第7話 5月
ゴールデンウィークになったが、私の体力は失われた6連休となった
有り体に言うと倒れた
障害として認定されている病気の、ある意味「典型的な」発作
還暦を迎えた父の給料はガクンと減り、いくら父が私に甘いと言えども、もう支援はできないと知っていた
そんな中、生保に繋いで一安心のはずのちりめんじゃこからの電話があった
「なによ」
玉袋駅でコラボカフェを楽しんだあと、何故かクレカを忘れていた私が自宅に帰った時だった。
「ネット代が払えなくて、仕事が出来ないって言ったら、「ならその仕事やめれば?」って言われた」
「は? あのそんなに薄情な声には聞こえなかったけど」
「知らん人に変わっとった」
「は?」
「……タスケテ」
というわけで、昏呉市との第二ラウンド開始である
「どうも、私東京教区に住んでおりますもっちりアンコウ鍋と申します。ちりめんじゃこさんのケースワーカーに繋いでください」
「はい、私ですが、なんですか?」
名前を聞き出すと、道頓堀だと言った
確かにこいつの声は、嫌な臭いがする腐ったドブの臭いがする
いじめられっ子=義務教育期間の鼻は鋭いのだ
それでは以下は私の渾身の文字起こしであるのだが、あいにくと録音がうまく言っていない部分があった。
その為第三ラウンドからで申し訳ない
第三ラウンド
「すみません、先程一方的に切られてしまったので、道頓堀か、その上司の方呼んでいただけますか?」
♫黄昏の~きれいな~昏呉市~昏呉市~加須桑氏の~未木太三大偉業~我らのほーこーりー
「あ、なに? もっちり、もっちりさ「大丈夫ですか電気通ってますか?」あの、今お話したでしょ「してませんよ何も解決してないじゃないですか」
「この話は私達昏呉市とちりめんじゃこさんの話でしょ?」
「違いますよ。貴方方がちりめんじゃこさんの生活保護で働いている人の邪魔をするからこっちにヘルプが来るんですよ」
「だから私の生活を守るためにも貴方がたが仕事をしてください」
「ちゃんとしてますよ?」してるんだったら「だから貴方が口出しをするのがどうかと思うんですよ」
「してるんだったらすぐにちりめんじゃこさんのネット代払ってください「あのー」今はネットがなきゃ仕事ができない時代なんですよそれとも昏呉市役所はそんなにアナログなんですか?」
「なんで市役所がネット代出すんですか?」
「だから仕事のために必要なものだからです緊急小口金というのは貴方方が言ったんじゃないですか」
「で、そのために社会福祉協議会にもっかい審議にかけてくれっていうことを言ってるんですよ。でネットが使えなくなった理由も「だ、だから」お話しているはずですよ私は知っています」
「だから社会福祉協議会はダメだって言ったんじゃないですか?「言ってないです私が確認しました。言ってませんでした」
「……かせないって言ったはずですよ」
「いや、言っていません。貴方からケースが上がってきたことも知りませんでした。少なくとも窓口の方は。「き、昨日……」証拠の電話ならありますよ」
「昨日そのように話したんじゃないんですか? 昨日夕方頃に」
「いや違います。昨日私が社会福祉協議会で確認したのは、道頓堀という人からちりめんんじゃこさんの貸金の案件が来ていないということと、それから案件が来ても審査に時間がかかるということを聞いています」
「……まあ……あの……ね」
「なんで言葉に詰まるんですか事実だけを私は言っていますよ何をごまかそうとしてる「だ、だから貴方がね、お金を出してくれっていうのはおかしいんじゃないですかと言っているんです」
「何故ですか?」
「うん」
「いや、だ、だか「ああわかりました! 領収書を出して、貴方のところに送りますよ。貴方方が仕事をしなかったので私が人間の命とライフラインを出しましたって書けば、経費として認めてくれるんですよね?」
「な、なんでですか? 認められるわけないじゃないですか」
「アハハハハハハハ wwwwwwww!!!!」
「き、切りますよ?」
「面白いです、それが広島教区流ジョークなんですか? なかな―――」
第四ラウンド
「あ、もしもし? 私東京教区で生活保護を受けておりますもっちりアンコウ鍋と申します。ちりめんじゃこさんのケンでお話がありまして」
「ちりめんじゃこさん? はあ、ちりめんじゃこさんねえ……」
「あ、道頓堀氏はやめてください。もう三回も電話切ってるんで、話が通じません。別の方か上司の方にしてください」
「ちょっとまってくださいね」
「道頓堀氏はやめてください」
♫黄昏の~きれいな~昏呉市~昏呉市~加須桑氏の~
「も、もしもし? もしもし?」
「あ、もしもし? ダメじゃないですか、ちゃんと話しなきゃ」
「もう話することないですよ」
「いや、ないんだったら今すぐ彼女のお金の相談受けてください。私の仕事ができなくなります」
「……じゃ、じゃあ、あの「じゃあ貴方の上司に言いますので貴方じゃなくて上司の名前教えて下さいなんていうんですか?」
「あ、ちょっと待ってください、今電話中なんで上司は」
「あ、本当ですか。で、貴方の言い分をまとめるとどうなるんですか?
