第31話 軍議という名の蹂躙

グレイブが黒白双龍団の傘下に降ることを了承するとすぐに帝国とスタンピードの対策を練るべく軍議が始まった。

場所も謁見の間から作戦会議室へと変わっている。


「してどのように対抗するつもりだ?我らの兵は3千ほど。そなたたちは200人と聞いたが……」


グレイブは俺に聞いてくるが俺はそういうのはさっぱりわからない。

戦いでの立ち回りならまだしも軍という大きな尺度で物を動かすのは専門外だ。

先日は専門外のことに口出しして謎の空気を作り出してしまった挙げ句俺が超目利きの敏腕策略家みたいになってたのでわからないことは無言を貫くことに決めた。

俺はイリスに説明を任せた。


「私の作戦では私たちが帝国の対処をしライオネルの方々にはスタンピードの対処をしていただきたいと考えています」


「なっ!たった200で帝国軍と戦うつもりなのか!?この状況だとライオネルと混成部隊で帝国とぶつかるか、そなた達がスタンピードの対処をするのが最善であろう!」


イリスの策が気に入らなかったのかライオネル側の軍師らしき人が声を張り上げる。

でも俺もライオネル側だったら同じことを言うと思う。

だって国の存亡を懸けた大事な一戦に200人で数千人に挑もうとか言い出すのだから。

とてもじゃないが正気の沙汰じゃない。


「あなたの疑問はもっともです。なので一つ一つ丁寧に答えましょう。まず混成軍を作るやり方。これは絶対に無しです」


「な、なぜだ?いつ起こるかもわからんスタンピードより多少は帝国に戦力を割いたほうが建設的であろう」


「理由は単純ですよ。指揮系統が乱れますしなによりです。あなた方の軍が私の指示に一糸乱れることなく従ってくれるというのなら話は別ですが……できるんですか?」


できるはずがない。

これは戦争に疎い俺でもわかった。

本来こういった軍事行動は何度も訓練を重ねることでより速さと精度を増していく。

にも関わらず初めての指揮官でさらに混成する先は会ったことも無い軍勢。

連携など取れるはずもなく他にライオネルから指揮官を派遣して統率が取れるようになったとしても指揮系統が複数ある軍なんて強いわけがない。


「……うむ。確かに理にかなっている。ではお主等がスタンピードを対処しないというのはなぜだ?我らは3千といえどたかだか数千の帝国軍にと渡り合うだけの力はある」


軍師が再び何かを言う前にグレイブが頷いてイリスを肯定する。

しかし次に投げかけられた質問は確かにどちらでもいいように思えた。

スタンピードの方が楽そうだし代われるなら代わってほしいんだが。


「確かにこちらは逆でも構いませんよ」


「ほう、ならばなぜ先程はなぜそなた達が帝国と戦うと言ったのだ?まさか我らが帝国に簡単に破れるような弱兵だとでも言うのではあるまいな?」


グレイブは静かにイリスを問い詰めるがその目には確かな激情が宿っている。

これで首を縦に振ろうものならすぐにでも腰に下げた剣でイリスを叩き切りかねない勢いだ。


「別にそんなことは思っていませんよ。獣人の軍勢は精強で有名ですし我らの傘下となってもらった暁には頼りにさせていただこうと思っています。ただ……」


「ただ、なんだ?」


「我々、というかこの2人に対処してもらう予定ですがこの2人が森なんていう閉鎖的な場所で戦えば森が全て消し飛びかねませんよ?生態系や人々の暮らしが一変してしまっても構わないと言うのならスタンピードの対処に向かいますが」


「っ!?」


そう言ってイリスはクレアとセレナをグレイブに紹介する。

え?なにそれ。

2人ってこの地図に書いてある森全部消し飛ばすの……?

この地図を見る限りめちゃくちゃ広いんだけど……?


