第三章 眞田竜の迷宮

 千葉県屈指の繁華街、津田沼。習志野市と船橋市を二分するように駅が存在し、不法滞在の外国人から予備校生まで幅広い人種、年齢の人々が入り乱れて生活する街だ。

 眞田竜の探偵事務所は船橋市に位置し、JR津田沼駅からは徒歩で十分の距離だ。居酒屋やラブホテルが並ぶ一角の雑居ビル三階で、従業員が二名。眞田探偵とアルバイト助手の大学院生・渡辺真だ。

 幼い頃からリュウ・アーチャーやマット・スカダーの小説を読み耽っていた眞田竜が、サッカー選手に憧れるよりも探偵に憧れたのは至極自然なことだった。そして、夢を叶えることはそれほど難しいことではなかった。

 国立大学卒業後、都内の探偵事務所で修行を積み、二十七歳のときに独立して津田沼に探偵事務所を開いた。津田沼は眞田にとって思い出深い街だったのだ。

 思い出の街、津田沼を守る街唯一の探偵だと野心に溢れた未来を期待していた。が、現実はそう甘くはなかった。舞い込んでくる仕事のほとんどは浮気調査で、小説や映画のような難解事件の捜査などは、ただの一度もなかった。凶悪犯を追う危険と隣り合わせの日々ではなく、他人の日常に土足で踏み込み、スキャンダラスなワンシーンを切り取るだけの生活だった。自分の存在意義すら疑うような辟易した日々だった。

 眞田竜の精神は迷宮に入り込み、日に日に腐っていってしまったが、それは仕方のないことだったのかもしれない。

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