第39話 友は死に面倒事はやってくる
終戦から一ヶ月後、ライオネルに残った俺達は戦後処理の手伝いをしていた。
まあ大半はスタンピードによって被害が出た一部の街を魔法で修復していくことだったが書類とにらめっこしているよりは人々の喜ぶ顔が見れて嬉しいし久しぶりの休暇として街で買い物とかしたりした。
つまるところまぁまぁ悪くない生活を送っていたのである。
「あっ!レックス様!さっき住民の方に教えてもらったんですけど向こうにあるサンドイッチ屋が絶品みたいですよ!よかったら私たちと行きませんか?」
「その……ご迷惑じゃなかったら来てほしいです……」
「クレアとセレナか。いいぞ、ちょうど小腹も空いたし行くか」
同じく休暇で街を出歩いていたクレアとセレナに鉢合わせし食事に誘われる。
ちょうど時間帯的にも小腹が空いていたので食べに行くことにした。
「というか2人で回っていたんだろう?誘いを受けておいてなんだが俺がいたら邪魔じゃないか?」
「いえ!レックス様と一緒にお食事できる機会はそう多くありませんし!ね?セレナ?」
「はい。お姉ちゃんとはいつも一緒にご飯を食べてますから……」
どうやら俺がいても邪魔ではないらしい。
そういうことならと遠慮なく参加することにした。
クレアの案内で歩いていくと例のサンドイッチ屋が見えてくる。
「とりあえずこの店で一番おすすめの物を一つ」
「私はハムチーズで!」
「わ、私は卵でお願いします……」
それぞれ注文して受け取ると近くのベンチに移動する。
そして食べ始めると2人の顔が一気に明るくなった。
どうやら相当気に入ったらしく目を輝かせながらむしゃむしゃ食べていた。
ちなみに俺はアジフライでタルタルソースの味が絶品だった。
有名になるのもわかるな。
「レックス様。ご歓談のところ失礼します。イリス様より王城に来ていただきたいと伝言を預かりました」
「イリスが?」
「はい。急ぎの用事ではないですができるだけ早く来てほしいと」
「わかった。すぐに行くとしよう」
俺は残りのサンドイッチを食べ立ち上がる。
せっかく休みを謳歌していたというのにこれが休日出勤を命じられるサラリーマンの気持ちなのだろうか。
サラリーマンになったことないからわかんないけど。
というか至急ではないとはいえイリスからの呼び出しなんてあんまり良い予感がしないというのが一番心を重くしている原因だが。
「さて、俺はもう行くとするよ。クレア、セレナ。2人はこの休日をしっかり満喫してくれ。なんてったってヴァルコー戦の戦功者だからな」
「わかりました。レックス様」
「は、はい……」
「食事に誘ってくれてありがとう。とても美味しかったよ」
俺はそれだけ言い残しカルベル城に向かって歩き出す。
至急じゃないということはまあそこまで急がなくてもいいだろう。
食後の散歩ということでのんびり歩いているとカルベル城に到着した。
もうこの一ヶ月で既に慣れた城内を歩きイリスがいると思われる第2執務室を目指す。
ノックするとイリスの返事が聞こえてきたのでドアを開けて中に入った。
「レックス様、休暇中にお呼び出ししてしまい申し訳ありません。それに本来は私から出向くべきだったのですが……」
「いや、それは気にしなくていい。イリスだってめちゃくちゃ働いてるし俺は別に呼び出されたことに文句は言わないさ。というかしっかり休暇は取れよ?」
本当は文句を言わない、じゃなくて言えないだけどな。
イリスはヴァルコー平野での戦いが終わると今度はグレイブとライオネル軍を連れてシシェバに向かったのだ。
そしてライオネル軍とシシェバ軍の指揮は取らず軍師という形で策を与え続けあっさりと帝国軍を撃退してしまった。
帝国の秘蔵兵器を直接見れて収穫が大きかったとも言っていた。
つまるところイリスは俺以上に働いており俺が文句を言う事などできないのである。
「はい。ライオネルでの案件が終われば少し休ませていただこうと思っています」
「ああ、そうしてくれ。イリスが倒れると組織運営に大きな支障が出るからな」
「確かに戦闘に関しては人材が揃っていますが運営に関しては多少人材不足なのはいなめませんね」
だってイリスが軍部も運営も全部指示出してるんだもん。
ときおり俺以上に重要人物なのではないかと思う。
だって俺がいなくてもイリスがいれば組織が回るんだから。
「それで今日は一体どうしたんだ?」
「グレイブ殿が大切なお話があると言っておりましたので。明日からもまた仕事が入っており今日しか時間が取れませんでした」
「なるほどな。してグレイブ殿はどこに?」
「お呼びすればすぐに来れるそうです。会談場所は客間を用意しているそうです」
