第26話 御剣会議

「「「お疲れ様です。レックス様」」」


うげぇ……なんだこの空気感は……

俺は別に俺のことを王のように扱え、なんて言ったことは無いんだが……


「と、とりあえず座ってくれ。さっさと会議を始めてしまおう」


こちとらできるだけ早く終わらせたいんだ。

お前らがどんな面倒事を持ってくるのかは知らんが俺はこの会議さえ終わればしばらく休暇!

たっぷり連休ライフを楽しむためにもこんな会議で仕事を持ってこられるわけにはいかんのだ!


俺の言葉にみな座っていく。

しかし一つの椅子が空席なことに気がついた。

あの席は確か……


「イリス。あいつは今日はいないのか?」


俺が隣に立っているイリスに聞くとイリスは首を縦に振る。


「はい。あの方は今日は外せない任務があり今日は欠席でございます」


よっしゃぁぁ!

あいつがいるだけで心労が1.5倍増しくらいになるもんな……

優秀なんだけど、というか優秀すぎるがゆえにやることなすことスケールがでかすぎて本当に心臓に悪いんだよ……


「おや、今日はあのイカレ野郎はいないのか。せっかくレックス様に会えるってのにもったいないことをするねぇあの男も」


腕を組みながら苦笑するのは褐色肌で耳の尖ったダークエルフという種族であり御剣第六席の座にいる『殲閃せんせん』の二つ名を持つ第6の剣マチルダ=ダンバース。

美しく輝く銀髪をサイドテールに結びその体は戦士らしく引き締まっていて、でも筋肉がつきすぎるということもない肉体美を持つ美女だ。

直接戦っているのは見たこと無いから詳しい強さは知らないが人当たりが良く素直でまっすぐな性格でこういう人物は好感が持てる。


「急遽やってもらうことができたのであの方にお任せしてしまいました。あの方なら失敗は無いでしょう?」


「アハハ!違いない!あいつはイカれてるけど能力だけは確かだからな」


イリスがあいつに任せた理由を言うとマチルダは大笑いしながら頷く。

まぁこんな話をしていても会議が進まないので世間話はこれくらいでいいだろう。


「イリス。そろそろ始めよう」


「承知しました。ではこれより御剣会議を始めます。任務の成否の詳細については報告書で知っていますのでその他報告すべき点などありましたら御報告よろしくお願いします」


御剣たちが色んな議題を出し話し合い始める。

だが今回の話題はどれも大人しいものばかりで一安心する。

1年前の会議なんて帝国軍との戦闘でついうっかり山を一つ潰してしまいました、なんて報告が来て俺がどれだけ泣きたくなったことか……


「ではレックス様。議題はある程度片付きましたしこれでいつもなら終わるところなのですが……私から一つ上奏させてください」


会議がある程度の終息を見せるとイリスが改まって俺に言ってくる。

無視する気は無いしここで聞かないで勝手に動いてとんでもないことをされたらたまらないので俺は首を縦に振って聞く体勢をつくる。


「どうした?聞かせてくれ」


「ありがとうございます。単刀直入に言うならば……そろそろ雌伏のときは終わるべきです」


「………え?」


お、俺の一応平穏な生活を取り上げようっていうのか!?

そんなこと言ってると給料ちょっとだけ減らすぞ!


「なぜ終わらせるべきなんだ?」


「私たちの組織はもう既にかなり大規模です。身を隠しながら運営するのが難しくなってきています。こちらを御覧ください」


イリスから1枚の紙を手渡される。

どうやら組織の現状が書かれた資料のようだった。

なになに?………ふんふん……………は?


しばらく資料を流し読みしていると構成員の欄で目が止まる。

そこに刻まれた戦闘員2000人の文字。

非戦闘員や協力者の数まで合わせれば5桁が見えてくるような人数だった。

え?嘘……俺せいぜい3桁か4桁がぎりぎりくらいだと思ってたんだけど……?

今まで組織運営にノウハウの無い俺が口出しなんてできるはずもないと資料を渡されてもあまりしっかり見てこなかったツケが回ってきたような気がした。


「我らは数は少ないですが質はどんな軍隊にも大幅に勝っています。領土を持たない国として世界中で認知されてはいますが資源や資金が圧倒的に不足しています」


こ、これで数が少ないってどういうことですか……?

それに領土を持たない国って何!?

黒白双龍団って今そんなふうに呼ばれてんの!?


