第24話 謎の組織現る(民衆視点)

俺はザクスの街でしがない鍛冶屋をやっている者だ。

この街は不満がうごめいている。

税はまあ高いが払えないほどじゃない、だが領主の性格がゴミなのは有名で領内にいる女性をさらっては慰み者にしているとの噂だった。

だがこの街から移住するには法外な税が必要で逃げ出すこともできない。

そんな環境の中、ザクスでは日に日に恨みや不満が溜まっていったのだ。

そしてある日──


「武器をたくさん売ってほしいだぁ?」


「ああ。おやっさんは鍛冶業界の古株で色んな鍛冶師に顔がきく。だからなんとか大量に武器を売ってもらえないだろうか」


やってきたのは見るからに戦いとは縁のなさそうな体つきをした人たち。

それなのにも関わらず武器を欲しがるというのは一体どうしたのだろうか。


「一体なんに使うんだ?お前たちは冒険者ってわけでもないだろうに」


「そこをなんとか売って欲しいんだ」


「冷やかしなら帰れ。仮に何か理由があるとしても武器ってのは人の命を奪う凶器でしか無いんだ。遊びで使われたらたまったもんじゃねぇ。俺達はそんなことのために命削って武器を作ってるわけじゃねえんだよ」


俺の言葉に武器を買いに来た奴らは黙り込む。

金が無えと生きていけないが金のためならなんでもやるってわけじゃない。

それが職人としてのこだわりだった。


「わかった。おやっさんには話す。でもこれは誰にも言わないでほしいんだ」


「……いいだろう。話によっちゃあ売ってやらんこともない」


「ありがとう。単刀直入にいえば今、街の水面下でクーデターの計画が進められているんだ」


「……!」


クーデター、だと……?

あまりに突然な話に言葉を失う。


「最近急にクーデターの話が持ち上がったんだ。それに俺達も参加することにして武器調達を任されたんだよ。ゲドーの首を取るためにな」


「ゲドーの……」


俺はゲドーには並々ならぬ恨みを持っていた。

娘があいつの怒りを買ったと因縁をつけられ殺されてしまったのだ。

あいつを殺せるのなら……妻にも先立たれて家族を失った俺にもう悔いなんてない。

今この時、職人としての矜持よりも己の恨みが勝った瞬間だった。


「わかった。俺が今ある武器は全て譲るし他の職人にも声はかける。だが条件として俺もクーデターに参加することと他の職人に売ることを強制はさせない。これは譲れない」


「十分だ!ありがとうおやっさん!」


決起の日は騎士団と軍隊の合同軍事演習のとき。

俺はクーデターに参加することを決意した。


◇◆◇


「進めぇ!ここを突破すれば領主館まであと少しだぞ!」


「防げ防げ!抜剣も許可する!何人たりともここを抜けさせるな!」


警備隊と蜂起した人々がぶつかり合う。

いたるところで血が流れる大乱闘になっているものの俺達は着実に領主館へと近づいていた。

俺も自分を奮い立たせ己が作った最高の一品を手に戦う。


「うらぁ!娘を……娘を殺したあいつを絶対に仕留めなくちゃならんのだ!」


「ぐぁあ!」


前にいた警備隊の隊員が血を吹いて倒れる。

初めての嫌な感触に冷や汗が止まらないがここまで来てはもう後には引けない。


「領主館が見えてきたぞ!みんなあと少しだ!奮戦しろ!」


誰かの声にはっと顔を上げる。

己の目には領主館が映っていた。

体にさらなる戦意が滾る。


「門を突破しろ!ゲドーの首はすぐそこだ!」


「死守だ!絶対にこの門は守り抜け!」


お互いの意地と意地のぶつかり合い。

その膠着は何十分も続いたものの数で圧倒的に勝る俺達が押していた。

そしてようやく門を突破したその瞬間───


『ドオォォォォン!!!!!!』


凄まじい轟音と地響きがして混沌としていた戦場に静寂が訪れる。

みな動きを止め困惑の色を隠せなかった。

見ると領主館の一角に大穴が空きそこから煙が立ち上っていた。


(あれは……火薬でも暴発したのか……?いや、あの感じはもしや……魔法?)