「わかった、すぐに向かおう。グレイブ殿を呼んでおいてくれ」
「承知しました」
イリスが部下を呼びグレイブのもとに伝言を伝えるように頼む。
そして俺の少し斜め後ろをついていくように一緒に歩きだした。
思えばお互い忙しかったからこうしてイリスと二人きりで歩くのは久しぶりかもしれない。
「そういえばイリス。薬の正体は掴めたか?」
「申し訳ありませんがあれは世間に出回るような既存のものではなく独自の素材や製法で作られているようでして……解析班が今残された注射器から成分を抽出し調べています」
「そうか……」
あの薬は危険すぎる。
あれを投与することでどんな人間でもあのような化け物になってしまうのはマズイ。
とにかく出所を探って潰さなくてはならなかった。
「まあいい。ジェラールもすぐに動き出すことは無いだろう。今はこっちを優先しよう」
「はい」
客間に到着し扉を開けると既にグレイブが待っていた。
俺達も直接来たはずなんだけどずいぶん早いな。
グレイブの他にも若いライオンの獣人と少し年を取った魚人がいた。
「レックス殿。我らのために時間を割いてくださったこと。感謝申し上げる」
「いや、別にいいさ。それよりも用件とはなんだ?別に世間話から入る間柄でも無いしな」
「実はライオネルとシシェバ王国について話が……」
「ほう。何かあったか?」
俺がそう聞き返すと突然目の前の3人が頭を下げた。
その光景に俺の頭には疑問符が浮かぶ。
え?なんでいきなり頭下げてんの?
「我らライオネルは戦前の約定としてではなく自らの意思でレックス様に絶対の忠誠を誓い黒白双龍団のために全力を尽くします。そして我らの最初の貢献としてシシェバ王国も傘下に入るよう説得いたしました」
「………は?」
「はじめまして、レックス様。私の名はライナス=シシェバと申します。シシェバ王国の国王をしておりこの度は私たちも黒白双龍団の傘下に入れていただきたく参った次第にございます」
いやいやいやいや!?
意味分かんないよ!?
イリスがシシェバの援軍に行ったのだってライオネルを約束通り帝国軍から守るためであってシシェバを傘下にいれるためではない。
イリスからも今回は勧誘はしていないと報告を受けているし……
「い、一応聞くがライナス殿はなぜ傘下に入りたいと?」
「私のことはライナスと呼び捨てで構いませんよ」
「おお、そう言えばそうであった。我もグレイブと呼び捨てで構いませんぞ」
こいつら全然人の話聞かねぇな!?
まだ傘下にいれること了承してないんだから勝手にそのつもりで話進めてんじゃねぇよ!
「それでご質問に答えさせていただきますが私たちもグレイブ殿に誘われ此度の戦の話を聞きました。そして実際にイリス殿に助けていただいたことで思ったのです。我らシシェバもついていくならばレックス様をおいて他にいないと」
いるだろ別に!?
世界は広いんだから俺以上に有能な人なんて腐る程いるわ!
なんでわざわざ俺達みたいな組織に国の首脳が忠誠を誓おうとしてくるんだよ!?
「……イリス」
「断る理由は特に見当たりません。ぜひ傘下に入ってもらいましょう」
「………」
イリスがこの状況を打開するデメリットを出してくれるかと思ったけどダメだった。
イリスで断る理由が見つからないなら俺に見つかるはずがない。
俺はがっくりと肩を落とした。
「そしてレックス殿。我らはもう一つ頼みたいことがあるのですが……よろしいですかな?」
「聞くだけならば」
「それだけでもありがたい。実は我が息子アーサーなのですが黒白双龍団の一員に加えていただけないでしょうか?」
なんで王子様を預けようとするんだよ……
めんどくさいことになりそうな気しかしなくて絶対に断りたいんだが。
俺は後ろに立っているイリスを呼び寄せ耳打ちする。
「どういう意図があると思う?」
「大方我らに取り入りたいのかと。スパイの可能性は低いです」
「断る方法は?」
「アーサー王子はライオネルの人気者です。加入させて損は無いので別に断る必要はないかと」
俺の道は絶たれたのであった。
そう言われてしまえば俺は首を縦に振ることしかできなかった。
こうして黒白双龍団は2つの国を同時に手中に収めた。
このことでもはや黒白双龍団をただの1組織だと馬鹿にすることはできず、列強の仲間入りを果たすことになる。
それによって世界同盟は緊張を高め黒白双龍団の名声によりこれを支持する者も増え始める。
それが後の世界にどう影響してくるのかはまだ誰も知らない話であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます