第41話 由々しき問題

ライオネルとシシェバを傘下に加えた俺達はライオネルでやるべきことを終えアジトに帰ってきた。

ちなみに全てのアジトの場所を把握しているのは御剣たちだけで構成員であっても自分の所属するアジトしか知らない。

グレイブたちにも場所は教えていないしこうやってスパイからの被害を抑えているのだ。


「さて、ようやく着いたわけだが………やるべきことは山積みだな……」


各御剣たちの報告や不在だった1ヶ月間のマンスリーレポートに目を通していく。

だが特に大きなトラブルなどはなかったらしくひとまずそこに安心した。

奴らは放っておくと何をしでかすかわかったもんじゃないからな。


「レックス様。アーサーさんはどこに配属しますか?」


「あ、それも決めなくちゃいけないのか……」


アーサーは黒白双龍団の中では新米も新米。

だが一応ライオネルの王子なわけで前線に出しまくって死んじゃいましたとかではライオネル国民の反感を買ってしまう。

だから最初から幹部にするつもりで育てたいけど……


「私はどこに配属になっても構いません。レックス様」


「そういうわけにはいかないんだよ、アーサー。とりあえずお前には強くなってもらわないとな」


「強く、でございますか?」


「そう。強くなってもらえばこちらとしても色々と好都合なんでな」


流石に俺とイリスの下につけるわけにはいかない。

そうなると誰につけるべきか……

そう考えていたとき扉がノックされ開いた。


「ぶわっはっはっは!レックス様!このマキシマム=アームストロング!レックス様がご帰還なさったと聞き参上いたしましたぞ!」


一瞬シーンと空気が凍りつく。

イリスはため息をつきアーサーは何が起こったのか理解できないと言わんばかりに口をぽかんと開けていた。

俺も暑苦しいそのおじさんの登場にげんなりする。


「マキシマム。少しは落ち着け。アーサーも驚いているだろう」


「おお!その方がイリス殿から聞いていたライオネル王子のアーサー殿ですかな?大変良き体つきをしておられる!ぜひとも一度手合わせをしていただきたい!」


「はぁ……」


マキシマム=アームストロング。

名前からして筋肉モリモリそうなイメージだがそれを体現するかのような肉体をしているドワーフのハゲたおじさん。

創造魔法も使いこなし御剣の武器の整備や製作も担当している脳筋戦闘狂なのだがタイマンでは御剣でも上の3人を除けば最強である。

御剣第七席、第7の剣『創拳そうけん』のマキシマムとして名を馳せていた。


「あ、でもちょうどいいか……」


「レックス様、まさかとは思いますが」


「別にいいだろ?強くなるためならこいつに預けるのが一番早い」


「……まぁそれは否定しません。変なことまで吹き込まれないかがいささか心配ではありますが」


「うむ?某がどうしたんですかな?」


そう言ってマキシマムはムキッと腕に力を込める。

ちょっと預けるのが不安になってきた……

この脳筋にアーサーを預けるのはちょっと怖いなぁ……

だがこいつ以上の適任がいないのも確かで俺は腹をくくることにした。


「アーサー。しばらくはこいつのもとで修行を積んでくれ。とりあえず強くはなれると思うから」


「ぶわっはっは!そういうことでしたらお任せくだされ!アーサー殿もよろしく頼みますぞ!」


「は、はぁ……」


引いてる!アーサーが引いてるからその暑苦しい言動をやめんか!

はぁ……御剣たちはなぜこうもキャラが濃いんだ……


「では早速行きますぞ!」


「え?ど、どこにですか?」


「まずは座学でレックス様の素晴らしさを知ってもらわねば!たっぷり五時間ほど教授するので安心されよ!」


「ご、5時間!?」


そう言ってマキシマムは驚くアーサーをずるずると引っ張って部屋から出ていった。

ていうか俺の素晴らしさを座学するってなんだよ……

誰にもその授業に対して需要は無いだろ……


「イリス……座学ってどういうことだよ……あいつおかしいんじゃないか?」


「そうですね。5時間ほどではレックス様の素晴らしさを語り切るには全然足りないと思います」


「………は?」


思わず素の『は?』が出てしまった。

そしてイリスはどこからともなく本のような何かを取り出す。


「………一応聞いておくがそれはなんだ?」


「レックス様の素晴らしさを説いた聖典です。黒白双龍団のメンバーはみなこの聖典を所持しており毎朝一説を読み上げる者もかなり多いとか」


どんなヤバい宗教団体ですか!?

