未知との遭遇 その2

 帰国してから、通っていた国立大学に出向き、理工学部の研究室を訪れた。"ギフト"について本当なら誰にも話したくはなかったのだが、文系の私は誰かの協力なしに研究所を使うことはできなかった。

 私が協力を頼んだ、四つ年上の理工学部大学院生、石上太一とは古くからの付き合いがあった。交友関係の少ない私以上に、石上に友人はいなかった。そして、年末にもかかわらず、一人研究室にこもっている重度の変人でもあった。つまりは、私が唯一信頼を置いている人物というわけだ。

 石上は私の血液と遺伝子を採取した。注射器で血液を吸い、綿棒で粘膜を採取し、試験管に入れて……詳しいことはわからないが、概ね映画で見るのと同じようなことをしていた。

 血液に異常は見られなかった。検温やレントゲンの結果も異常なし。健康そのもの。体調に違和感もなかった。

 無口な石上が声を出して驚いたのは、私の細胞を顕微鏡でみたときだった。

 ウイルス、と石上は言った。細胞に微量のウイルスが付着している、と。

 石上はすぐに血液も調べ直した。すると、今度は血液からも微量のウイルスが検出された。一見すると見落としてしまうほど極小で微量。初見時には高度な擬態により白血球と目分けがつかなかったのかもしれない。他の医療機関などで検査していても、見落としていたかもしれない。

 「こんなものは見たことがない」石上は顕微鏡から目を離さずに言った。大きな独り言のようだった。「ありえない。いや、実際に起こっている。僕の発想こそありえないほど小さいんだ。実際に存在している。美しい。なんと美しいんだ。でも、怖くもあるな。うん。そもそもこれはウイルスなのか? こんなものは見たことがない」

 「未知のウイルス、ということか?」

 「いままでにこんなものは発見されていない。ウイルスのように見えるから、便宜上ウイルスと呼んだが、これが人体にどの程度の影響があるのかはわからない。害になるのか? 何のために生物に入る? 血液内のこいつは白血球に擬態していたんだと思う。でなきゃ、最初の検査で僕が見落とすはずがない。脳。そうだ、脳はどうだ? 桃李、脳を見せてくれないか?」

 「頭を裂くつもりなら断るよ」

 石上は僕の冗談など気にもとめずにMRIに私を運び、私の脳を調べだした。"精神の宮殿"に入った石上に私の言葉は届かない。

 彼は前人未到の研究に没頭していくのだった。

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