「お、おい!あそこ!あれ見ろ!」


俺が爆発について考察していると誰かが大声を上げて指を指す。

そちらを見たら黒いフードで顔を隠した何者かが領主館の屋根に立っていた。

敵の増援かと思ったが警備隊も同じように困惑している。

ということはあいつは一体……


「き、貴様どうやって侵入した!」


「あなたの質問に答えるつもりはありません。黙りなさい」


警備隊の隊長格らしき者の質問にフードの人物はピシャリと切り捨てる。

その声は凛としていて女性のものだった。

そして異空間収納を開き布に包まれた何かを取り出して放り投げた。


「なっ!?これは!」


「ゲドーの……首!?」


そこら中から動揺や疑問の声が上がる。

特に守るべき大将を討ち取られた警備隊の動揺は大きかった。


「ど、どうやってこんなことをしたんだ!」


「このくらい私達にとっては造作もないことですよ。少々用があってこいつの首を取らなくてはならなかったので、皆さんには申し訳ないですがあなたたちの恨みの対象は討ち取ってしまいました」


急に全てが終わったのだと聞かされても実感がわかない。

だが……自ら手を下すことができずともあいつが死んだということを聞かされただけで少し報われた気がした。


「代わりに不正の証拠はたっぷり残しておきましたよ。ちゃんと警備隊の汚職の証拠もあったので警備隊の方々は気をつけてくださいね」


クスクスと笑いながらフードの女は警備隊に現実を突きつける。

何人か警備隊で真っ青になっているやつがいるから女が言っていることは本当なのだろう。


「き……貴様ぁ!こんな帝国に楯突くような真似をして……どうなるのかわかっているのか!」


顔を真っ青にした隊長格が八つ当たりのように女に問う。

しかし女が浮かべたのは焦りでも不安でもなくただただ笑いであった。


「帝国に楯突く?上等ではありませんか。我らの目的は帝国なんて小さなものではなく世界同盟の打倒ですから」


「「「っ!?!?!?」」」


その場にいる全員が言葉を失った。


この女は何を言っているのかと。

だが冗談だと一蹴する者は誰もいなかった。

それだけ女の言葉には力が込もっていて有無を言わさぬ迫力があった。


「我らの力は弱きを助け強きをくじくために。私達は虐げられるものを見捨てたりしない。崇高なる大志を持った私の主は皆を救うために立ち上がったんですから」


「ふ、ふざけたことを言うな!」


「ふざける?私は全て本当のことを言っているだけですよ」


そう言って女は何かを唱え始める。

そして領主館の壁が光始め、なにかの紋章が浮かび始めた。

その紋章は白と黒の対になった龍が絡まりあっている見たこともない紋章。


「上層部に伝えておきなさい。首を洗って待っていなさい、と。我ら『黒白双龍団』の刃は必ずお前たちを切り裂くことでしょう」


そう言って女は後ろを向きフードを取る。

黒く長い髪が現れ風に揺られていた。

そして次の瞬間にはいなくなっていたのだった。



クーデターの成功、そして帝国、世界同盟に楯突かんとする謎の組織が現れたことは紋章と共にあっという間に街中に広まっていた。

帝国は権威を守るためにも箝口令を敷いたが目撃者があまりにも多かったため数カ月後には世界中にこの事件と謎の組織についての噂が広がった。


イリスの計画の最終目的は『ゲドーの討伐』ともう一つは『黒白双龍団の存在を世間に知らしめ宣戦布告をすること』。

被差別種族の解放を掲げるイリスは普通の人間であっても虐げられている人が多くいるのを知っていた。

組織の力を高めるために、また協力者を増やすために被差別種族でない人間ですら虐げられている者を見捨てないと宣言したのだ。

帝国にもみ消されないようにわざわざたくさんの人の前に姿を現して……


こうして黒白双龍団の名は知れ渡り帝国に不満を抱いていた者たちは好意的な視線を向けるようになる──

イリスの一手で人類同盟に対抗する土台を作り上げたのだ。

これは紛れもない歴史に残る大事件でありこれから始まる混乱の世の幕開けを象徴する事件として後の世では多く語られることになる。

黒白双龍団は大いなる一歩を踏み出したのだ。


またレックスがこの事件の全貌を知るのはもう少し先のお話。

そのときどんな反応をしたのかは言うまでもないことである。


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とりあえず1章はこんな感じです!

次からが2章って感じになると思います!(あんまり章ってわからん


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