解読

てると

解読

 どこまでも続くかに思える巨大なオムレツの中で私はそれを頬張っていた。太陽がオムレツにケチャップをかけていた。ふと気づくとそこは巨大な塔の上層であった。夜、私はオムレツから引き剝がされ白装束の男の唸り声と燈明を見ていた。その間にオムレツは七つに分裂し、私が塔に戻った頃には消え去っていた。塔は来る日も来る日も熱で私を苦しめた。球が飛んでくる度ごとに私は必死になって逃げた。ある日、塔が崩壊した。しばらく瓦礫の中で佇んでいたが、分裂し消え去ったあのオムレツがガラスで固められて目の前にあった。しかし間もなく消滅した。私は瓦礫を出て東方を目指した。

 東方の街で、私はあの至福のオムレツをまた頬張りたいと思うようになった。私は連れ立つ者に夜毎幻想のオムレツの話を持ち掛けた。

 いよいよたまらなくなり、私は連れ立ってあの塔のあった天拝山に向かった。見よ、山の頂から無限の柱が伸びていた。それは黄金に輝いていた。連れ立つ者もそれを恐れた。私は恐れながらも天拝山に登った。深夜の事であった。頂上に登った頃、巨大な赤い太陽が昇った。街が見えた。その街も、一切の街も、あらゆる地上天上の場所は柱から出る光を写した文字そのものであった。私は必死でその文字の解読を試みた。見よ、すると、太陽もまたその文字を読んでいることがわかった。私は柱を拝んだ。太陽も、連れ立つ者も、柱を拝んだ。

 柱の遥かに高いところから声がした。声は、「天と地の間には汝の哲学で夢想されるよりはるかに多くのものがあるのだ。行って、街の文字を究め、その通りになすことをせよ」と言った。「その通りに」、私たちは答えた。その夜は、満月であった。私たちの飲んだものには月の光が映し出され、風はそれを吸う私たちの全てを満たした。柱の光と月の光は溶け合い、それに包まれた私たちは言葉にできない歓喜に満たされていた。

 東方の街で、私たちは街の文字を解きつつ人に伝えることを始めた。今や私たちの目には、光を受けた文字は一切が美しく、正しく、それはきわめてよかった。

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解読 てると @aichi_the_east

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