第33話 軍導と天操の力
「私が『軍導』と呼ばれる
クレアが詠唱を終えた途端俺の目に映り込んできたのは空一面を覆い尽くすほどの大量の魔法陣だった。
魔法に長けた妖精族の中でも更に規格外な魔力量を持つクレアが本気で魔法を使うとこんなことになるのか……
俺が感心やら呆然やらをしていると魔法陣から大量の何かが降ってきた。
それらは地面に落ちてくると形を変えまるで槍を持った騎士のような姿になっていく。
しかもここから見た感じだと全身が鉄でできている。
それがざっと見ただけで500体はいる。
「召喚魔法か……」
「はい、レックス様。彼女の召喚魔法は呼び出す召喚対象の質も数も他の召喚系魔道士と比べても規格外です。核を破壊されなければ止まることはありませんが普通の兵には至難の業ですので彼女はこういった戦争向けの魔法使いなのですよ」
確かにいくら訓練したとしても鉄を切るのは難しいというか大半の人物は無理だ。
多少腕の立つ冒険者からすれば鉄兵は簡単に倒せてしまうのだが500体もいれば同時に相手にするのは不可能。
相手からすればほぼ不死の軍団が迫ってくるようなものだ。
彼女の強さをこの一瞬で嫌でも理解してしまった。
「召喚魔法であんな数呼び出すなど聞いたこともないぞ……!?どんな規格外ならばこんなことが実現するのだ!?」
「彼女は努力の天才です。元から他人より優れた才能を持っているにも関わらず彼女ほどの努力家を見たことがありません。その結果が今のこれですよ」
「し、信じられん……だが人力では無理でも魔法なら簡単に溶かすなり破壊するなりしてしまうのではないか?それに相手の数は10倍以上で抑え込めるようには見えないのだが……」
グレイブが思わずと言った様子でイリスに質問する。
確かに一般兵に対していくら強くとも魔法には弱い。
だがイリスはそんな弱点を抱えたまま勝てない戦いは絶対にしないことを俺は知っている。
なんらかの対策があるのだろう。
「ご安心をグレイブ殿。ここにいる天才は一人だけではないのですから。彼女たちほど戦争に強い魔道士はいませんよ」
「セレナ!任せたわよ!」
「う、うん!任せてお姉ちゃん!『我が呼びしはこの世の全ての炎を司りし精。その煉獄の炎を以て敵を焼き払い、その優しき温もりを以て我が仲間を守れ。
セレナが魔法を使うととてもつもなく大きな魔法陣が鉄兵たちを包み込み次の瞬間には赤い光を纏っていた。
赤い光を纏った鉄兵達はどこか不気味な雰囲気を放っている。
「なっ!?精霊魔法だと!?」
俺も平静を装っているものの内心では驚きまくっていた。
何せ精霊魔法はどれだけ訓練をしようとも使える魔法ではないからだ。
種族を問わず生まれつき精霊に好かれている生命体だけが精霊魔法を扱えてその強さはどれだけ精霊に好かれているかと魔力量に比例する。
とても希少な魔法で使えるのは魔法を使える生命体の1%未満だと言われており俺も使えない。
「はい。彼女は我らが黒白双龍団で唯一の精霊魔法使いです。クレアと組ませるのに彼女ほど最適な人物はいません」
「そうは言ってもあの数全員に精霊魔法をかけるなど……!」
「そこはもう逸材、としか言いようがありませんね。一般的な魔法使いが精霊魔法をかけられる対象人数が数人であることを考えると彼女は真の天才です。数百年に一度現れるかどうかといったレベルでしょうか」
俺もグレイブも言葉を失っていた。
精霊魔法使いは精霊魔法しか使うことができない上に精霊魔法は攻撃手段を一切持たない。
ならば不遇なのかと問われれば断固として否を叩きつける。
精霊魔法はかけた対象に攻撃力、防御力、速さ、魔法耐性、かけた属性の耐性が上昇し更にかけた属性の魔法が使えるようになる。
しかも能力上昇の幅は身体強化なんかと比べ物にならず支援をさせれば精霊魔法の右に出る魔法は存在しない。
