第14話 え?世界に宣戦布告ってどういうこと……?
「俺はレックス=マクファーレン。自己紹介が遅れて悪かったな」
「私の名前はイリスです。レックス様にお仕えしています」
キラーモンキーの討伐が終わり俺達は改めてロジャーとアナスタシアに向き合っていた。
俺はもう既に心の中では完全に2人にロックオンしている。
身寄りが無いなら仲間になってくれるかもしれないという魂胆である。
「ファミリーネームが同じだが……2人はどういう関係なんだ?」
ファミリーネームが同じなら血縁関係はあるんだろうと思いつつ俺が問いかけると2人は揃って顔を曇らせる。
その瞬間、迂闊に聞いてしまったことを後悔した。
もしこれで印象が下がってスカウトを断られたら最悪だ。
「い、言いたくないなら言わなくていいぞ。誰しも言いたくないことの一つや
二つはあるからな」
「い、いえ……お二人は私達の命の恩人です。お話しいたします」
そう言ってアナスタシアはポツリポツリと話し始める。
「ロジャーは……私の姉の子供なんです……。私が6歳のときに16歳だった姉がオーガにさらわれて……」
鬼人の出生はオーガと人の交配。
つまりはそういうことだ。
あまり気持ちのいい話じゃないが他にもオークなど似たような事例は数多く存在してしまっている。
「騎士団によって姉は助け出されたんですがそのときには既にロジャーを産んでいました。姉はしばらく塞ぎ込んでしまいましたがロジャーを見る目は愛に満ちていたんです。『生まれはどうであろうとも私の子であることには変わりない』それが姉の口癖でした」
「母ちゃんは俺を愛してくれてた。馬鹿な俺にもそれはわかってたんだ」
「……いいお姉さんであり良い母親だな」
もし魔物の子を孕んでしまったら堕胎は当たり前。
産んだとしても虐待の末に子供を殺してしまうなんてざらにあるにも関わらず子供であるロジャーにも愛が伝わっている。
話に聞いただけでも優しい人なんだろうなと思う。
「母も加えて4人で幸せな暮らしを送っていたんです。ですが……」
「村の奴らは母ちゃんを裏切り者だって責めやがったんだ……!悪いのは……全部俺なのに……」
「そんなことないわ!あなたは何も悪くないのよ……」
村を追い出されてザクスまでやってきたということか……
相当厳しい生活を送ってきたんだろう。
鬼人に対して世間の風当たりは強く楽な道なんてなかったはず。
誰だって生まれたくて鬼人に生まれてるわけじゃないのだが……本当に胸糞の悪い話だ。
隣ではイリスが静かに涙を流している。
イリスだって被差別種族で人々から罵られ暴力を振るわれ思うところがあるのだろう。
悲しい気持ちになりイリスの頭をそっと撫でるとイリスは目に涙を浮かべたまま微笑んだ。
「それからザクスの街に移住してきてしばらくは落ち着いた暮らしをしていたんです。しかし子供がぶつかってきたことでロジャーのバンダナが取れてしまって人前で角が見えてしまってから生活は一変しました」
石を投げられ罵詈雑言を浴びせられる。
近所の人からの嫌がらせがどんどんエスカレートしていきもう住めないと判断したらしい。
これだけでも大分イラッとする話だが話はこれで終わりではなかった。
「ザクスの領主が……あの豚野郎が母ちゃんとばあちゃんを殺しやがったんだ!なんの罪もない2人を面白半分で痛めつけて!笑いながら焼き殺したんだ……」
「姉と母は私達を逃がして捕まってしまったんです……。姉からロジャーを託されてなんとか逃げようとしたんですが寸前で見つかってしまい……」
「今に至るというわけか……」
ロジャーは激情と激しい憎悪を見せアナスタシアは目を押さえて涙を流していた。
理不尽な暴力に全てを奪われ痛みに涙を流す余裕さえもなく自分たちも命を狙われる。
なぜこうも世の中というものは理不尽なのか。
前の世界以上にこの世界には吐き気がする。
