第20話 元仲間との再会

「レックス様……この方とお知り合いなのですか?」


ロジャーとアナスタシアは俺の前に立ち庇うように警戒の表情を見せる。

俺のほうが強いのだがその守ろうとしてくれる気持ちに少し平常心を取り戻す。


「……まあ一応そうだな」


「おやおや、一応とは人聞きの悪い。共に背中を預けあった俺とお前の仲だろう?」


俺だってそうなのだと信じていた。

俺たちは何度も共に死線をくぐり抜けた真の仲間でありこれからも共に蒼天の剣を盛り上げていくのだと。

でも……そう思っていたのは俺だけだった。

こいつらはいとも簡単に俺の思いを踏みにじってきたのだから。


「よくもまぁそんなことが言えるものだな」


「はっは。これでも俺は一応君のことを買っていたんだよ?君は荷物持ちや雑用としての才能があるし遊びがいがあるからね」


「そいつはどうも」


これほど嬉しくない褒め言葉は初めてだ。

というかこれを褒め言葉と捉えて良いのかは甚だ疑問ではあるが。

こんなことを平然と言ってのけるカーリッツのことが本当に理解できない。


「それで?お前はなぜここにいる」


「なぜ?そんなの決まっているじゃないか」


まるで演劇に出てくる主役のように両手を広げニヤリと笑う。

そして剣を抜き一瞬での接近と共に斬りかかってきた。


「そんな攻撃が効くと思うなよ」


あらかじめ意識的に剣をすぐに抜けるように準備してあった俺はアナスタシアとロジャーを後ろへ引っ張りカーリッツの剣を受け止める。

その斬撃は鋭く速いが前もって来ると分っていれば絶対に喰らわない程度の話だ。


「いきなりとは大人げないな。とてもじゃないが天下の蒼天の剣の前衛様がすることとは思えないぞ」


「受け止めるとはね……たまたまにしてはやるじゃないか」


は?たまたま?

あれだけ完璧に受け止めてたまたまに見えるとかどんな目をしてるんだ?

