第34話 大任と汚い女(リチャード視点)

我が名はリチャード=ドレイバー。

ドレイバー帝国皇太子にして至尊の存在である。

二年前までは自由に遊べる最後のひとときを楽しむため冒険者をやっていたが今は既に実質引退の身でもある。

蒼天の剣も活動休止という名目でその実解散したのだが……


「リチャード殿下。陛下がお呼びでございます」


「あいわかった。すぐに行こう」


この者は元蒼天の剣のメンバーであり今は俺の側近をしている。

他のメンバーたちも同様に俺の直属の近衛隊として部下になっていた。

俺はS級冒険者を同時に配下に入れ、配下たちからすれば次期皇帝に仕えることができたのだからお互いに利のある話だった。


「皆は仕事を続けていてくれ。私は陛下の元へ行ってくる」


「承知いたしました、殿下」


執務室での書類整理を部下に任せ俺は呼びに来た元仲間と共に謁見の間へと向かう。

この城も随分と長い間離れていたがやはりそこらの街にある汚らしい宿屋なんぞより何百倍も居心地が良い。

謁見の間の扉の前まで来ると衛兵が話しかけてくる。


「殿下、既に陛下は中でお待ちです。扉を開けてもよろしいですか?」


「構わん。開けろ」


「はっ!陛下!リチャード皇太子殿下のお越しです!」


『入れ』


中から父上の声が聞こえてきて衛兵は扉をゆっくりと開ける。

そして俺は部下を廊下に待たせ一人で謁見の間へと進んだ。

中には重臣たちと一番高いところに置かれた玉座に堂々と座る威厳に満ちた父上の姿があった。

まさにその玉座こそ人類の最高権力の証である。


「陛下、このリチャード。陛下がお呼びと聞き疾く馳せ参じました」


「うむ、よくぞ参った。我が息子リチャードよ」


公的な場ではたとえ実の父であっても皇帝と臣下として振る舞う。

俺は片膝を地につけ胸に手を当てて深く頭を下げた。

普段は絶対に頭など下げたくはないが父に対しては話は別だ。

帝位を簒奪さんだつする気など俺には無い。


「して、リチャードよ。今回はお主に任せる案件ができてここに呼んだのだ」


「案件、でございますか。それはどのようなものなのでしょうか?」


「焦るでない。順を追って話そう」


やはり父上はたくさんの修羅場をくぐり抜けているだけあって纏う雰囲気が他の愚者共とは一線を画している。

緊張などするはずもないがただ話しているだけだがなんとも重苦しい空気が流れていた。

俺は頭を下げたまま父の言葉を待つ。


「お主、今我らが東の隣国であるライオネルとシシェバと対立しておることは知っているな?」


「はい。奴らは獣人、魚人でありとても高尚である我ら人間と対等に手を組むことなどできません。であれば魔王軍の動きがここ百年ほど無い今、帝国の下に力を統一するためには必要な侵攻かと」


「うむ。国土を広げることで我らの国力を高め、捕らえた獣どもは奴隷にすれば都合の良い労働力の完成だ。この侵攻は実に理に適っている。よく勉強しているようだな、リチャード」


「はっ!お褒めの言葉、感激至極にございます」


なぜ今、ライオネルとシシェバとの対立を出したのか。

その理由がなんとなくわかってきた。

確かに相手もタイミングもちょうどいいのかもしれない。


「今回ライオネル近郊でスタンピードの前触れがあったとライオネルに潜り込ませている密偵から連絡があった」


「……!真でございますか」


「ああ、シシェバも陥落寸前まで追い詰めライオネルもシシェバに大量の援軍を送って兵は少ない。今ここで2つの国を同時に叩き潰す。そしてライオネル方面の侵攻の総大将をお前に任せる」


(やはり……か)