今目の前にいる集団は精霊魔法によって下手な武器や魔法はほとんど通らず、横から抜けようにも遠距離から魔法を使われて抜けられない。
「クレア。兵を前進させてください。開戦の銅鑼を!」
「任せて!」
「承知いたしました!」
開戦の銅鑼と共に鉄兵達が敵兵に突っ込む。
帝国軍からは動揺しているように見えたが敵将が有能なのか素早く防御陣形を組み上げた。
「なるほど、敵将マシューは中々有能なようですね。まぁ……2人には通用しませんが」
イリスの言葉通り鉄兵たちは難なく陣形を切り崩していく。
魔法を打ち込もうにもこちらの数が少なく相手の数が多いため巻き込みを恐れて魔法を使ってこない。
しかも──
「クレア。敵陣の右側にほころびが見受けられるのでそこを重点的に攻めてください。セレナは中央を重点的に精霊魔法の効力を上げてください。おそらく攻勢が激しくなります」
イリスが的確な指示を2人に出し最低限の労力で最大限の結果を出していく。
戦場は情報をいかに素早く確かな情報を伝えられるかが大切になってくるが、俺達の
場合はクレアとセレナがラジコンのように遠隔で兵を動かしているので情報の齟齬は絶対に無く瞬時に指示が通る。
強くないはずがないのだ。
「用兵の上手さが勝負の鍵を握るだろう。いくら鉄兵をセレナの精霊魔法で強化しても囲まれて袋叩きにされれば負けるな。マシューとやらの采配はどうだ?」
「確かに有能な将です。ですがこの程度では私に軍略で勝てることはありませんよ」
イリスは不敵に、敵から見れば悪魔の笑みを見せる。
だがその言葉の通りに戦場はどんどん俺達に有利なように進んでいく。
そんな中ふとグレイブがイリスに声をかける。
「イリス殿。なぜこの2人は第4席と第5席なのだ?」
「今は戦いの途中なのですが……まあ戦況はしばらく動かないと思われますのでいいでしょう。単純な話です。2人は揃ってこそ御剣なので第4席と第5席を並んで与えました。順番は2人で話し合って決めてもらいましたが」
クレアの使う召喚魔法は割と不遇魔法だと言われている。
だが俺の予想でしかないがクレアが必死に召喚魔法の特訓をしていたというのはおそらくセレナの精霊魔法を活かすために選択した結果なのだろう。
クレアだけならばおそらく御剣に入ることはなかっただろうがセレナの力を最大限に引き出せるのがクレアでありクレアの力を最大限に引き出せるのがセレナだ。
セレナだけを御剣としてクレアを御剣にしない選択は俺もしないだろう。
「そういうことを言っているのではない。なぜここまでの力を持った2人が第4席と第5席なのだと聞いているのだ!」
「なんだ、そんな話か。教えてやるよ。あの2人がなぜその地位なのかを」
この質問は俺でも答えられるものだった。
だからイリスには采配に集中してもらうために俺が回答を引き継ぐ。
「なぜだ?レックス殿。強さを正当の評価しないのはそなたの意に反するのではないか?」
「簡単な話だ。上の3人は格が違うんだ。クレアとセレナの2人が同時に戦ってもあの3人は一人で難なく倒してしまうだろう」
「……っ!?」
ロジャーもアナスタシアも、そして第1席の奴もこの程度だったら笑いながら倒す姿が簡単に想像できてしまう。
故に何度も胃が痛くなるのだが……
「これほど……これほどまでにそなたたちは強かったのか……」
「なに、これから味方になるんだ。仲良くしようぜ」
俺は御剣たちのやることなすことに胃を痛める同盟を組むためにグレイブの好感度を上げておこうと密かに思った。
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砂乃史上二回目の10万文字突破!
ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございます!
これからも頑張ります!
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