第4話 2月

生活保護を受けるきっかけになったのは、コロナだった


はっきり言って、実家は裕福だった


何のかんの、年収1000万は稼ぎ、税金で100万円納める家だったようだ


厳格な父、精神障害の母、病識のない友人に囲まれて、何不自由なく生活していたけれど


いずれは家を出て、一人暮らしをしたいと思っていた


その為には、私1人、稼ぎ頭が父1人の今の家庭では耐えられない


そして私自身も、働くことを極度に制限される病気だった


端的に言うと障害者だ。2級の等級の基準は「働くことが出来ない」


ケースワーカーと相談して、JR前立線沿いで生活保護を受けようとしていた時


「娘が自立のために生活保護を受けたがっている」


と、計画も何も知らない母によって計画が頓挫した


コロナが始まって


友人が陰謀論にハマり始めた


クラウドソーシングで働き始めた私は、24時間降り注ぐストレスの中


ワクチンという「肉体的ストレス」により熱が下がらなくなった


おかげで継続だったクラウドソーシングの契約先に、2週間以上ワクチンの副反応が治らない、ということを信じて貰えず


半年分の給料が「途中終了」扱いになり吹き飛んだ


コロナが開ける前、生活保護を受けながら同人活動をしている友人の助けと


恋人らの助けで、家を飛び出した


飼い犬は出ていく日を決める頃には、いつも寂しそうに私を見ていた


東京教区の中心部


沿岸地域の役所に一時保護してもらい、先に住民票を移す必要があり、その為に住所として施設が必要だった


初めて、お手本のような障害者差別に遭った


水際政策を突破した後


「いつ倒れるのか分からない病気」「共同性に欠ける病気」


名前も名乗らず女は、待たせるだけ待ってそう言って去った。


パニックになる私を、友人が慰めながら、


「遅いので、祝日を挟んで4日後、またお越しください」


そうほざく所長に、友人は自身も障害者であると反論したが、全く動じなかった。


私は叫んだ。


「私はエホバの証人の孫だ!! 統一教会と並ぶカルトの一族に育てられた、歪んだ倫理観を持つ父親の娘だ!! お前達の怠慢のせいで第2の安倍晋三が出たらどう責任をとる!!」


「私の人権を守れ!!」「私の人権を守れ!!」「仕事をしろ!!!」


こうして何とか私は、衛生基準もへったくれもない、小説を書く趣味だけが合う施設に行ったのだが。


そこは、父の職場の真ん前だった。


ここでも学ぶ権利を邪魔され、外に出る危険性を、味方だったはずの友人に詰められながら、


前途多難な生活保護による施設暮らし兼お家探しが始まった


後援者がいてもこの扱いだったので、NPOの力を借りることが出来ないちりめんじゃこが、生活保護を受けられるとは思って居なかった


案の定、水際政策をとられ、自宅に帰されていた


交通費もなくなり、2月の障害者年金を受け取った足でちりめんじゃこが行くと、


障害者年金を持っているからと追い返されたという


「お金がないので、障害者年金が出たら来ます」


そのようにちりめんじゃこが言ったのだが、聞く耳を持たない


延滞が重なっているインフラを支払ったら、3月に生きていくことが出来ない


事の顛末を聞いて、広島教区の区役所に電話をした。担当の名前はドブ川と言った。


「年金が出ても、引き落とし額が決まっていてその日付も決まっているのに、何故その後の1ヶ月半のために予め申請書を書けないのか」


「広島教区は現金が3万以下じゃないと申請書書けないんで」


「私は東京教区で保護を受けているが、家を出るにあたり、10万のパソコンを買った。金額と引き落とし額を説明したら認められた」


「それはそっちの自治体の手心じゃないですかね?」


「貴方、計算が出来ないんですか? インフラを支払ったら今月を生き抜くのが精一杯だと説明してますよね」


「でも法律で決まってるので。全国で決まってるので」


「障害者年金が出ないと交通費がない、と言っている時点で、年金が出ることは分かっていたはずだ。何故一往復分ものバス代を無駄にさせた。何故申請書を書くことすら拒否した。水際政策が違法なのは貴方も知っているはずだ」


「でも国の法律なんで。この人だけ特別扱いする訳にいかないんで」


「白々しい!! 具合が悪くなった彼女の食費の面倒を見ているのは、顔も知らない、趣味が同じだけの私だ。東京教区で生活保護を受けている人間が、他人に援助するのは法律で禁止されている。私が国に対する詐欺で打ち切られたら、ドブ川の名前を出すぞ」


