第4話

タイプ0Aの捕獲がネットで話題になっている。恐ろしい動画も上がり、背筋が寒くなる。少しでも0Aに似ている、もしくはシンフォニックに似ているとなれば虐待じみた悲鳴が緊急ダイアルに入ると同僚たちに聞いた。

人も機械もお構いなしらしい。

0Aであるエージェントは髪型を変え眼鏡をするようになった。それでも危ない場合は変装用のマスクを装着する。マスクはラバーで違う人物になる。

エージェントは始め面白がってはいたが深刻化する状況に『怖い。』と素直に洩らしていた。

恐怖はサエキにもあり、いつエージェントが酷い目に遭うのではないかと外では極力会うのを避け、次第に二人の時間が減っていった。

その間もシンフォニックのカウンセリングという名の時間だけが増え、サエキの夢を見るエージェントの話ばかりが増えていた。

『それで。シンフォニックはどうするつもり?』

サエキはベットに座るシンフォニックと話していた。

『そうだなあ・・・今は危ないからここにいるかな。出来ればあの惑星に戻りたいと思ってる。』

『博士はもう居ないでしょ?一人で?』

『うん、博士は居ない。一人でも良いんだ・・・あの場所は自由だから。』

『自由?』

シンフォニックは微笑む。

『そう、自由。シティに居た頃は時間に追われて酷い扱いも受けた。写真を撮るためにいろんな・・・思い出したくもないけどね。』

『ああ。』とサエキはシンフォニックの初期の頃の写真集を思い出す。その頃は本当に酷い写真があったのだ。

『博士が色んなことを教えてくれて・・・幸せだった。時々写真を撮ってくれた。ただ笑っている写真。それがね・・・あそこにはあるんだ。』

少し懐かしそうにシンフォニックが笑う。

『そう。』

『君にも見せてあげたい。博士はとんでもなく写真がヘタでね。』

そう言うとベットにごろんと仰向けに寝転んだ。

『・・・謝っておく。タイプ0Aのこと。こうしていつも見ている君の優しい顔を向ける0Aがまだ無事だってね。それだけでも良かった。』

サエキは俯くとただ頷いた。




その日は晴天でやけにシティは明るかった。

サエキはいつもどおりに病院へ向かっていた。丁度ビルのモニターが光ってニュースが流れる。アナウンサーは冷静な口ぶりで伝えた。

『本日、早朝にシンフォニックが死亡しました。暴漢によるもので銃で頭を撃ちぬかれたようです。』

サエキは足を止めてビルを見上げた。

『繰り返します。本日、早朝にシンフォニックが死亡しました。・・・。』

周りの人たちはざわめき手の中の端末を見ている。サエキは迷うことなく走り出していた。

病院ではすでに警察が捜査を始めている。サエキを見つけると事情が聞かれた。

息を切らしてきたカウンセラーを犯人にする馬鹿はいないかと思ったが、長い尋問にサエキは吐き気がした。




ようやく開放されてサエキはフラフラな足取りでエージェントの元へ戻った。

エージェントもまたシンフォニックの死亡を知っていたようで、サエキから事情を聞くと驚いていたが納得もしていた。

いつも見る夢がシンフォニックと繋がっていると彼はすぐに理解したようだった。ただ死亡したシンフォニックからの情報はないらしく、恐ろしい思いはしなかったようだ。

サエキはエージェントを抱きしめると言った。

『あとタイプ0Aがどれくらいいるのかわからない。けれど最後の最後まで狩りは続くかも知れない。』

『分かってる。外に出る時はマスクをしているよ。』

『でも・・・いずれ。』

エージェントはサエキにキスを落とす。

『・・・シティが危ないなら・・・惑星がある。』

『まさか・・・惑星754WPR66。』

『そう、シンフォニックは危ないこともしたけど、助かる道も与えてくれた。ねえ、サエキ。君も一緒に行くかい?』

『一緒に?』

考えたことなどなかった。でも安全であるならば・・・願わずにはいられない。

『そうね。惑星行きのロケットがあったはず・・・手配しよう。』

エージェントはにこりと笑う。

『そうだね、大急ぎで。』

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