「う、嘘を申すな!2人ともまだ子供ではないか!しかも2人だけで、だと?我々を愚弄するのも大概にしろ!」


「はぁ……くどいですよ。見た目に気を取られこの2人の強さに気付けないなんて……」


「なに……?」


軍師が再びいちゃもんを付けてきてイリスはため息をつく。

そして挑発のような言葉を投げかけ軍師の顔は一気に怒りに染まった。

軍師の人がこんな怒りっぽくて良いのだろうか?

グレイブもしっかりこいつの手綱を握っていてほしいのだが。


「こんにちは、おじさん。私の名前はクレアよ。よろしくね」


「お、おじ……」


「い、妹のセレナです……よろしくお願いします……」


で君たち2人はなんで何事も無かったかのように自己紹介してるわけ!?

もうライオネルの方々は困惑を隠せてないよ!?

2人は屈託のない笑顔を見せている。


「いい?おじさん。わからないようなら教えてあげる。私とセレナでこの戦争を勝たせてあげるって言ってるの。あなた達はごちゃごちゃ変なことを考えず黙ってイリスの言うことを聞いてればいいのよ」


「なっ──!?」


「お姉ちゃん、言い過ぎだよ。獣人さんたちだって自分の国を守ろうと必死なんだから失礼なことを言っちゃダメ。皆さんすみません……姉が失礼なことを言ってしまって……」


セレナは行儀よくペコリとグレイブに頭を下げる。

色んなことが一気に起こりすぎてグレイブは呆気に取られたような顔をしていた。


「お主達はまさか……『軍導』と『天操』……?」


「あら、王様は私たちの名前を知っているのね」


「きょ、恐縮ですぅ……」


俺とイリス、そして御剣たちの二つ名は自分たちで付けたものではない。

それぞれの戦いぶりが民衆の間で噂になり定着したものだ。

なので2人がその名前で知られているのもおかしなことではない。


「まさかこんな小さな女子おなごだったとは……」


「何よ。バカにしてるの?」


「そんなことはない。強さは性別や見た目によらぬからな。ただ少し驚いただけだ」


「ふーん。わかってるじゃない」


「お姉ちゃん!」


本当に2人は対照的だなぁ……

勝ち気な姉のクレアの隣で妹のセレナがオロオロと焦っているのが可愛らしい。

なんかもう色んな情報が一気に来すぎて逆に落ち着いてきたかもしれない。


「王様。私は軍導の名において帝国軍を撃退するわ。だから約束して。もしこの戦いで私たちが約束通り帝国軍を撃退してライオネルを守ったら絶対の忠誠を誓いなさい」


そして一気に現実に引き戻された。

な、何言ってくれちゃってんの!?

ほどほどで良いんだって!

もし属国にしたとしても俺達が関わらなければそれは今まで通りということなのになんでそう余計なことを言っちゃうの!?


「ふん。救えるのなら救ってほしいものだ。もしそれが実現したら我らが黒白双龍団に協力するのはやぶさかではない。先程イリス殿と約束もしたしな」


「ええ。賢明な判断ね。もしその約定を違えレックス様に仇なそうものなら……」


その瞬間ブワッと濃密で息をするのも苦しいほどの魔力がクレアとセレナから流れ出す。

2人の目からは光が消え失せ冷酷に獣人達を見下ろしていた。


「世界地図からこの国、消すわよ」


「レックス様に仇なす者には決して容赦しません」


落ち着きがあると思っていたセレナも全く躊躇することなくグレイブたちを威圧する。

2人が魔力をしまうと獣人たちは次々とその場にへたり込んでいった。

明らかに武術の達人であるグレイブも大量の冷や汗を流しながら2人に恐れの混じった視線を向けている。


「これで黒白双龍団私たちライオネルあなた達の力の差がわかりましたか?間違ってでも我々に楯突こうなどと思い上がったことは考えぬように。もしそんな事があれば……我らが剣が貴方たちを残さず貫くことでしょう」


イリスが最後を締めくくり軍議は終了した。


お前たち……どう考えてもやり過ぎだろうがぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!


まだ戦争は始まってもいないのに数え切れないほどの暴走を見た。

これから帝国との戦いが始まればどうなってしまうのか考えるだけで胃が痛くなった。

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