第27話 事態の急変
「はっ!帝国とライオネルに潜入していた密偵より同時に連絡がきました。曰くライオネル近郊より『
な、なんでだよ……
よ……よりにもよって連休前にこんなどデカい案件を持ってきやがってぇぇぇ!!!
俺たちが参戦するわけじゃなくとも世界情勢が大きく動くような出来事があれば事実確認や各方面への対応への見直しなど自然と外せない仕事が増える。
俺の連休が音を立てて崩れていくのがわかり泣きたくなってくる。
「その情報の真偽は確認したのですか?」
「はっ!イリス様。同時に複数の密偵より連絡が来ており勘違いや買収の可能性は少ないかと……」
その情報を聞いたイリスが目をつぶって何やら考え込む。
そして一つ頷き目を開いた。
「わかりました、伝令感謝します。退出して結構ですよ」
「はっ!失礼いたします!」
イリスの指示を受けた兵が一礼して部屋を出ていく。
そして会議室には重苦しい空気が流れ沈黙が訪れた。
「…………です」
「え?」
その沈黙を破ったのはイリスの小さなつぶやきだった。
だがその声はあまりにも小さく隣にいる俺ですら何を言っているのか聞き取れなかったので思わず聞き返すとイリスは目を輝かせながら顔を上げ俺の手を取った。
「流石ですレックス様!」
「………え?」
全くもって何が流石なのか理解できずなぜ自分が褒められているのかわからなかった。
俺は何もしてないどころか無知ゆえに下手なことを言って会議を変な空気にしただけだが?
………うん、自分で言って思ったけど何やってんだ俺って感じだな。
「い、一応聞いておくが何が流石なんだ?イリス」
「なぜライオネルと手を組もうとしていたのかこの至らぬ愚臣にはわからなかったのですが……。ライオネル付近でスタンピードの発生と帝国が出兵するのを読み切っていたんですね!」
ち、ちっがーーーーーーう!!!!!
そんなの読み切ってさっきの提案してたわけないだろ!?
俺はただそこそこ力があって獣人の国だから俺達を助けてくれるかも知れないって思っただけだから!
決して読んでたわけじゃないから何かを信奉するような視線をやめんか貴様ら!
「べ、別に読んでたわけじゃないさ?お前らも実は気づいていたけど俺に花を持たせるためにそうやっているんだろう?」
「いえ。ライオネルと帝国がいつかは戦うとは思っていましたが流石に開戦時期までは読めませんでした。ですよね?ケネスさん?」
イリスにケネスと呼ばれた男が頷く。
この男は御剣第八席の座についており『影殺』の二つ名を持つ第8の剣ケネス=カルーヤ。
角と小さな翼が生えた
見た目は三十代くらいで体もがっちりしており中々口が悪いが有能な男だ。
「イリスの嬢ちゃんの言う通りだな。スタンピードの発生時期を見極めるのはとても難しい。政治的思惑ならばまだしも天災の一種とも言えるスタンピードが原因の開戦を読み切ったのは流石レックス様としか言いようがないね」
「ええ。それに民を思いやるレックス様の心優しき精神……非の打ち所がないです……!」
何も流石じゃねえよ!
俺はそんな高潔な人物じゃねぇしスタンピードの発生時期を読むなんてそんなん無理だわ!
なんでこんなことになっちゃうんだよ……
「なにはともあれこれで状況は一変しました。我々がこれから付き合っていくべき国はライオネル一択です」
え?なんでそんなこと言い切っちゃうの?
戦争が始まるなら手を出さない一択だろうが。
というかこれから戦争が始まる国と手を組むなんて絶対に御免なんだが!
厄介事の匂いしかしないし絶対に良いこと無いだろ!
「だが副長殿。戦争が始まるならば手を出さないほうが良いのではないろうか?なおさら支援をしてくれるとは思えない上になおさら人間族との交渉には応じてくれない気がするのだが……」
マチルダがまさに俺が言いたかったことを代弁するかのような質問をイリスに投げかける。
まさに大ファインプレーで俺は内心グッドサインを送りこんどマチルダにはボーナスをあげようと思った。
「いえ。だからこそチャンスなのですよ」
「チャンス?」
いやチャンスってどういうことだ?