パンと葡萄酒を与えるだけで


人の命が買えるなら


いくらでも買ってやる


だが私が2レプタの収入の中から、分割払いが出来なくなったカードで買った5レプトン分のパンを踏みつけ、葡萄酒の瓶を壊すなら


それは「彼女」を殺した20年前と変わらない社会だ


そんなことは許されない


彼女は、「彼女」のことで悩み続け、進路に大きく影響を与えた私に遣わされた贖いの小さくされた人キリスト


あの時の経験ちからを持ってして、必ず彼女の命を繋ぐ。


フリーランスのシナリオライターになった私は、彼女が生活保護に通りやすいよう、「微小な仕事しか出来ない」という証明のため、YouTubeコンテンツの雑用の仕事を、オーナーを説得して雇って貰っていた


ここで負ける訳にはいかない


絶対に、絶対に、申請書だけでも書かせる


「とにかく申請書は書かせろ!! 彼女が死んだらお前の責任だぞ、ドブ川!!!」


「今日中に来てくれるなら対応します。あと計算はできますよ」


主張するのはそこなのか。


ちりめんじゃこは丁度、訪問看護師に体調を見てもらっていると知っていたので、電話をかけた


「私は東京教区で生活保護を受けていて、ちりめんじゃこさんと共通の趣味を持っている、もっちりアンコウ鍋と申します。訪問看護師さんが区役所に連れて行けないのは承知しているのですが、連携各所で、役所に今日行けるヘルパーや支援員は手配できますか?」


「情報の共有ならできます」


「ですよね。ご無理を言っているのは百も承知です。ですが昏呉市役所は、今日ならお金があっても対応する、の一点張りで」


「分かりました。最速で共有します」


権限には限界がある


それは何も責任の押し付けあいではなく、専門家に任せることで、より良いケアをする為だ


そんなこと、「彼女」を救うために、実際に気が狂って精神病院に入退院を繰り返しながら勉強した、私がいちばん分かっている


そして福祉業界は慢性的な人手不足で、自治体も予算がない。


ちりめんじゃこは今日中に行けるのか、とにかく、ドブ川との会話を録音して、「不適切発言」として報告した。


「『計算は出来ますよ』はワロタ」


訪問看護師が帰った後、ちりめんじゃこからそう連絡が来た。


そしてやはり、体調不良が原因であることと、連れて行って貰う人が居らず、行けなかったという。


また明日、抗議のド気合を入れてやるか。そう思っていると。


「昏呉市のドブ川って人から電話来て、ケースワーカー連れて、申請書持ってきてくれた。ありがとう。」


フン、生活保護受給者が全員無知の孤立無援だと思うなよ


前の自治体のケースーカーのせいで負わされた無駄な負債を、今だって返し続けている私だ


「事務屋」が一等嫌いな私だ


裏に私がいる


父譲りの、父から盗み、聞きかじった弁舌を持った私がいる


絶対に、絶対に、死なせない。


今度こそ、かのじょを守り抜く。


「外に出ると必ずトラブルを起こすから、もう、一生どこにも行かず、誰とも話さず、引きこもって、書きたいものを書いてお金を少しもらうだけの暮らしをしてほしい」


すまねえ、とーちゃん。


私は自分の信仰ちつじょに生きると決めてしまったんだ。


家庭人として、父親として、アンタの魅力は経済力と、何のかんのと私に甘いことだったが。


アンタの仕事人としての姿に憧れていたのは本当だ


自慢の父親だ


アンタの武勇伝で聞かされた弁舌で、面倒事に首を突っ込んですまない


でも、アンタが法律に従って仕事をするように


私は自分の信仰に従って暮らすことにしたんだ


「被災地で絆を断たれた孤独に漬け込み、エホバの証人が被災地に湧いている。神父様しか奴らから被災者を守れない。彼らを知って欲しい! 物資や教会報だけでなく、キリスト教を名乗るカルトから被災者を守って欲しい!」


私の


「このままでは、宗教を理由にした殺しが出る。現に子供の輸血拒否が称えられている。カトリックが正統派を名乗るなら、カルト問題に触れるべきだ!」


私たちの


忠告を無視し、予言を「当てさせた」奴らとは違う信仰の道を選ぶことにしたんだ


私は、狂信者だから

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