そんな本がこの世に存在していることを今初めて知ったんですけど!?

なんか洗脳してるみたいで嫌なんだが!


「……なぜそんな洗脳まがいのことが始まったんだ?」


「マキシマム殿が作ろうと言い出して他の御剣たちも乗っかって作ってましたね。私はレックス様の素晴らしさは本にせずともわかるからいらないのでは?と反対しましたが」


マキシマム!!!!!

あいつ何勝手なことしてやがんだおい!

ろくなことしねえじゃねえか!給料減らすぞ!


「というかイリスも持ってるじゃないか」


「これは見本本でいただきました。出来上がりが中々良かったので今では愛読書です」


お前もそっち側かい!

なんか自分のことを本にされて誰かに読まれるって猛烈に恥ずかしいんだが!?

すぐにでもやめさせたいところだが世界各地に散らばる構成員みなが持っているのならやめさせるのは現実的に無理だ。

俺はがっくりと肩を落とし諦めることにする。


「はぁ……程々にしておけよ」


「レックス様がそうおっしゃるならば」


イリスは物わかりがいいなぁ……

ただ俺が何かに気づく前に事を済ませているのが難点だが。

すでに終わったことを注意しようがない。

しかもイリス的にはサプライズ感覚なんだろうな……

それで俺が喜ぶと本気で思っている。


「そういえばレックス様にご相談があるのでした」


「ん?どうした?」


「実はライオネルでもレックス様とお話しましたが軍事関係以外、簡単に言ってしまえば支援や組織運営の人材が不足しています」


人材不足問題か……

うちは戦える人間が集まっているため戦力を効率的に扱えるよう戦闘員が増える度に

活動範囲を広げている。

流石に世界全土に拠点があるわけではないがイリス一人で運営するにも限界が来ていることには薄々気づいていた。

御剣たちはそういうのにノウハウがあるやつはいないしそもそもそこに使うのがもったいない。

あいつらは戦わせてなんぼだからな。


「今何か手は打っているのか?」


「私の後進を育てようとはしています。しかし私も拠点の外で活動を行うことも多く思ったような成果は出ていません。それに今求めているのは天才の部類です」


「天才の部類?」


「はい。育てることで優秀な人材を集めることはできるのですが組織運営の頂点を育てようとすると中々難しいのです」


なるほど。

つまり優秀な手足は用意できてもそれを動かす頭脳がいない、と。

イリスは優秀すぎて自らも戦い、軍事的な立案もし、作戦を考え、組織の運営など全てを一手に担っている。

だがこれ以上はイリスが倒れてしまう恐れがあるため次の人材に任せたいが下手な人物にも任せられない。

これは由々しき問題だ……


「解決策はあるのか?」


「もう少し後で実行予定だった作戦のついでに解決する見通しがあります。なので予定を早めてしまおうかと」


一挙両得作戦ってことだな。

一回の任務で2つの得をするのは素晴らしい。


「どういう作戦なんだ?」


「いないなら他所よそから貰ってこようかと。そしてもう一つの任務はとある人物の誘拐です」


「………………え?」


誘拐だって!?

俺達はついにそんな犯罪組織になっちゃったのか!?

って俺達はもう犯罪組織か……

国際指名手配までされちゃってるもんな。

けど流石にそれは抵抗感があるんだが……


「誘拐ってそこまでしなくても……」


「しなければ多くの人の血が流れます。そして立場上成し遂げられるのは我々だけなんです。他の正規の国家ではこういうことをするのは難しいので」


一体誰を攫う気なんだ!?

多くの血が流れるって……そんなに危険人物?

そんな人を誘拐するって超怖いんですけど……


「我々の大志を成し遂げるにも必要な一手です。どうか許可をくださいませんか?」


「一体どこから人材を奪ってくるつもりだ?」


「ラプラス魔法学園です」


ラプラス魔法学園。

それは国籍を問わず世界中から優秀な学生が集まる世界一大きく難しい学校と言われ各国の要人の子どもたちも多く在籍している。

そんな中から誘拐してこよう、なんて言われ俺は言葉を失うのだった──


─────────────────────

次回からラプラス魔法学園編に入ります!

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