第30話 支配者の目

案内されたのはとてつもなく大きく重苦しい扉の前。

衛兵が2人、右と左に一人ずつ立っておりこの場所が重要な場所だと嫌でも思わされる。


「陛下。客人をお連れしました!」


『入れ』


「はっ!」


俺達をここまで案内してくれた衛兵が扉の前で声を張り上げると中から少し曇った男性の声が聞こえてくる。

扉越しでも伝わってくる威圧感に少し身が引き締まった。

扉がゆっくりと開かれ俺達は中に入る。


「よく来たな。人間よ」


最奥に置かれた玉座には一人のいかついライオンの獣人が座っている。

噂通りあれが人間嫌いのライオネル国王グレイブで間違いないだろう。

俺は胸に手を置き軽く頭を下げた。


「お初にお目にかかる、ライオネルの王よ。俺の名はレックス=マクファーレン。黒白双龍団で団長をやっている者だ。まずはいきなり押しかけてしまったことを詫びよう」


本来たかだか組織のトップごときが国王に対してこんな態度を取るなんて許されることじゃない。

だが今回はイリスに決してへりくだらないようお願いされていたので心苦しいが少し上から目線で挨拶したのだ。


「噂には聞いているぞ。天をも恐れぬ頭のネジが飛んだ集団がいるとな。団長はあまり表舞台に出てこないとのことだったが……まさか本人がくるとはな」


「それが我らなりの誠意というもの。一国の王と謁見するのにまさか代理の者を送るわけにもいかんだろう」


天をも恐れぬって俺は普通に世界全部を敵に回すのは怖いんですけど!?

いくら俺が強くても所詮は人間であって世界全部を敵に回して勝てると思っている脳天気な頭はしていない。

代わってくれるなら代わってほしかった。


「グレイブ殿。私の名はイリスと申します。黒白双龍団副長としてレックス様に仕えております。以後お見知りおきを」


「ほう、黒髪ゆえにもしやと思っていたが貴様が噂の……。今回は我が国でなんの悪巧みをしようとしていることやら」


「いえいえそんな。悪巧みなんてとんでもありませんよ」


グレイブの厳しい視線にイリスは普通の町娘のような可愛らしい笑顔を浮かべて聞き流す。

とてもじゃないけどこの前この国を属国にしてやろうとか言ってた人と同一人物には見えない。


「まあいい。単刀直入に聞こう。我が国に何の用だ?これから戦いが始まるがゆえに些事さじであったら許さぬぞ」


グレイブの目に力が宿り圧を感じるが俺達からすればこのくらいはそよ風だ。

それよりもこの謁見の間に集まっているライオネルの臣たちがなぜ敵意をもってこちらを見ているかのほうが気になる。

獣人は己を傷つける者には容赦しないがそうでない者に最初から敵意を持つことはなく俺がお忍びで来ていたときも人間族だからという理由で理不尽な目にあったことはなかった。


「安心しろ。貴殿らにも理のある話だ」


「ほう、それは本当に期待できるのかは甚だ疑問ではあるがな」


「今回の交渉は全てイリスに一任している。イリス、頼んだぞ」


「はい。お任せくださいませ」


俺が呼ぶとイリスは一歩前に出る。

イリスは属国にするとか言い出して不安しかないのだがいかんせん俺は交渉できないしクレアとセレナも同じく専門外。

イリスしかそもそもできる人がおらず交渉はイリスに託さざるを得なかった。

やりすぎないようにと心の中で祈りイリスに丸め込まれないように密かに少しだけグレイブの応援する。


「ではお時間も無いということで、単刀直入に言ってしまいましょう。ライオネルに襲った亡国の危機、私たちが救って差し上げます」


イリスの言葉に場は一瞬でざわめきで満ちる。

しかしグレイブは予想通りだったようで顔色一つ動かない。


「ほう。救ってくれるというのならぜひとも頼みたいものだ。だが………何が目的だ?」


「流石はグレイブ王。お話が早いですね」


「そんな見え透いた思ってもいない世辞などいらん。早く話せ」


「あらあら、本当に思っていることですのに。我らの望みは一つだけです。ライオネルには我らの傘下に入っていただきたい」


「……!!」


「「「っ!?!?」」」


な、何のためらいも無く言いやがった!?