暴力ばかりが発展し痛みに耐え涙で枕を濡らす人々でこの世界は溢れかえっている。
そんな人々を……俺は救いたい。
「このまま……このまま終わってもいいのか?」
俺の言葉に2人は顔を上げる。
2人の手を握って俺は続けた。
「このまま、終わりでいいのかと聞いているんだ」
「それは……」
「俺は嫌だ。俺はあいつらを絶対に許さない。ただ逃げ回るなんて絶対に嫌だ」
使えるからとかそういう話じゃない。
俺は目の前に困っている人がいるなら助けたい。
そんな偽善で自分を満足させているだけ。
だから俺は手を差し伸べたいんだ。
「俺の仲間にならないか?俺達のクラン……黒白双龍団に入れ」
「「っ!?!?」」
俺が勧誘すると2人は驚きで目を見開く。
この名前言うとみんな驚くんだよな……
女将に言ったときも驚かれてから大笑いして頑張れよって背中を叩かれたな。
やはり即興で考えた割には俺のセンスが良すぎて驚いてしまうのだろう。
いやーやっぱ俺天才すぎたな。
「どうだ?ロジャーの願いを叶えるうえで悪い話では無いと思うが」
これは2人にとってもメリットのある話だ。
俺のクランに入って名を上げれば鬼人の立場が良くなるかもしれない。
俺も信頼できる向上心に溢れた仲間をゲットできてまさに一石二鳥!
誰にも損がない素晴らしい話じゃないか。
「なあイリス。お前もそう思うだろ?」
「そうですね……悪くないと思います。お二人ならばレックス様の大志、世界同盟の打倒及び被差別種族の解放の力となってくれるでしょう」
「だろう……え?」
今なんつった?
世界同盟の打倒……?
そんな世界中の人々を敵に回すようなことが俺の大志……?
な、何がどうなってんの!?
アナスタシアたちも小声でやっぱりとか言っちゃってるけど俺ってそんなに悪人顔してるんですか!?
「え、えーっと……イリス?それは一体どういう……?」
俺がどういうことなのかイリスに聞くととてもいい笑顔を返された。
いつもなら信頼できて癒やされる笑顔なのだが今はなんだか嫌な予感しかしない。
「言われずともレックス様の大志は理解しております。このイリス、全力をもってご助力いたします」
言われずとも理解してるって何も言ってない俺が何も理解してないんだけど!?
何がどうなっているのか理解できないまま俺が動揺を表に出さないよう必死にこらえ内心あたふたしていると突然アナスタシアとロジャーがひざまずいた。
こ、今度はなんだ!?
「レックスの兄ちゃん。いや、レックス様!」
「私、アナスタシア=ハリソンと我が甥ロジャーは貴方様に一生の忠誠を捧げましょう。どうか貴方様のクランの末席に加えていただきたいです」
「そ、それはもちろん歓迎だが……」
何がどうなったら一生の忠誠に繋がるわけ!?
しかもちょっと悪ガキっぽいロジャーまでがっつりひざまずいちゃってるし!
だ、誰か現状の解説を……!一体何が起こってるんだ……?
呆然としているとイリスが俺に耳打ちしてくる。
「この早さで心を掌握するとは流石レックス様です。あの件に関しての立案は私にお任せください」
さ、流石って言われてもな……
っていうかあの件ってなんだ?
俺はイリスに何か頼み事をした記憶は無いのだが……
「一応聞いておくが何の件の立案だ……?」
もう何を言われても驚かない。
そんな覚悟はあっさりと覆される。
「決まってるじゃないですか。ザクス領主館の強襲計画ですよ」
決まってるじゃないですか、というイリスに誰がそんな物騒なこと決めやがったんだと言いたくなるが己の発言が鮮明に頭の中で響く。
『このまま終わっていいのか?』
ロジャーとアナスタシアに投げかけた己の言葉が盛大に勘違いされていることを知り俺は絶句することしかできなかった──
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