第18話 赤き鬼の忠誠

「ロジャー!行くわよ!」


「おう!」


2人がザクス領主のゲドーに突撃していく。

初めの戦況は良かったが今はほぼ人間をやめ怪物に成り下がっている。

正直2人では倒せないような強敵でありすぐにでも後ろに下げたかったが2人のあいつを憎む気持ちもわかるし、なまじ俺が焚き付けた(ことになっている)ため俺が水を差すことはできない。

できることといえば2人が重傷を負う前に助け出せるように準備をするくらいだった。


「良いのですか?2人に任せても……」


ゲドーの護衛を縄で縛り上げたイリスが不安そうな目で俺に聞いてくる。

ロジャーとアナスタシアを鍛えたもののたったの1週間と短い期間であり育てるにも限界があり実戦経験は無いのだからイリスの不安もわかる。

というか俺も不安だ。


「ここは2人を信じよう。もし何かあればイリスもフォローに回ってくれ」


「承知しました」


イリスは俺に一礼して離れていった。

俺はイリスがフォローする側に回ったんだなぁと感慨を覚えつつ視線を2人に戻す。

2人は奮戦しているがいかんせんあの薬の効力が高くかなりの強さを持っている。


『ガァァァァァァ!!!』


およそ人間とは思えないような理性を感じない叫び声を上げゲドーはロジャーに接近した。


「ロジャー危ない!『土起どき壁来へきらい!』」


アナスタシアの詠唱によって床の一部が土へと変わり盛り上がる。

しかし薄く少ししか盛り上がらずあっという間に貫通されロジャーに拳が直撃した。


アナスタシアが使ったのは俺がドラゴン戦で使った魔法の下位互換である魔法でいくら才能があろうとも1週間という短い期間で簡易詠唱を使いこなすことは不可能だ。

もっと言ってしまうならば簡易詠唱までやってのけたことこそが才能だ。


「ぐっ……!」


『グヘヘヘェェ!』


ロジャーが吹き飛ばされてうずくまる。

イリスと共にすぐに近くに駆け寄って怪我の状態を見るがどうやら多少の打撲程度のものでイリスの回復魔法によってあっという間にあざは消えていった。


アナスタシアの魔法で多少勢いが失われていたとはいえあの相手から拳をもろに貰ってこの怪我の軽さはかなり異常だ。

元々戦闘民族であるため体は丈夫なのかもしれないがまだ成長途中の子供だし咄嗟の判断で後ろに飛んで勢いを殺していた。

この年でここまでの戦闘のセンスを持っているのは末恐ろしいな。


(全く……イリスといい、アナスタシアといい、どうしてこうも天才たちが集まってくるんだよ……!確かに才能があるに越したことはないって思ってたけど限度ってものがあるだろうが!)


人を結びつける神様が本当にいるのなら俺は言いたい。

自重を覚えなさいと。

何が起こったらこんな何百年に一度の天才たちが揃って忠誠を誓うようになるのか全く持って理解できない。

こんな人材ばかり集まっていたら本当に世界同盟を倒してしまいそうで怖いんだが……


「レックス様……あれを……使わせてほしい」


俺が内心頭を抱えていると回復魔法を受けて完全に回復したロジャーが俺の瞳を見つめて言ってくる。

それは全てを覚悟した力強い目であり一切の迷いはなかった。


(やはり……この敵はロジャーにとっては特別か)


「今がお前にとってそのときなのか。ならば存分に使え。お前の力を見せてみろ」


できれば全力を出してもあまり大したことないと良いなと思いつつ俺は異空間収納なら一振りのを取り出しロジャーに渡した。

鬼丸おにまる光宗みつむね

それが俺がロジャーに渡した刀の名であり俺が最高の素材と共に作り上げた恐らく人生で最高であろう一振り。

その強度と切れ味は凄まじくもはや妖刀と呼ぶのが自然でありあまりにも危険で強力なものであったため今では若干後悔しているが近接戦闘の才能があったロジャーに条件付きで与えることにしたのだ。


その条件とは──


『信念に基づき大切なものを守るとき』


「ありがとうございます……!」


ロジャーは淀みなく刀をキャッチし腰に下げ、腰を落とし深い姿勢で柄に手をかけ目を閉じ集中し始めた。

その瞬間、得体のしれない圧がロジャーから放たれる。


(なんだこの圧は……刀の力じゃないぞ……これは……ロジャー自身の圧か?)


ロジャーは刀を扱ったことがないはず。

にも関わらず構えは目が離せないほど美しく放っている圧は先日のキラーモンキー以上で強者の貫禄すらも感じる。

アナスタシアも刀を構えているロジャーに気づき戦いから一時離脱しロジャーに引き継いだ。


「レックス様……ご覧ください!俺の全力を!」


ブワッとロジャーが赤いオーラを放ち始める。

鬼人が関係しているのかとも思うがそんな鬼人が赤いオーラを放ったなんていう前例は存在しない。

何が起こっているのか分からないがロジャーになんらかの変化が起こっている。


「ゲドー……お前は俺の信念に基づきレックス様の名のもとに一撃で沈めてやる……!」


轟音と共に地面がえぐれロジャーの姿が消える。

その速さは一瞬俺の目ですら見失うほど速かった。

ゲドーの後ろに回り込みいざ首へと刀を振り抜かんとするロジャーの姿が一瞬だけ赤き鬼のような姿と重なる。


「これで……終わりだァァァ!」


鬼丸光宗は一切止まることなくゲドーの分厚く変色した皮膚を切り裂き首を飛ばした。

立っているのはロジャーのみ。

この場においての決着がついた。


「よくやった。ロジャー」


(なんだあの赤いオーラみたいなやばいのは!?全然よくわからんけどどんな力なんだ……?)


口では褒めつつ内心では驚くことしかできない。

ものすごいプレッシャーを放ち俺の目ですら一瞬見失うような速さで移動していた。

鬼のようにも見えたし鬼人の何かが関係しているのかもしれないが前例が無いため詳細はわからない。

俺の手に負えるかな……


「レックス様、これをお返しします」


「ああ、ありがとう」


ロジャーから鬼丸を受け取り異空間収納へとしまう。

それを見届けたロジャーはひざまずいた。

アナスタシアは少し遠くでイリスの回復魔法を受けながらこちらを見ている。


「レックス様、あなたは俺が一番欲しかったものをくれる」


「……ほう」


「それは『力』。俺はずっと大切な人を守る力が欲しかった。今までずっと虐げられてきたのは俺のせいなのに家族まで耐え忍ぶ生活をさせてしまった……。だからこそ俺は力をアナ姉ちゃんのために使いたい。そのためには誰よりも強いあなたについていくのが一番だ」


力への渇望。

しかしそれは己のためではなく自分が想う大切な人のために。

力は使う者次第で希望にも絶望にもなり得るがその心を持ち続ける限りいたずらに人を傷つけることはないだろう。


「アナスタシアは仲間だ。クランの全てを以て守ることを約束しよう。もちろんお前のこともな」


「ありがとうございます……!これで俺は心置きなくあなたに仕えることができる……!」


「……期待しているぞ」


やりすぎないようにな、と心の中で付け加えておく。



こうしてこの世に3人目のレックス狂信者が誕生した──


──────────────────────────

前話でゲドーがロジャーたちが認識阻害のフードを被っているにも関わらずすぐに正体に気づくという欠陥を発見したため少々修正しました。

なおこの修正でなんらかの伏線を付け加えるなど物語の進行に大きな変更はありません。

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