でも質がどこよりも高いというのはわかる気がした。

特に御剣なんて一人でもいればその国の最終兵器リーサルウェポンになれるくらいには強い……らしい。


御剣は定員を決めておらずイリスが強いと認めた者だけがなることができる仕組みだ。

俺に仕えることに妥協を許さないイリスが認めるというのは相当強いということ。

今の御剣は9人でそれだけの数、イリスに認められるほどの人材が揃っているということである。

ちなみに今のイリスの実力はS級冒険者を同時に片手間で捻り潰すことができるくらいには強い。

この前なんてドラゴンを笑顔を浮かべながら一撃で屠ってたしな。


「なるほど。資源や資金が確かに足りないな。だがこれをどういうふうに解決しようとしているんだ?」


「我らに好意的な姿勢を取っている国と本格的な同盟を結ぼうと考えております」


「同盟、か……」


確かに同盟を結ぶことであくまで民衆の噂でしかなかった俺達が本格的に世界情勢に関与することになる。

だがこれ以上は組織の運営が難しいのは事実だしどこかと戦争して物資を奪い取ろう!なんて言われるよりはずっと平和的だ。


「俺はそれで構わない。他のみんなはどうだ?」


「レックス様が決めたのでしたら私達はついていくだけですよ」


「……そうか。イリス、同盟を組む候補の目星はついてるのか?」


「もちろんです。こちらをどうぞ」


イリスから再び3枚の紙を受け取るとイリスが選んだのであろう国の基本情報が書かれていた。

それに目を通していくが……


(これどこも小さくて貧しい国ばかりだな……自国で手一杯のこれらの国から援助なんてもらえるのか?)


正直ド貧国と言えるような国ばかりで支援が本当にもらえるのか俺には判断がつかなかった。

これらの国から見たら一万弱という数字はかなり大きい。

現代の地球でも難民を受け入れるのは自国が裕福であるケースが多いし流石に期待をするのは難しいんじゃないだろうか。


「却下だ」


「……!?で、ですが……」


「これら国の民たちはかなり貧しい生活を送っている。それにさらに支援を絞り出せ、というわけにはいかない。だから、そうだな……」


俺は世界地図に目を通しながら考え込む。

そして一つの国に目をつけた。

この国ならば世界情勢に疎い俺でも俺達に協力してくれるかもしれないと思える国。


「獣人王国『ライオネル』、ここはどうだろうか?」


俺がそう提案すると一同は渋い顔をする。

え?俺何か変なこと言った!?

獣人も被差別種族だし俺達に手を貸してくれると思ったんだけど!?


「レックス様。現在ライオネルは帝国軍とのにらみ合いが続いておりおそらく貴重な物資を譲ってくれることは無いでしょう。それにライオネルの王は屈指の人間嫌いとして有名でありそもそも私達との交渉の席についてくれるかどうか……」


そ、そんな情報知らなかった!

もし国と交渉するなら黒白双龍団のトップである俺かイリスじゃないと相手に不誠実というもの。

被差別種族が多く所属していてもトップは2人とも人間族。

どうしようもない八方塞がりじゃないか……!?


ま、まずい……

期待値が不自然なまでに高いせいで『なんでこいつこんなことも知らないんだ?』というよりも『何か考えがあるはず』みたいな感じでみんな考え込み始めちゃってるんだけど!

これでただの無知だって知られたら……


『なんだ。こんなやつが私達のリーダーだったなんて』


『期待外れだな。こいつについてくるんじゃなかった』


みたいな感じになるに決まってる!

そ、それだけは避けなくては……

必死に頭を動かして言い訳を考えていると突然扉が開け放たれ息を切らした兵が入ってくる。


「ほ、報告です!」


「おい、今は大切な御剣会議中だ。レックス様の策を我々が授かっているところの乱入……覚悟はできてるんだろうな?」


「で、ですが……」


マチルダがこめかみに青筋を浮かべながら入ってきた兵を威嚇する。

それを俺はなだめて兵に報告するよう促した。


「落ち着けマチルダ。それよりも報告とはなんだ?」


「はっ!帝国とライオネルに潜入していた密偵より同時に連絡がきました。曰くライオネル近郊より『魔物大氾濫スタンピードの前兆あり』。そして帝国からは……『ライオネルに向け数千の帝国軍が出兵した』と……」


「「「!?!?!?!?」」」


一気にその場に驚きと動揺が走る。


は、はは……なんだよそんな大ニュース……

俺に面倒事を持ってくるんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!

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