第13話 招かざる客

「どうやら招かざる客が来てしまったようなんでね。自己紹介は後にさせてもらおうか」


全くなんとも間の悪いことだ。

初対面の人には第一印象が大切だと言うのに。

まぁこいつを討伐してゆっくりとお話させてもらうとしよう。


「イリス、こいつはA級の下かB級の上くらいの猿の殺し屋キラーモンキーだ。こいつの生態上群れをなしていることはないが訓練がてらやるか?」


キラーモンキーは巨大な猿ビッグモンキーというC級の魔物が突然凶暴化、巨大化した魔物だ。

凶暴化すると同時に群れの仲間さえも食い殺してしまうため群れを作ることはない。

イリスの訓練になるかもしれないと思って俺が問いかけるとイリスはじっとキラーモンキーを観察し始める。


「私には少々手に余るかもしれませんが……」


イリスは自分には荷が重いかもしれないと素直に報告する。

自分の実力と相手の実力を冷静に比べられるのは大切なことで、できることをできないと言われても困るし一番ダメなのはできないのに出来ると言われることだ。

ちゃんと教えを守れているようでなによりだ。


「よく理解しているな。ではそのことも踏まえて立ち回れ。時に戦いとは格上との意図せぬ戦いが起こっても逃げられないときがある。後ろからサポートするからやってみろ」


「承知しました。このイリス、レックス様のご期待に応えて見せましょう。参ります!」


イリスは自分のレイピアを抜きキラーモンキーに突撃する。

力があまり強くないイリスの得意な戦術で相手に何かさせる前に勝負を決めに行く強気な戦い方だ。

しかし、戦いとはそう簡単には上手くいかないもので──


『ウホッ!ウキャァ!』


イリスのレイピアが生物の共通の弱点である首を刺し貫こうとしたその瞬間、キラーモンキーの腕が己の首を守る。

固く油の混じったその毛皮はイリスの力では貫くことができず滑るようにイリスの攻撃を防いだ。


「なっ……!」


「イリス!毛皮の無いところを狙え!」


「っ……!わかりました!」


イリスは一瞬動揺したがすぐに攻撃を再開する。

この切り替えの早さは及第点かな。

俺はイリスが危なくなったら後ろから魔法で援護しつつ、課題点と良かった点を洗い出していく。


「あ、あの……」


「ん?どうした?」


しばらく戦いが続いていると後ろからアナスタシアが恐る恐るといった様子で話しかけてくる。

そこまで切羽詰まった状況ではなかったので素直に応じた。


「あの怪物相手にお一人でも大丈夫なのでしょうか……」


「イリスはそう簡単に負けるほどやわじゃないさ。もっとも危なくなったらすぐにでも助けに入るがな」


イリスは大切な仲間だ。

過保護にするつもりはないがこんなところで失うわけにはいかない。

勝てるかは正直微妙だとは思うが簡単にはやられないだろう。


そんなこんなで少しずつイリスがキラーモンキーを押し始めた。

細かいステップを刻み翻弄したあと毛皮の無い目、口、鼻や尻を狙ってプスプス刺している。

ただお互い決め手に欠けるため決着が中々つかない。

そして、その決着は唐突に訪れた──


「あっ……」


イリスから小さく声が漏れ足がもつれる。

その瞬間を見逃すキラーモンキーではない。

拳を振り上げ躊躇なくイリスを見据える。


『ウホホホッ!ホオォォォ!』


「なっ!危ないッ!」


「いやぁぁぁぁ!?!?」


拳が叩き下ろされた瞬間、ロジャーの声とアナスタシアの悲鳴が響く。

まあイリスをやらせるわけないんだけどな。

俺は今、イリスを抱きかかえキラーモンキーの攻撃を剣で受け止めていた。


「うぅ……ご迷惑をおかけしてすみません……」


「いや、元からお前は自分の手には余ると理解してちゃんと立ち回れていた。正直期待以上だったよ」


