狼の死刑宣告
犬はリトル・ブラッキーと名付けた。私の好きな『トゥルー・グリット』という小説に出てくるポニーが由来だ。
私は子供の頃から人間よりも動物が好きだったため、犬と暮らすことに抵抗はなかった。むしろ、喜びを感じていた。
リトル・ブラッキーは人懐っこくて利口な犬で、滅多なことでは吠えたり噛んだりしない。行儀が良く、ゴミ箱をひっくり返すこともなく、室内での排泄もしない。ベランダの前でお座りをして私の顔を見るのが排泄の合図だった。ドアを開けてやると外に出て、排泄し勝手に戻ってくる。その他のときは散歩中に済ませている。私が外出しているときはベランダを開けっ放しにしているが、オートロックであるし、盗まれて困るものなどないため、特に問題だとは思っていない。室内が清潔に保てるため、この排泄方法は気に入っている。
無駄な芸を教えるつもりはなかったが、これほど頭が良いと他にも何かを教えたい気にもなった。いまのところは何も教えてはいないが。
リトル・ブラッキーの好物はササミだ。晩飯に固形フードの上にササミをまぶしてやるととても喜ぶので、それが習慣になった。
私の家に来てすぐに、彼を動物病院に連れていき、検査した。悪いところは何もなく、健康だった。虐待による外傷も見られなかった。芝犬の雑種という私の見立てが正しかったこともわかった。去勢はしていなかったが、悩んだ末、そのままにした。虐待の過去があり、五歳の成犬であることを思うと、手術のストレスで衰弱してしまう恐れがあったからだ。彼の残りの人生は穏やかな幸せでなければならない。
予防注射を受けるときには、流石のリトル・ブラッキーも怯えていて、家に帰ったあとも落ち込んで、私のそばを片時も離れなかった。その日以降、彼は私の布団で一緒に寝ることになった。
リトル・ブラッキーに怪我や傷の痕はみられない。だが、精神は確実に虐げられたことだろう。私は彼の崇高な精神を思うと怒りが沸き上がってくる。まるで私の"精神の宮殿"が踏みにじられた気分になる。
いまや私の心の友となったこの犬を虐げた人間には、必ず裁きを与える。私にできる最上級の残酷な方法で。
罪人の名は
不摂生が具現化したような生活で、煙草とアルコール飲料を食事のひとつとして換算している。虐めの対象であった"くろすけ"がいなくなったことで、"アザラシ公園"にはあまり寄り付かなくなった。酔っ払って立ち寄ると、続け様に四、五本の煙草を吸い、吸い殻を動物に向かって投げるという無意味な行動を繰り返していた。
現在、同居人はおらず、両親ともに他界している。離婚歴があり、前妻との間に子はなし。家庭内暴力を振るっていたことから、前妻と連絡を取ることは禁じられている。その他の親族は不明。
以上が堀環のすべてだ。流石の私も、ここまで調べるのには骨が折れた。
調べるまでもないのかもしれないが、念には念を。万が一にも私に疑惑の目が向かないようにできる限りの労力は惜しむべきではない。
結果、堀環が死んで気に留める人間はいない。いつでも殺せる。では、どう殺すのが良いか。
気がかりなのは川島羅夢の存在だ。
堀環の死は、いずれラムの耳に届くことだろう。いや、私には確信に近い予感があった。川島羅夢は確実に堀環の死を知る。そして、それは私の仕業だと気づく。
やはり、川島羅夢も殺しておくべきか?
いや、冷静になれ。堀環を処分するときの痕跡は残さない。私が容疑者となる要素はないのだ。七歳の子供に何ができるというのだ。現状、ラム少年は堀環の名前すら知らない可能性の方が大きいのだ。
精神が乱されている。わずか七歳の、赤子同然の子供に、私は焦りを感じている。どういうわけだ? これは怯えなのか? 久しく忘れていたような感情だ。
私は心を澄ませた。"精神の宮殿"はいまも穏やかだ。
私は正しい道を進まねばならない。
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