狼の死刑宣告 その3

 死よりも残酷なこと。

 ニコラス・アッカーマン、いや、福岡美佐は私にヒントをくれた。

 まず、必要になるのは「施設」だったが、この問題は石上太一が解決してくれた。

 石上太一の実家は西千葉にあり、彼は現在も実家で暮らしている。不動産業で成功した石上の祖父の建てた屋敷は、ここら辺で一、二を争うほどの土地を有していた。

 母屋から二十メートルほど離れた場所にある離れが石上太一の住処だった。離れ、と言っても四人家族が暮らせるほどの大きな建物で部屋数も申し分ない。

 一階には石上太一専用のガレージがあり、その地下に実験室を設けていた。独立した入り口のあるガレージからであれば、石上家の家族にも見られずに入ることができる。

 地下実験室には檻があった。実験用のサルを飼育するために用意したもので、単純な鉄格子ではなく、防弾ガラスで囲われた特注品だった。加えて、地下室自体が防音室になっており、音が地上に漏れることはない。

 肝心のサルであるが、それは手に入れることができなかった。金を積めば防弾ガラスは買えるが、実験動物はそうもいかないそうだ。法律や倫理の縛りによるものだ。

 実験室の檻はそのまま、空っぽの状態で残っていた。

 私にはこれが都合が良かった。

 私一人の力では自前の監獄など到底入手不可能だった。持つべきものは志同じくする友というわけだ。そう、監獄こそ、私の求めるものだったのだ。

 私は堀環を拉致し、石上太一の地下実験室で飼育することにした。死の裁きではなく、生の裁きというわけだ。

 石上太一は堀環を実験動物にするという条件のもと、私に地下を提供してくれた。彼にとってはサルも堀環も科学実験の被験体でしかないのだ。

 古典的な方法だが、堀環の足には鉄球をつけ、動きを鈍くさせた。食事は一日に二回。冷凍食品の炒飯のみ。どこのスーパーやコンビニでも手に入る安価なものだが、限られた環境下である程度の栄養を与えるには最適な食料だ。スープやフォークは与えず、プラスチックの皿にのせて提供する。手掴みで食すか、犬のように顔を突っ込んで食すかは堀環の自由だ。

 水は一日一リットル、ペットボトルで与える。シャワーは週に一度。ホースの水をかけて身体を流してやる。その水を飲むことは許している。

 衣類は二着。量販店で新品を与えた。拉致したときに着ていたものは燃やした。週ごとに着替えさせ、着替えは地下室に用意した洗濯乾燥機で洗ってやっている。

 排泄用に老人用のおまるを与えた。この取り替え作業は実に不快な作業だったが、石上家の所有する畑の肥料にするため、作業の多くは石上太一が担当してくれた。

 娯楽は一切与えない。最低限の食事だけを与え、だらだらと人生を消費させる。人間の尊厳をとことんまで踏み躙り、奈落の底へ突き落とす。底にある死を実感させ、生かし続ける。

 以上が、私の選んだ残酷な行為である。もっとも、時期が来れば殺すわけなのだが。

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