?


 もしかして………………キスとか?まっさかね!わたし達女の子同士だし、それにわたし達は友達だもんね!………だよね?な、なんでずっと目を閉じて────


「か、香取さん?」

「う、うん。どうかした?」


 ないないない!いくらなんでも、まさかゆかりちゃんがわたしの事を恋愛的な目で見てるなんて!


「………そう。ええ、なんとなく知ってたわ」

「ひょえっ!?ゆかりちゃん!?」


 わたしの手を包み込んできたゆかりちゃんは、真っ赤な顔でわたしにずずいと近づいてくる。って、近い近い!キスしちゃいそうな距離感なんだけど!?


「あまり、こんな事は言いたくないけれど………」

「は、はいっ!?」


「香取さんがこの気持ちを作ったのよ。……だから、香取さんが悪いわ」


 そう言いながら、ゆかりちゃんはわたしの頬に口づけを落とした。


「貴女の事が好きよ琴葉さん。ちゃんと、恋愛的な意味でね」


「うえぇぇ!?」



 香取琴葉、高校一年生。梅雨が見え始める5月の空と、いつの間にかわたし達の横にいた猫ちゃんの前で。


 わたしは、女の子に告白されました。

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