第22話 欲望の先にあるものは(カーリッツ視点)

「は?クーデター?」


「ああ、今民衆が蜂起し領主館を守る警備隊との戦闘が起こっている。外の騒ぎはそれだ」


なんか外が騒がしいなと思っていたら同じパーティーメンバーであるジェラールが外の状況を教えてくれる。

フードを被って顔を隠している不気味なやつだが実力は本物だ。


「クーデターねぇ……」


「あともう1つ報告がある。ザクスの領主が混乱に乗じて殺された」


ザクスの領主が……

こんな帝国に喧嘩を売るような真似をする奴がいるとは思ってなかった。


「まったく……せっかくの休暇だからザクスに遊びにきただけだってのに。どうする?適当にクーデター潰すか?」


「いや、蒼天の剣が民を叩き潰したとなると外聞が悪い。だがこの状況を静観するというのも同じように信頼を損なう」


「はぁ……じゃあどうすると?」


俺が聞き返すとジェラールは詠唱を始め魔法を行使した。

待つこと20秒ほど、ジェラールはゆっくりと目を開き報告してくる。


「領主館の西側に逃げている人影が3人……いや、屋敷内にもう1人の計4人だ。全員フードを被っていて認識阻害を付与しているらしく顔はわからん」


「それだけ聞ければ十分だ。ここからも近いし逃がすこともないだろう。じゃあ軽い運動がてらちょっと潰してくる」


「気をつけろ。今回の件はどこかきな臭い。油断しているとやられるのはこっちだ」


「はんっ!ご心配どうも」


暇つぶしと世間体のために領主館を襲撃した不届き者を仕留めるべく俺は走り出した──


◇◆◇


索敵魔法を展開しながら山の中を走る。

すると山に入って一行はペースを落としたらしくそこまで進んでいないところに魔力反応があった。


(そこそこの魔力を持っているのが2人、大して魔力を持ってないのが1人と言ったところか。領主館の襲撃なんてことをやってのけたんだからどんな手練れかと思ったが期待外れか……?)


少し残念な気持ちが生まれるが自分で潰すと決めた以上、放置するのは信条に反する。

面倒な気持ちを心の中に押し込んで木の上を移動しながら魔力反応に向かって接近する。

するとすぐに3人の人影が見えてきた。


(あいつらか……ん?あいつは……)


今は認識阻害のフードを外しているようで顔がしっかりと分かる。

その3人の中に見慣れた顔があった。


(レックス……?まさかこいつがやりやがったのか。下賤な身とはいえ仮にも元は誇り高き蒼天の剣のメンバーだ。汚点にならないうちに早めに消しておかねぇとな)


「そこまでだ!」


全くつくづく仕方のない奴だ。

戦えない、使えないからと我らがパーティーから追放しただけのことで自暴自棄になりこんなことをするとは。

心なんて全く痛まないどころか合法的に痛めつけることができるとわかって自然と笑みが溢れてくる。


「それで?お前はなぜここにいる」


「なぜ?そんなの決まっているじゃないか」


俺は腰にさげた剣を抜き放ち突撃する。

俺の狙いは最初から一つ、レックスとその取り巻き共を殺さない程度に痛めつけ捕縛すること。

それ以外のことは考えず躊躇なく剣を振り下ろした──はずなのにレックスの剣によって俺の攻撃は防がれていた。


(チッ!多少手加減したとはいえマグレでこんなゴミに防がれるのはテンション下がるな……)


納得がいかない思いを抱えながらレックスと交戦し続けるがこちらの攻撃が全く当たらない。

こうも運が悪いと何か小細工でも仕掛けているのかと疑うが何も見つからない。

だがレックスは俺に勝てないときちんと理解しているようで向こうからは全く攻撃してこない。

相変わらずの腑抜けだ──そう思おうとしたときのことだった。


「レックス様!何かあったのですか!?」


急にレックスの後ろから黒い髪をした女が現れた。

息を切らしながらレックスを心配している。


(ほう……かなりの上玉だな。それもあれが黒系種でなければ美姫として帝国中に名を馳せていたかもしれんほどに)


