エロ本とワタシ

皆さんは初めて読んだエロ本を覚えているだろうか?

 

私は辰●出版から発行されていた『ペ●ギンクラブ山●版』だったのをはっきりと覚えている。

 

小学校低学年の頃の話。

 

うちの町内には小さな神社があり、その裏手の雑木林の中に「エロの図書館」があった。廃棄されたトタン板の下、雨風を避けるようにエロ漫画雑誌、エロ写真集、エロ小説……様々なエロ本が数十冊所蔵されている。我々エロガキは大人の目を盗みこっそり放課後に集まっては"読書"に興じていた。

 

先述したエロ本も私はここで初めて読んだのだ。

みんなには実写系が人気で取り合いになっていたが、漫画本は割と扱いが雑だった為、下っ端の私でもじっくり一人で読めた。小学二年生の頭では内容はほぼ理解できなかったが(保健体育の知識はあったが何故それを女性と犬で?等)何か凄いことが行われており、それを自分が垣間見ている状況になんだかドキドキした覚えはある。

 

しかもこのエロ図書館ただのエロ本墓場ではなかった。

なんと定期的に"新刊"が増えていたのだ。

 

大体週に一冊から二冊程度、漫画だったり実写だったりと種類は様々だが、必ず新しい本が追加されていた。まぁ正確には捨てられていたわけだが。

 

恐らく何者かがこっそりエロスを捨てる場所として利用していたんだと思う。誰だか知らないが我々はエロの足長おじさんだと思い日々感謝していた。

 

最初にここを見つけたのは4年生のマサシ(仮名)で、独り占めせず町内の男子みんなに共有してくれたまるで三蔵法師のように尊い聖人だった。しかし彼はその清らかな精神で以てこのエロ図書館のルールも決めた。

 

・親にも女兄弟にも絶対に秘密

・一人では絶対に読みに来ない

・本は絶対に持ち出さない

 

このルールを男子は皆心に刻んで図書館を利用した。

 

しかし、必ずこういう時は己の欲望に負けルールを破る不届者が出るものだ。

例に漏れず私の町にもそいつは現れた。

 

私だ。

 

どうしてももっとエロ本が読みたかった私はある日こっそり早朝に神社に行き、エロ本を一冊服の下に入れて持ち帰った。

勿論選んだのは例のPS(そう略す)。お気に入りだったのもあるが、単純に人気もない雑誌だしバレないだろうという理由もあった。

 

我が家は農家だったので農機具だなんだのを仕舞う大きな納屋があった。その納屋の更に裏手に鯉のぼりやスキー板等シーズンモノをしまっている小屋があり、その中で私はじっくりと"読書"を楽しんだ。

やはり何が行われているかは分からなかったが(なぜわざわざ縄で縛るんだ?等)他人を気にせずに読めたことや、自分の家で隠れて読んでいることで、よりドキドキ感を強く感じられたのを覚えている。

 

エロ本はそのまま小屋の中、ソリの下に隠した。

 

それからは私はあまりエロ図書館に行かなくなり、代わりに小屋で自分専用のエロ本を見るようになった。新しい本より今ある本をじっくり味わいたかったのだ。

 

そんな日が一週間程たったある日。いつものように私は遊び行くと見せかけ家の裏に周り、読書に耽るため小屋に入った。そしていつもの流れでソリを持ち上げ、思わず声を上げてしまった。

 

「あっ!!!?」

 

エロ本が、増えていた。

あの図書館と同じように。

 

それは一冊の写真集だった。

金髪のグラマラスな女性のヌードが表紙の。

いわゆる洋ピンだ。

今までなら新刊入荷は嬉しい状況だが、これはわけが違う。

なんで?なんで?なんでここにあるの?

エロ図書館ならエロ本を捨てに来る人がいるのもわかる。だがここに来る意味がわからない。

別に、この小屋は施錠などしていないし入ろうと思えば誰だって入れる。それは確かだ。

だが、なぜ。

 

「追いかけてきたんだ……」

 

そう思った。

私は二冊のエロ本を掴むとそのまま近くのドブ川に投げ捨てた。

黒に近いグリーンの水に浮かんだエロ本は、しばらくはバラバラと女体を写しながら浮かんでいたが、やがて沈んでいった。

完全にエロ本が見えなくなった後も、私はずっとドキドキしっぱなしだった。

 

私は「エロいことばかり考えてたからバチが当たったんだ」と思い、エロ図書館への誘いも断りなるべくスケベな事は考えないようにしよう、と過ごした。

 

そんな日がまた一週間程続いた頃、エロ図書館は閉鎖されたと聞いた。詳しい経緯は知らないがマサシの母親に見つかり完全撤去されたのだという。

 

発見から終焉までおよそ一ヶ月半ほどの短い時間ではあったが少年たちには良い思い出になったと思う。

 

私も沢山学んだ。

やはり独り占めは良くない。

<了>

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