流石のグレイブもこの言葉には驚きが隠せないらしくひたいには冷や汗が流れていた。

ライオネルの臣はここぞとばかりに罵声を浴びせてくる。


「な、何を言っているのだ貴様は!」


「我ら誇り高きライオネルに向かってたかだか小さな組織一つが舐めたことを言うでない!」


「黙りなさい」


イリスの声は自然と通り何も言わせない迫力でその場は静まり返った。

完全に場の空気をイリスが支配している。

ザクスの街で初めて策士としての才能を見せたあのとき以来何度も見せられてきた支配者の目。

それはこの場においても揺らぐことはなかった。


「私たちはあなた方に選択肢を立場なのですよ?亡国という憂き目から救うためという未来から逃れる選択肢を」


「なっ!我々は決して滅びぬ!ふざけたことを吐かすな!」


「くだらん妄言だ!その汚らわしい口を閉じろ!」


「へぇ……では帝国軍が西から眼前にせまり北ではスタンピードがいつ起こるかもわからない挟撃にも似たこの状況を打開する策があなた方には『ある』というのですね?」


「そ、それは……」


「こ、このカルベル城は堅牢!ここに立てこもりスタンピードと帝国軍をぶつければよいではないか!」


「なるほど。ではここに立てこもっている間にシシェバ王国が陥落し二方向どころか三方向から攻撃され仮にスタンピードと帝国をぶつけることに成功したとしても祖国が王都以外全て踏みにじられても良いとあなたは言うのですか?」


「く……」


イリスの言葉に誰も反論できる者はいなくなる。

お、おい……もっと頑張れよお前ら!

このままだとたかだか17歳の小娘なイリスに負けちゃうぞ!?

それでも本当に良いのか!?


俺としてはなんとかライオネルが食い下がって対等な協力関係を結ぶというのがベストな結末だ。

そのためにはイリスがやりこめられるわけにはいかないがライオネルの面々にも簡単に引き下がられるわけにはいかない。


「南のシシェバ王国からは当然援軍なんてこない。東は海で何も無い。北からはスタンピードの恐れがあり援軍など届くはずもない。西からは数千の帝国軍でまだここから増援が来る可能性だってありえます。味方はおらず二方向からの侵攻に気を配らなくてはならない。こんな状況を打開できる策をお持ちだというのならこの愚かなイリスに教えていただきたいものです」


イリスはここから打開できる策は無いと断言してみせたのだ。

というか聞けば聞くほど絶望的な状況だな。


「……っ!そもそも!お主らに一体何ができるんだ!帝国やスタンピードに対抗できるほどの兵を有しているとでも言うのか!」


「いい質問ですね。確かに私たちは現状4人しかいませんし後からやってくる援軍も200ほどです。ですが……」


そこでイリスは一度言葉を切る。

そして鋭い視線で反論してきた者を射抜いた。


「たかが兎を狩るのに獅子を何十匹も連れてきてどうするんですか?過剰戦力は我々の意に反します」


「なっ──!?」


あまりの傲岸不遜な言葉に反論した者は言葉を失う。

そしてイリスはもう話すに値しないと判断したのかグレイブに向きあう。


「どうですか?グレイブ殿」


「……少し、考える時間をくれ」


「だめです。今この状況で考えている時間などありません。戦争の準備で時間が無いと仰ったのはそちらですので」


一度時間を置こうとするグレイブを絶対に逃さないイリス。

その姿はまるで兎がライオンを狩りしているみたいで謎の冷や汗が出てきた。


「ぐ……わかった。そなた達の要求を飲もう……」


グレイブは苦虫を噛み潰したような顔をしてしばらく何やら考え込むがガクリとうなだれ宣言する。

イリスは勝って当然の戦いと言わんばかりに喜びを見せることなく俺に向かってひざまずき成功を捧げてきた。


あぁ……俺の心労がまた……


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今日の9時頃から始まる新作たちです


『異世界転生したので本物のくっころが見たい!と思って悪役を演じながら女性騎士と片っ端から戦って負かしまくってたらみんな俺に懐いて即落ち二コマだった』


https://kakuyomu.jp/works/16818093081577825168


『幼馴染とゲーム実況してたら初々しいカップルチャンネルだと思われてバズった』


https://kakuyomu.jp/works/16818093074236433541


読んでくださると嬉しいです!

よろしくお願いします!

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