第29話 首都カルベル
結局戦闘員についてはクレアとセレナの直属の部下たちを編成することに決まった。
そして俺達4人はライオネルに先行し交渉に臨むことになる。
幸いアジトからライオネルはそう遠くなかったので開戦前になんとか間に合いそうだ。
「イリス、あとライオネルまではどのくらいだ?」
「私たちの足ですとあと1日もすればライオネルの首都『カルベル』に到着するでしょう。後から追いかけてくる軍は4日後ほどかと」
なるほど。あと1日は走りっぱなしということか。
この体は体力がすさまじく1日走ったくらいでは疲れないが本来なら今頃どこかに遊びに行くなりアジトでゆったりできていたと思うと自然と気分が下がる。
行き先が戦争なのだからなおさらだ。
「レックス様!私お茶を入れたんです!どうぞ!」
「あ、あの……お茶菓子も焼きました……私なんかが作ったものでよろしければ……」
俺達に同行していた2人がお茶とお菓子を持ってきてくれる。
いつ見ても対照的な2人だが姉妹仲はとても良好らしくこうやって2人並んでいるのを見ているととても微笑ましい。
「もらってもいいのか?」
「もちろんです!レックス様のために入れたんですから!」
「わ、私も……その、頑張って作りました……!」
「そうか。ならありがたく頂くことにするよ」
クレアとセレナからお茶とお菓子を受け取りまずはお茶を一口すする。
前世では嗅いだことのない良い匂いと共に少しの苦みと渋みが鼻を通り抜ける。
めちゃくちゃ美味しい上になんだか体がぽかぽかしてきて体の底から力が湧いてくるような感覚がする。
「美味いな。味も匂いも良いしなんだか力が湧いてくるようだ」
「えへへ、実は50年に一度しか採れない幻の茶葉を使ってるんです!それに魔力を込めて熟成させた後に妖精族の加護もつけさせていただきました!」
たかがお茶にやりすぎではないだろうか?
妖精族の加護は受けた人を守ったり力を引き出すことができる結構強くてレアな加護。
それこそ妖精族の加護がついた魔道具なんてえげつない額で取引されているというのにただ休憩に飲むお茶につけるとかオーバースペックにもほどがあるのではないだろうか。
「というか50年に一度しか採れない茶葉を使っても良かったのか?」
「いいんです!
「そ、そうか……。ありがとう」
なんというかすごい熱量だった。
だが実際ありがたいのは本当なのでお礼を言うとクレアは嬉しそうに目を細める。
なんとなくそれが妹のようにしか見えなくて思わず頭を撫でてしまう。
一応俺が年下だしこんな子供扱いみたいなことをしちゃったら怒るかなとも思ったけどクレアは一瞬驚いたように目を開くと嬉しそうに身を委ねてくるだけだった。
俺は怒られなかったことに安堵し次はセレナが作ってくれたお菓子を口に運ぶ。
「ほう……」
とても素朴な甘みのように見えてどこでも売っているような甘味とは一線を画す複雑さも持ち合わせている。
そして何よりもフワッフワの生地と甘みがクレアのお茶にとても良く合う。
2人とも違うものを用意してくれたのにお互いが助け合って良さを引き出すこのお茶とお菓子はまるで性格が全く違うクレアとセレナのようだった。
「美味い。これはクレアのお茶とよく合うな」
「は、はい……お姉ちゃんが私のお菓子に合うようにってお茶の味を調整してくれたんです……私のお菓子は作るのに時間がかかるのであらかじめ作ってありまして……」
「なるほど。そういうことか」
「は、はい。このお菓子は妖精族の里で収穫した麦とお菓子職人が血眼になって探すという伝説のサトウキビを使ってるんです……レックス様のお口に合えば嬉しいのですが……」
なんかこの姉妹伝説やら幻やらただの小休止に力入れすぎじゃないか?
だが美味いのは事実なのでとりあえずセレナの頭も撫でるとクレアと同じように嬉しそうに目を細めた。
思考回路や反応まで一緒な2人はやはり姉妹なのだと思った。
そして何よりも一番の願いは小休止ですらやりすぎの気風が見える2人が本番で何かやりすぎてしまわないかだけが俺の心を占めていた。
◇◆◇
「………でかいな」
あのお茶会という名の小休止から1日、俺達はライオネルの首都カルベルに到着していた。
そして見上げる先には王城カルベル城がある。
一言でその印象を言うならば難攻不落。
高い城壁からは防衛兵器が垣間見え入り組んだ街は圧倒的に地理のある獣人たちが守りやすい造りになっていた。
「この城は簡単には落とせそうにありませんね。かなりの兵力と時間が必要になるでしょう。流石の一言ですね」
もはや俺なんかよりも戦いに詳しくなったイリスがカルベル城を見て感嘆の声を漏らす。
まぁ元々俺は冒険者で指揮する側ではなくされる側だったし戦争に積極的に参加するのは冒険者ではなく傭兵の仕事だからそういう知識が必要なかったという側面もあるけれど。
「それでイリスこれからどうするんだ?」
今回ライオネル王グレイブに会うべくここまでやってきたのは良いが俺達はアポを取っていない。
流石にアポ無しで国王に謁見は無理じゃないかと思ってイリスに聞いてみたけどイリス曰く絶対に会えるしもし会わない判断をするのなら会う価値がないと言い切った。
もし会えないなら会えないで戦争に参加しなくてよくなるので俺としても文句は無くアポ無しでここまでやってきたのだ。
「それでは行きましょうか。ライオネル王、グレイブ=ライオネルに会いに」
「おー!」
「お、おー……!」
イリスの言葉に妖精姉妹が乗っかる。
俺は誰にも見られないように後ろでこっそりと肩を落とした。
はぁ……グレイブ王と謁見しても何も起こらないといいけど……
「む?何者だ!止まれ!」
俺達は城の近くまで行くと当然のように衛兵に止められる。
今は戦争が近いからか気が立っているようで言葉も少し荒々しい。
「私たちはこういうものですよ。至急グレイブ王に取り次いでいただきたいのですが」
「陛下は今お忙しいのだ!帰らんか!ん……?いや、この紋章は……!少しここで待っていろ」
イリスが何かを渡すと衛兵の顔色が少し変わった。
そしてもう一人の衛兵に俺達のことを託しどこかへと消えていった。
「何を渡したんだ?」
「ただのハンカチですよ。我らの紋章が入った特別製ですが」
俺達の紋章、俺がイリスに初めて贈った軍服に刻まれた黒と白の龍が絡み合った紋章。
イリスが勝手に宣戦布告したときにも使われたためそのまま正式に黒白双龍団の紋章となったのだ。
御剣となったものは俺が軍服を贈るようにしているがどの軍服にもこの紋章が刻まれている。
そんなことを話しているとさっきの衛兵が戻ってきた。
「し、失礼しました。陛下から謁見の許可が出ましたので皆様を謁見の間へとご案内します」
「まあ流石に断られはしませんでしたね」
結果はイリスの予想通りアポ無しでも謁見が成功した。
なんでこの子はこんなに未来を読むみたいに色んなことがわかるんだろうか?
この調子だとこの前言っていたライオネルを属国にしてしまうというのも実現させてしまいそうで怖くなってくる。
えっと……流石に無理だよな?
相手の王様は人間嫌いって噂らしいし無理に決まってる!
そう俺は自分に言い聞かせた。
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