「ですが……」


「反省はあとだ。また後でみっちり鍛えてやるからな」


「……!はいっ!」


すごくいい笑顔だな。

今までの訓練も相当厳しくしてたはずなのに喜ばれるとは……

俺はキラーモンキーの腕を弾き飛ばした後、イリスを抱きかかえたまま後退しアナスタシア達の近くに降ろす。


「俺はあいつをやってくる。イリスはあまり動かなくていいから飛来物から2人を守ってくれ。できるか?」


「もちろんです。それくらいはお任せを」


「任せたぞ」


イリスの頭にポンと手を置きキラーモンキーと向き合う。

キラーモンキーはイリスとの戦いで多少息切れしているし血も流している。

防戦一方の展開もあるかもしれないと考えていただけにイリスの頑張りが嬉しくなる。

随分と頼もしく成長してくれたものだ。


「さて、訓練はおしまいだ。イリスに代わって俺がお前を倒す。イリスと違って優しくしてもらえると思うなよ」


『ウホッ!ウキャゥ!』


キラーモンキーはその凶暴な本能のまま右手から音がするほど拳を強く握り俺に向かって殴りかかってくる。

俺は剣を抜きその場から動かず一閃する。


「ふむ、所詮は獣だな。こんな単調な攻撃が当たるはずもないというのに」


俺の剣は硬い毛皮すらもバターのように苦労することなくキラーモンキーの右腕を斬り飛ばした。

鮮血が舞い、キラーモンキーが悲鳴を上げる。

さっきまで隠していた殺気を出したことでキラーモンキーはジリジリと後退し始める。

流石は野生生物なだけあってこういうときの本能はしっかりしている。

まあ逃がす気など毛頭ないが。


『ウ……ウホゥ……』


「決着をつけようじゃないか。ほら、攻撃してこいよ」


俺が近づくとキラーモンキーは背を向けて走り出した。

片腕しか無いにも関わらずかなりの速度で太い枝を伝っていく。


「……あいつの素材は別にいらないしな。追いかけるのも面倒だから魔法で倒してしまうか。『我が呼びしは偉大な大地、その力を以て敵を滅せよ。地滅ちめつ天柱てんちゅう』」


詠唱を終え、魔力を解き放った瞬間にキラーモンキーの下の地面から急速に柱が現れ腹を突く。

一気に内臓を圧迫されたキラーモンキーは白目を剥き空中へと投げ出された。

初めて使ったけど中々悪くない魔法だ。

この魔法ならば敵を殺さずに無効化できる。


「まだ魔法の実験はまだ終わっていないがな。ついでにもう一つの方も試させてもらうとしよう。『我が呼びしは怒りのいかづち、槍となりて我が敵を貫け。激雷げきらい貫槍かんそう』」


一瞬で小さな雲が現れ雷が槍の形へと変化していく。

そしてピカッと光ったその瞬間にはすでにキラーモンキーを貫き黒焦げにしていた。


「思ったよりも威力があるな……使い所は考えないとな。それにとにかく魔法は素晴らしい。詠唱が必要なことを差し引いてもあまりある力だ」


俺が転生する前のレックスはあまり魔法を使っていなかった。

もちろん使おうと思えば使えるのだが剣のほうが本人に合っていたらしく剣の修業をしている記憶が圧倒的に多い。

どうやら詠唱に時間がかかることや詠唱のせいで次の行動を読まれるのを嫌ったらしい。

前世に魔法が無かった俺としては魔法を使いたくてしょうがないのだがまあそこは性格や価値観の問題だろう。


「なんにせよ……討伐完了だな」


俺はこれから己のすべきことを見据えイリスたちのもとへ歩き出す。

その双眸そうぼうにはロジャーとアナスタシアが映っていた──


─────────────────────────

まだまだ序盤ですがレックスと愉快な仲間たちはどんどん世界を引っ掻き回していきます!

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