スタイルも悪くないし何よりも顔が整っていた。

好みではあるし中々どうしてレックスはいい女を持っている。

俺は別にニーグルムだからって差別はしない。

なぜならば貴族ですらない愚民共もこいつらと同じように使い捨てのゴミであり貴族俺たちからすればどいつもこいつも下賤な者なのだから。

多少顔やスタイルが良ければ同じ下賤な身でも野良猫程度には遊べるし可愛がれるというものだ。


3人とも随分とレックスを慕ってるみたいだし適当に挑発して人質にしてさっさとケリをつけようと思ったがレックスにそれを防がれた。

度し難くそろそろ面倒になってきた。


「面倒だからさっさと終わらせるぞ。それでリチャード殿下もお喜びになる……!」


リチャード様は今も自由に扱える玩具を探している。

殿下にはナターシャという見目麗しいいつでも抱ける女がいるためこんな下賤な、それもニーグルムを献上したら逆にお怒りになるだろうがレックスと半鬼人こいつらは違う……!


半鬼人は頑丈だから多少無理に扱っても簡単に壊れないから玩具には最適だしレックスについては言わずもがな。

あいつを縛り付けて目の前で殿下にナターシャを犯してもらうというのも面白そうだ……!

考えただけで笑いが止まらない。


「後ろの3人も仲良くきっちり玩具にしてやるからなぁ!女二人は中々上玉のようだし……ニーグルムに関しても安心しろ!俺たちは人種差別なんてせずともちゃーんと平等にいたぶって遊んで壊してやるからな!」


よく見れば後ろの女も中々の上玉。

胸がデカくて触り心地が良さそうだ。

適当にマワして飽きたら処分するなり娼館に売りつければ高く売れそうだ。

それまでに色々教え込まねぇとなぁ……


「カーリッツ……まずはその汚らしい口を閉じろ」


「は?」


こいつが俺に何を指図してやがるんだ?

図々しいにも程があるだろうが。


「そのベラベラとくだらないことばかり口走るその汚い口を閉じろと言っているんだ」


「あはは!そう怒るなって。お前を否定してるわけじゃないんだ。いいよな、ニーグルム。壊しても罪悪感とかないしどんなプレイでも遊びでもできるし」


「もう……いい」


ニーグルムのことを褒めてやったのにお気に召さなかったようだ。

下賤の者が考えることはよくわからんな。


「ぷっ!お前に何ができるんだ?俺を斬ってみるか?この俺に対して雑魚のお前がそんなことができるかなぁ?」


その言葉を言った瞬間だった。

俺の前から突然レックスの姿が消え、俺に目の前に現れ攻撃された。

なんとか防いだものの強い衝撃でなかなか立ち上がれない。


(い……一体何が起こったのだ……?)


そこからは悪夢の始まりだった。

俺のすべての技を、ずっと得意だと思っていた魔法すら通用するどころか何倍もの威力で打ち返される。

何をやっても同じ形で──


(なぜ……なぜこうも攻撃が当たらない……!なぜあいつはこんなにも俺の技をコピーできるんだ!あいつには見せたことがない技ですら返してくる……!)


いつしか怒りや焦りは恐怖へと変わり体が動かなくなり始める。

そして剣を落とし逃げ場の無いところへと追い込まれた。


(なぜ……なぜだ……!なぜこいつが俺を見下している……!こんなやつが……!)


そして一つの可能性に思い当たった。

どこからそれを手に入れたのかはしらんがを使ったのならこの強さにも納得が行く。


「く……くく……くははは!あははははは!そうか……どうせお前もアレを使ったのだろう?お前も俺と同類ではないか!」


「アレ?なんのことかは知らんが俺はもうお前に用はない。イリスたちは俺の仲間であり家族だ。お前は俺の仲間を傷つけたんだ……」


そう言ってレックスの剣が振り上げられる。

光を鈍く反射したその剣身は死の気配をこれでもかと放っていて自分でも顔がひきつるのがわかる。


「俺は仲間を傷つける奴を絶対に許さない。地獄で後悔するんだな」


(俺はカーリッツ=ジョンソン。こんなところで……こんな奴に俺は──)


そして、それがカーリッツの見た最後の光景であった──

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