今ライオネルに手を出すのは時間の無駄でしか無いように見えるのだが……
「ええ。ライオネルに所属する軍の数や強さをご存知ですか?」
「獣人はみな身体能力が高く戦闘力の高い民族だと聞く。それに人口から考えて1万はいるのではないだろうか」
「ご明察ですね。確かにライオネルの軍は1万に届くか届かないかくらいの軍を持っており一人一人の兵の質も高いです。ですがライオネルは迂闊に戦いに踏み込めない理由がいくつかあるのですよ」
「理由?」
マチルダが聞き返すとイリスは頷き世界地図の一部を取り出した。
そしてライオネルと帝国、最後にライオネルと帝国に両方とも隣接している少し小さめの国『シシェバ王国』にそれぞれ印を付けた。
「シシェバ王国には魚人と呼ばれる種族が住んでいます。海にも隣接し川も多く流れ水の国と呼ばれるほど水が豊富でライオネルとは同盟関係にあります」
これは周知の事実であり俺達はイリスの言葉に頷く。
シシェバで取れる水産系の食べ物はとても美味しくて刺し身の文化もあり感動してお忍びで何回も訪ねたことがある。
ライオネルとの国境の行き来を自由にしているらしく獣人も数多くいた。
地球で言うEUみたいなものだろう。
「帝国は今までライオネルではなくシシェバ王国を攻撃しているのは皆さんご存知だと思いますが戦局は世間に出回っている情報よりも帝国が有利な戦局です。それも数ヶ月もあれば王都が陥落していてもおかしくないほどには」
「「「!!」」」
王都が陥落するということは国が陥落するということ。
つまり戦争に決着がつくということだ。
まさかそこまで押し込まれているなんて……
「帝国は研究で得た魔法や技術を他国に知られないように密かに実戦投入しているんですよ。巧みな情報工作で隠されてはいましたがケネスさんがしっかりと調べ上げてくれました」
そういうことだったのか……
地球にいた頃はとにかくどこどこで誰々がどんな成果を上げて勝ったぞ!ってお互い主張しまくっているイメージがあったからわざわざ戦果を少なく報道することが疑問に思ったけどそういう背景があったのか……
「ライオネルはシシェバ王国を陥落されるわけにはいきません。もしシシェバが落ちれば挟撃の形となり亡国の憂き目にあうのは目に見えていますから」
「む。確かに挟撃の形を作らせるわけにはいかないな」
「はい。なので今ライオネルはシシェバ王国に大量の援軍を送っているのですよ。自国を守れるギリギリまで数を削って」
そこまで言われて話が見えてきた。
つまるところライオネルにはスタンピードと帝国の襲来に同時に対応できるほどの戦力が残っていないのだ。
ん?待てよ……ということは……
「私たちが助太刀することで恩を売り協力関係が断れないようにしてあげましょう」
やっぱりそうですよねぇぇ!?
戦争に参加するなんて絶対に嫌だ!
もしそんなことになれば今までせっかく表舞台には極力立たず平穏に暮らしてきた日々が水の泡だ!
それだけは絶対に回避する!
「だがイリス。俺達は助太刀できるほど数はいないぞ?どうするんだ?」
イリス自身も言っていた。
世界と対抗するにはあまりにも数が少なすぎると。
資金もないから傭兵を雇って数をかさ増しすることもできないこの状況でどうやって援軍を送ろうというのだ。
完璧な
「ご安心を、レックス様。我々は帝国に対抗しうる数はいませんが戦力はいます」
「せ、戦力?」
「はい。援軍の編成はレックス様と私に加え戦闘員200名、そして御剣が2人ほどで十分です」
イリスは自信満々に頷いた。
一瞬何を言われているのか理解できず目が点になる。
帝国軍数千に対してそんな人数で十分だって……?
流石に見誤り過ぎだろ!
だが俺が止める前にイリスはさらなる爆弾発言を投下する。
「どうせならライオネルは同盟ではなく属国にしてしまいましょう。そのほうが後々便利ですし」
イリスは屈託のない笑みを浮かべまるで『どうせなら先に宿題おわらせちゃおう。そのほうが後で楽だから』みたいなノリでとんでもないことを言い出した。
その言葉を聞いた瞬間俺は全ての思考を放棄して無の境地に至った。
もう……やだ……
俺は死んでしまった
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