「んっ?」
「貴方はちりめんじゃこさんがどういう風に困っているのかご存知じゃなくて、んでホイホイ貸せるもんじゃないと言って、彼女が無駄遣いをしていると考えていて、で、本来生活保護というものは働けない人間や働くまでのセーフティネットであるのに、働くための道具が使えなくなるから助けてほしいというところを、わざわざ無視して、働けない人がこのまま働けないままに死のうとしているところを無視して、とりあえず生活保護はちゃんとやってましたよという既成事実を作っておいて、マスコミなどをごまかしておくという、そういうお考えですか?」
「私にはそのように見えるんですけれども」
「……まあ、なんとでも言ってください。貴方には関係ないことですから」「関係ありますよ」
「関係ないです」「なんでですか?「はい」
「貴方が関係なくとも私は関係ありますよ」
「…な、どうしてですか?」
「逆に「他人、他人のことですよね?」他人?「そう」
「他人というかもう部下みたいなものですし何だったら私彼女にどれだけ投資してると思ってるんですか」
「仕事をさせるために「そんなこと知りませんよ」
「そうでしょう? だって貴方たちが知らないように、貴方たちが知らない仕事の仕方だってあるんですよ」
「そんなこと知りませんよっていうんだったら私だって知りませんよ貴方がたの事情なんか知りません」
「う、うん、だか「人間を見なさい!数字じゃなくて人間を見なさい!」もっ、だから、かけないでください「上司を出しなさい!」電話かけなでください、電話かけないでください」
「いやですね、ちゃんとこの件は「もう電話かけないでください」
「駄目です、逃がしません、上司を出しなさい!!」
文字起こしに使う録音は、残念ながらここまでなのだが、この後、
「もしもし?」
「関係ないでしょあんたには!!!」
という怒鳴り声で、オールラウンドセットとなった。
この後、名前の知らない昏呉市の男から電話がかかってきた。上司だという。この人は比較的、まあ話が分かる人だったので、すぐにちりめんじゃこの元へ行ってくれた。名前は蒸留水と名乗った。
我ながらドラマみたいだったな~、さすが元舞台女優。アレぜったいパウロあたり憑いてたし、なんなら喧嘩っ早いヤコブあたりが憑いてたかも。
あ、でも私はパウロみたいに話しているって言われたことあったから、アレ多分ガラテヤでおちんちん論争をしているときのパウロじゃないかな。
しかし、どうやっても、出せないものは出せない、というのは、役所の悲しいところである。
蒸留水も熟年の穏やかさはあっても、「チャンネル経営」という新しい働き方は知らなかったようで、
「お友達同士で、2400円出してあげてください」
となった。しかし蒸留水は話ができる男だ。私は聞いてみた
「私がちりめんじゃこさんに2400円貸した場合、私に2400円返して、行政にも2400円返すんですよね?」
「ええ、そうなりますね」
「じゃあ、売上ならどうですか? 貸与ではなく、ちりめんじゃこさんの作品を売るんです。それを送金します」
「それなら収入ですね」
一度電話が切れてしまった。
ほーう…?
この私に、金を作れと申すか。
無い袖は振れない。なら、無い袖を継ぎ足せば良い。
もう一度電話をし、蒸留水に、開発にかかる費用は役所は出してくれるのか、と、聞いた。
当然不可能だった。わかっている。
私が言質としてもう一度確認すると、蒸留水は、
「はい、確かに私言いましたので」
と言ってくれた。
日付は五月十六日。
私の「主戦場」まで、あと3日だ。
「起きろ、じゃこ。残り3日で本を書く。そんでそれを一冊1200円で売る。お前が挿絵を書け。私が本文を書く」
しかし、ちりめんじゃこから原稿は来なかった。
ちりめんじゃこが起きる時間帯まで起きていても、一般的に起きる時間まで起きていても、私がいつも起きる時間まで起きていても。
ちりめんじゃこは連絡をよこさなかった。
その理由を私は知っている。
だから、そう。
少しでも、少しでもいいから、色々なものを作らなければ
たった二冊、私なら売ることができる。確信している
でも、これは応急手当に過ぎない
だから何が何でも、ちりめんじゃこに商品を作らせなければ
病気の特徴と道頓堀の対応、蒸留水の行動から、大体のちりめんじゃこの身体の状態は予想がつく
手をもし引いたら、それは引き金だ
大丈夫。19日がダメでも、その1週間後がある
私ならできる。私ならやれる
伊達に8年、イベント売り場に立っちゃいないのだ
あとは原稿だけ。その原稿の負担を減らすには―――。
……あ、寝てた。
夢の中でまで売り方考えてた・
イベント前日の13時、ようやくちりめんじゃこが筆を持ってくれた
Twitterの宣伝すら出来ないような疲労の中
耳から突き刺してくる派手なロックとちりめんじゃこの奇声を見守りながら
静かに眠りに落ちたその日は、
東京文学フリマ38当日
東京流通センターでの、最後の文学フリマの日だった
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