俺はこのたった一瞬でこんなにも実力があるにも関わらず評価されてこなかった一端を見た気がした。


「随分とおめでたい目だな。本当にお前S級か?」


「はんっ!たまたま防いだくらいで調子に乗るなよゴミめ!領主館の襲撃など舐めた真似をしてくれやがって!」


やはりバレていた……か。

カーリッツが襲いかかってきた時点で薄々察していたがまさかバレていたとは……


「なぜこの逃走経路に気づいた?お前はこういうことに気づくような鋭い奴ではないだろう」


「ふん、お前にそんなことを言われるのは不愉快だがまあいい。ジェラールの差し金だ」


「そういうことか……」


俺の疑問に合点がいった。

カーリッツの言うジェラール──ジェラール=クロードは蒼天の剣の後衛担当の実力者。

俺でも使えない強力で厄介な魔法を持っており蒼天の剣の中でもかなり重宝されている人材だ。

あいつも来ているならばこの道がバレたのも納得だ。


「なんでここにお前たち2人がいるのかは知らないが面倒な時に来てくれたものだ。お前たちがいなければそのまま逃げられたというのに」


身バレしていないから市井に戻ることができるという希望がガラガラと音を立てて崩れていくのが分かる。

たとえ目の前のカーリッツを殺そうがジェラールがいる限り俺達が領主館を襲撃したと必ずバレる。

本当に余計なことをしてくれたものだ。


「残念ながらできない相談だな。どこのどいつがどれだけ死のうが俺には関係ないが一応世間体ってもんがあるからお前を捕まえなくちゃならんのだ」


本当に腐っている。

人々は魔物から民を助け、魔物を狩る蒼天の剣を信じ、様々な形で支援しているというのに当の本人はこのザマだ。

別に博愛の心を持てとは言わないが最低限の倫理観は持っていて欲しかった。

俺はこんな奴を仲間だと思っていたのかとみじめな気持ちになり腰の剣に手をかける。

そのときだった──


「レックス様!何かあったのですか!?」


領主館での用事とやらを終えたらしいイリスがやってきた。

息も切れていて汗もかいているのでよっぽど急いで来たようだ。

索敵魔法で知らない魔力反応があったのに気づいたのかもしれないな。


「レックス様、どちら様ですか?」


「ん?ああ、こいつは俺の元なか……」


そこまで言いかけて気づいた。

イリスは昔俺が蒼天の剣を追い出されたときの話をすると目から全ての光が消え失せ激しい怒りと殺気をあらわにしていた。

そんなイリスに目の前のこいつは蒼天の剣時代の仲間だよ、なんて言ったらどうなるか火を見るよりも明らかだ。


「あっはは!レックス!随分とその子たちに慕われてるみたいじゃないか!」 


「俺には勿体ないくらいの仲間だ。みな才能を持っている」


イリスたちに危害を加えられないように庇いながら俺はカーリッツと相対する。

そうしながら頭の中ではイリスにカーリッツのことをどう説明したものか考えたがその努力は結果として無駄に終わった。


「はは!こいつは傑作だなぁ!どんなに才能があろうともお前みたいな使えないやつがリーダーならばその組織のたかが知れるというものだな!」


その言葉はイリス達の心に火を付けるには十分すぎるほどのものだった。

3人の目が怒りで満ちイリスとアナスタシアからは魔力が漏れ出てロジャーに至っては先ほどの赤いオーラまで発現している。


(や……やりやがったあの野郎!俺を侮辱すんのもあんまり許せないけどこいつら怒ると怖いんだぞ!?どう責任とってくれるんだよ!)


「レックス様……こいつ消しても構いませんか?」


「誰も見てないので埋めれば誰にもバレませんし別にいいのでは?」


「アナ姉ちゃん名案だな。さっさと殺って埋めてしまおう」


もう発言内容が完全にモブの盗賊とかが言ってるようなソレだった。

物騒にもほどがある。


「3人とも落ち着け。あいつはお前たちよりも強い。そうやって怒ったところで格上には勝てないのだから」


「……申し訳ありません」


「わかればいい。俺のために怒ってくれたのは嬉しかったよ」


イリスの頭にぽんと手を置き慰める。

自分のためにここまで怒ってくれる人がいるというだけで俺は幸せ者なのだろう。

蒼天の剣ではついぞ感じることはなかった信頼が伝わってきて嬉しく思う。


「それで?仲良しこよしごっこは終わったか?」


「残念ながらごっこじゃない。俺たちは仲間でありこれから大志をなす」


大志と言っただけで世界への宣戦布告に了承したわけではない。

言われっぱなしでは終われなかった。


「はん!大志だぁ?お前たちの旅路は俺に倒されて終わりなんだよ!」


「お前を倒せばいいだけの話だ。どうせジェラールはここにはいないんだろう?」


「ジェラールなんかいなくてもお前なんか俺一人で十分だ。面倒だからさっさと終わらせるぞ」


こいつはここで放っておけない。

一度痛い目見せて俺たちに永遠に近づけなくなるくらい圧倒してやろうか。

こんな奴の顔なんて二度と見たくないしな。

俺がそんなことを考えているとカーリッツは剣を構えながら突如醜悪な笑みを見せる。


「楽しみだなぁ……!これでリチャード殿下はお喜びになる……!」


「は?」


言葉の意味がわからず思わず素で返してしまった。

だがこれでリチャードが喜ぶとはどういうことだ?


「特別に教えてやるよ。今リチャード殿下は雑用兼壊しても良い玩具をお探しでなぁ……」


「……まさか」


「領主館を襲撃した罪は重い。本来なら死罪のところを特別に奴隷墜ちにして俺たちが飼ってやるよ」


俺はカーリッツの言葉に黙り込む。

カーリッツは気分良さそうに声高らかにべらべらと話しだした。


「後ろの3人も仲良くきっちり玩具にしてやるからなぁ!女二人は中々上玉のようだし……ニーグルムに関しても安心しろ!俺たちは人種差別なんてせずともちゃーんと平等にいたぶって遊んで壊してやるからな!」


その瞬間、俺の中でプチッと切れてはいけない何かが切れた音がした──

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