第21話 圧倒的な力の差を

頭は異常なまでに冴えわたりなんだか世界がとても静かに聞こえた。

そのはずなのに耳と脳は無意識に情報をかき集め状況を伝えてくる。


「カーリッツ……まずはその汚らしい口を閉じろ」


「は?」


「そのベラベラとくだらないことばかり口走るその汚い口を閉じろと言っているんだ」


俺の想像以上に低くて威圧感のある声が出た。

今思えばこの世界でここまで本気で怒りの感情が湧いたことはなかったかもしれない。

それだけ先ほどのカーリッツの言葉はとてもじゃないが許せないものだった。


「あはは!そう怒るなって。お前を否定してるわけじゃないんだ。いいよな、ニーグルム。壊しても罪悪感とかないしどんなプレイでも遊びでもできるし」


あくまでカーリッツはイリスのことをニーグルムと蔑称で呼び続ける。

ニーグルムが相手ならどんなことをしようが構わないと言ってるようなものだ。

大切な仲間、家族のような存在にそんな言葉を投げかけられて怒らないはずがなかった。


「もう……いい」


「ぷっ!お前に何ができるんだ?俺を斬ってみるか?この俺に対して雑魚のお前がそんなことができるかなぁ?」


地を蹴り距離を縮め躊躇なく首に向けて剣を振り抜く。

喰らえば確実に死ぬ一撃にカーリッツはギリギリで反応し防いだが中途半端な体勢で受けたためカーリッツの体はふっ飛ばされ木にぶち当たって止まった。


「かはっ……!グッ……」


「ほら、立てよ。蒼天の剣の前衛様とやらの実力を見せてみろよ」


あくまで殺さないようにギリギリカーリッツが防げるように手加減した。

こいつは簡単に殺してはいけない。

こいつが今まで数え切れないほどの人たちに不条理にぶつけてきたであろう痛みを、苦しみを味あわせなくてはならない。

なによりも……汚らしい視線と言葉を投げつけられた仲間たちのために。


「くっ……少し隙をついて攻撃したくらいで調子に乗るなよ……!」


「なんとでも言え。お前はここで徹底的に潰す。ほら、先手をやるからかかってこいよ」


「な……舐めやがって………!」


苦しみに歪んでいたカーリッツの顔が怒りに染まっていく。

さっきの木にぶつかった衝撃で落とした剣を拾い上げ突撃してくる。


「誰に喧嘩を売ったのか……後悔しろよ」


「ほざけぇぇぇぇ!!!!」


怒りに身を任せた単調な攻撃なんて当たるはずもなく受け止め逆に弾き飛ばした。

カウンターを叩き込む隙はいくらでもあったが致命傷になりかねないので見逃してやった。

まだこいつに死なれるわけにはいかない。


「クソ……!これならどうだ!『蒼氷そうひょう貫撃かんげき!』」


カーリッツの前に魔法陣が現れ巨大な蒼き氷の槍が現れる。

速さ、攻撃力共に申し分ない強力な魔法で昔からのカーリッツの得意魔法。

受けるのは初めてだが何度もこの目に焼き付けてきた。


「身の程を教えてやるよ。『蒼氷貫撃』」


「何っ!?」


俺も全く同じ魔法を唱え蒼い魔法陣が出現する。

その大きさと魔力量はカーリッツの比にならずぱっと見ただけでも3倍の大きさがありカーリッツの魔法とぶつかり合う。

一瞬で俺の魔法はカーリッツの魔法を粉砕しカーリッツの隣に魔法が突き刺さった。


「すげぇ……」


「他人の魔法をあんなにも簡単にコピーして何倍もの威力で撃ち返すなんて……」


「あれはレックス様の実力のほんの一部でしかないです。本気のレックス様は私ですら見たことがないのですから」


後ろでは呆気にとられたようなロジャーとアナスタシアの声とそれに追随する少し自慢気なイリスの声が聞こえてくる。

だがこんなのでは足りない。

もっと圧倒的に、完璧に叩きのめさなければならないのだ。


「あ……ぅ……」


「どうした?まさかこんなことで怖気づいたんじゃないよな?天下のカーリッツ様?」


「こんなこと……」


「ん?」


カーリッツが顔をうつむけながら何かをつぶやく。

反省でもしたのだろうか。

まぁもし仮にそうであったとしても許す気など1ミリもありはしないが。


「こんなことが現実にあってたまるか……!俺はカーリッツ=ジョンソン……こんなところでつまずく男ではない!」


「なんでもいいからさっさとかかってこい」


それからはまさに蹂躙と言っても過言ではなかった。

カーリッツの攻撃の全てを避けること無く防ぎ、何倍も強力な形にして返してやった。

もちろんトドメを刺すことなく適度に手加減をしたりわざと外したりとこれでもかと力の差を見せつけた。


「す、すごい……」


「レックス様は本当に強い……俺もいつかあんな感じになれるのか……?」


どれほど戦っただろうか。

カーリッツは俺が全ての技を真正面から圧倒的実力を以て叩きのめしたことで戦意が消えかけていた。

既に振るう剣や唱える魔法に力は籠もっていない。

所詮それだけの男でしかなかったのだ。


「はぁ……あれだけ大口を叩いておいてこの程度か……」


「ぅ……ぁぅ……」


俺はカーリッツを大岩に追い詰め、逃げ場を失ったカーリッツは力無くへたり込んだ。

容赦することなく首元に剣を突きつける。


「お前は……3人より弱い」


「俺が……あんな女子供よりも弱い……だと?」


弱いと言われ多少怒りを取り戻したカーリッツが睨みつけてくる。

その態度に俺はため息をつくことしかできない。


「確かに今あの三人と戦えばまだお前が勝つことだろう。だが、心はお前なんかよりも3人の方が何倍も強い」


「「「……!!」」」


俺は後ろを振り向いて3人に微笑みかける。

3人とも驚いていたが俺はゆっくりと言い聞かせるかのように話しだす。


「イリスたちはたとえ劣勢であろうとも最後まで可能性を捨てない。勝てないならば時間を稼ぐか、逃げるか、戦い抜くか、決して最後まで諦めたりはしない。それに負けを認め吸収しようとする柔軟さと貪欲さを持っている。それがお前に足りないものだ」


「心……だと?ふふ……そんなものは強さには関係ない!全ては力、全てを制する暴力こそが強さ足り得る!腑抜けたことをかすな!」


「所詮はそれがお前の限界ということだ。俺は……俺達はお前なんざ最初から眼中に無い。見据えるのはもっと先のことだ」


容赦なく言い放つとカーリッツは顔をうつむけ不気味に笑い出す。


「く……くく……くははは!あははははは!そうか……どうせお前もを使ったのだろう?お前も俺と同類ではないか!」


「アレ?なんのことかは知らんが俺はもうお前に用はない」


僅かな情も無く剣を振り上げる。

そこに見据えるは顔をひきつらせたカーリッツであった。


「イリスたちは俺の仲間であり家族だ。お前は俺の仲間を傷つけたんだ……」


そこで一つ息を吸い込む。

そして一切の淀み無く言い放った。


「俺は仲間を傷つける奴を絶対に許さない。地獄で後悔するんだな」


その剣は止まること無く振り下ろされた──

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