父上の話は俺の予想通りだった。

皇太子ではあるが今俺には大きな実績は特にない。

たとえその状態で皇位を継いだとしても批判されることは無いだろうが皇帝とは王以上に圧倒的権力で国を率いる至尊の座。

なんらかの実績を持っていたほうが後々統治もしやすいだろうしその威厳とカリスマも引き継いで皇帝に君臨することができるというわけだ。


「承知しました。その任、謹んでお受けいたします」


「うむ。そしてエドワーズ軍務卿」


「はっ!皇太子殿下の支えとなれる優秀な人材を見繕っておきます」


「それでいい。その人選に失敗は許さんぞ。ここまで追い詰めておいて負けるなど誇り高き帝国の恥だ」


「肝に命じます」


エドワーズ軍務卿は生粋の武人で皇室への忠誠も能力も高く非常に優秀な人材だ。

そんな彼が副官を用意してくれるというのだからこの戦いにもはや負けはないも同然だ。


「各々ができる全力を尽くし我の前に結果と成果をもってこい。ではリチャード、もう退出してよい」


「はっ!失礼いたします」


俺は深く再び一礼をして謁見の間を出た。

そして廊下に待たせていた部下と合流する。


「お疲れ様です、リチャード殿下」


「ああ。父上からライオネルへの侵攻する軍の総大将を任された。近頃私は出陣することになるだろう」


「真ですか!我らがリチャード殿下の名が世界に広まるときが来たのですね……!」


「所詮はお飾りの総大将だがな。だが初陣としては悪くない舞台だ。今のうちから仕事の引き継ぎを進めておけ」


「はっ!承知しました!」


部下と仕事の話をしながら廊下を歩いていく。

すると目の前にある人物が現れた。


「おや、ナターシャではないか」


白を基調とした修道服に身を包んだ彼女はこちらに気づくと嬉しそうな笑顔を見せる。

そして小走りで駆け寄ってきた。


「リチャードさまぁ……お会いしたかったです……!今日はお仕事ではないのですか?」


聖女として選ばれし元平民。

今は帝城にある主神教の教会にて修行している身だ。

まあ実際は修行など名ばかりの物で帝国が聖女を抱える名目でしかないが。

今後は俺の正室か側室に迎えられることだろう。


「父上に呼ばれ謁見してきたのだ。今は執務室に戻るところだな」


「あっ!お邪魔でしたか……?申し訳ありません」


「いや、良い。お前なら別に構わないさ」


「リチャードさまぁ!嬉しいですぅ……!」


ナターシャが俺の腕に抱きついてくる。

そしてあることを思いついた。


「おい、先に執務室に戻っておけ」


「承知しました」


先に部下を執務室に戻し改めてナターシャと向かい合う。

神職でありながらこのように男を誘惑してくるナターシャは中々にそそった。


「今から私の部屋に行くぞ。ナターシャ」


「はいっ……!お連れくださいませ……私はあなた様のモノですから……♡」


俺はすぐにナターシャを自室に連れ込む。

まだ外は明るかったがそんなことは関係なく左手でナターシャの尻を掴んだ。


「あんっ……今日は激しいんですわね……」


「ああ、近頃戦争に行くことになったから今のうちに抱きまくっておかなくてはな」


「リチャード様ならばきっと無事に帰ってこれます。帰ってから存分に抱いてくださればいいのに」


「今抱きたい気分なのだ」


「ふふ、そうでしたか。ではお好きにしてくださいませ」


俺は半ば強引にナターシャの服を脱がせた──


◇◆◇


もう日が沈み始めてきたころ、俺は椅子に座り紅茶を飲んでいた。

ベッドでは裸のままのナターシャが気を失うように寝ている。


(全く女とは信用ならんものだ。金や権力に目がくらみ平気で笑いながら人を裏切る。こいつだって元は婚約者がいる身で俺に股を開いたのだからな)


男だって裏切ることには変わらないが女のほうがもっとドロドロしている。

俺達の間に愛など無い。

俺はただナターシャの体を楽しみたいだけで奴は金や権力がほしいだけだ。

もし俺の邪魔をしようものなら……駆除することも考えなくてはならんな。

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