第12話 救援

「情報ではこの辺りですね……」


俺をここまで先導していたイリスがスピードを落とし止まった。

今のイリスは俺がプレゼントした軍服を身にまとっている。

軍服は白と黒を基調としており胸には2匹の龍があしらわれたエムブレムがついている自慢の一品で動きやすい上に防御力も高く、とても凛々しくてイリスによく似合っている。


「なんで森なのに獲物がいないものなのかと疑問に思っていたがあんなのがいれば噂通りなのも納得だな」


俺が見た方向にいたのは大量のスライム。

ゲームとかでよく出てくる水色のぷるぷるの魔物でなんでも食べる雑食性、そしてかなり凶暴らしく動物を見つけたら多数で飛びかかって鼻と口に入り込み窒息させて捕食する。

草食動物たちがこのスライムたちの餌食となったことで肉食動物が生きられなくなり結果ここはスライムの森となったのだ。


「私はあまり好きじゃないです……見ているだけで少し悪寒が……」


イリスはそう言って小さくぷるぷる震える。

イリスをまだ鍛え始めたばかりのころ、スライムと戦ったことがあるのだが……

窒息はさせられていないものの体中にまとわりつかれヌルヌルになってしまったことがあった。

それ以来スライムがトラウマとなってしまったのだ。


「今のイリスならスライムなんかに遅れは取らないだろう。もう大丈夫だ」


「うぅ……ですが……」


「今日ここに来たのは散策に来たわけでもなければスライム狩りにきたわけでもない。目的は二人の救助だけだ。あまり気にしなくていい」


「……善処します」


相当嫌らしい。

女の子だし全身にまとわりつかれれてヌルヌルにされたらトラウマになるのも仕方ないか。


「まずは2人を見つけるぞ」


「この山はかなり広いですがどうやって見つけるのですか?ご命令ならばこの山を全て走って探しますが」


どんな命令だよそれ。

こんな広大な山と森の中を走らせて見つけるとか無理があるだろうが。


「いや、イリスに索敵魔法を教えようと思ってな」


「索敵魔法、ですか?」


「そうだ」


索敵魔法とは文字通り敵の位置を探る魔法。

魔力を込めた量によって範囲と精度が上がっていく汎用性の高い強力な魔法だ。

ただ一つ欠点があって魔力を貯めてから発動まで時間がかかるのだ。

使えないこともないが戦闘中にはかなり使いづらい。

そのため俺は戦闘中は精度や範囲は落ちるものの魔法ではなく空気の流れや足音など気配で敵を探っている。


「まずは魔力を貯めてみてくれ」


「わかりました」


イリスは魔力を自分の下へ集め始める。

魔力を制御できる量がかなり増えていて成長を感じる。

剣だけじゃなくて魔法も才能があるんだよなぁ……


「薄く周りに伸ばしていくんだ。集中を切らすなよ」


「はい……」


イリスの魔力がすぅーっと広がっていく。

見た感じはとても上手く行っている。

というか1回目でこんなに薄く広げられるのは素晴らしい。 


「どうだ?わかるか?」


「……はい。生き物がもつ魔力が伝わってきます」


「よし、成功だな。それじゃあそのまま2人らしき気配がないか探してみてくれ」


「わかりました」


イリスは目を閉じ更に集中を深めていく。

初めての索敵魔法で探し漏らしが無いように俺も索敵魔法を展開し始めた。

スライムだらけで少し探しづらいが不可能というほどでもない。


「っ!南東に約300メートル先に魔力反応が2つあります!」


そう言われ俺は円形に広げていた索敵魔法を南東の方のみに絞り広げていくと確かにそこには2つの魔力反応があった。

生きていることにひとまず安堵する。

しかし安心するのはまだ早かった。


「レックス様!さらにかなりの数の魔力反応が2つの魔力反応を取り囲んでいます!おそらくこちらはスライムかと!」


「囲まれているのか……」


スライムとはかなり弱い魔物であるがそれは戦い慣れた冒険者や兵士にとっての話。

草食動物を狩る力はもっているわけだしスライムにもいろんな種類があって強いやつはかなり強い。

この森にどんなスライムがいるかわからない以上早く助けに行く必要があった。


「急ぐぞ」


「はいっ!」


足場の悪い地面ではなく木の上を飛び移りながら俺達は一直線に魔力反応があった方向へと向かう。

目的地に到着すると目に入ってきたのは膝をついて座り込んでいる女性を鬼人の男の子がスライムから守っていた。

いくら戦闘民族と言えどこの年とは思えないほどキレのある攻撃をしていたが限界が近いらしくふらついてしまっていた。


「加勢するぞ。相手はスライムだがいけるか?」


「私の力は全てレックス様のために。私の都合でご迷惑はおかけしません。最大限尽力し成果を挙げてみせます」


その目に一切の迷いと不安は無い。

随分と頼もしくなってくれたものだ。


「よく言った。あっちは任せたぞ」


「承知しました」


俺とイリスは木から飛び降り2人に飛びかかろうとしていたスライムを斬り捨てた。

2人を見るが特に怪我をした様子は無い。


「よくここまで耐えたな。後は任せろ」


「あ、アンタは……」


「黙って見てろ。俺達はお前らの味方だ」


それだけ言い残しスライムの群れに突撃する。

本当は魔法で一掃してしまうのが一番早いのだが2人を巻き込んでしまう可能性があるため使えない。

イリスもそのことをちゃんと理解していて的確にスライムの核を刺し貫いていく。

今回は特に強い種のスライムはいなかったためあっという間にスライムを倒しきった。


「終わりだな」


「うぅ……本当に気持ち悪かったです……」


イリスは少しげんなりしたように愛剣をさやにしまった。

イリスのレイピアは俺がイリスのために良い金属を仕入れて作り上げた一品で丁寧に使ってくれているのが鞘からもわかる。

毎日ニコニコ笑顔で手入れをする姿も見てるしな。


「よくやった」


「……!はいっ!ありがとうございます……!」


こんななんのひねりもない一言でイリスは満面の笑みを見せ恍惚の表情を浮かべる。

あまり考えないようにしていたがもはや重くしないようにするのは手遅れかもしれない。

まだなんとかなると信じたいが……


「さて、怪我はないか?」


「あ、あのっ、助けてくださりありがとうございます」


俺が振り向いて問いかけると女性が立ち上がって頭を下げる。

大人びて見えたがよく見たら所々幼さの残った顔をしているゆるふわな茶髪が印象的な美人だった。

そして分厚い胸部装甲……

多分俺たちと同年代だが否が応でも母性を感じさせる。


「私はアナスタシア=ハリソンと申します。この子は……」


「ロジャー。ロジャー=ハリソンだ。助けてくれて……その、ありがとう」


女性と男の子はアナスタシアとロジャーと名乗った。

アナスタシアはとても柔らかな態度で、ロジャーは少しふてぶてしいながらもお礼を言ってきた。


「アナスタシアとロジャーか。いい名だな」


「レックス様、お気をつけを」


「ああ、わかっている。自己紹介をありがとう。俺たちもきちんと名乗りたいところなのだが……」


俺がそう言いながら剣を抜き放ったことで二人の顔色が青く染まる。

その瞬間、地を揺らすほどの振動と共に轟音が響いた。


「あ……ぅ……」


「こ、こんな怪物……こんなのありかよ……」


「どうやら招かざる客がきてしまったようなんでね。自己紹介は後にさせてもらおうか」


後ろを振り返ると、そこにいたのは噂通りの巨躯を持った猿の化け物だった。

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