第7話 黒白双龍

ドラゴンを解体している間、俺はあることを考えていた。

うーん……どうしようかなぁ……


「ど、どうしたのですか……?何かやら考え込んでいるご様子ですが……」


俺が解体した素材を異空間収納バッグに入れているイリスは顔を真っ青にしながら聞いてくる。

ドラゴンの解体はやっぱりグロいところはあるしさっきイリスは吐いてしまったのだ。

休憩しててもいいって言ったんだけど本人が頑なに手伝うと言うのでお願いしている。

ちなみに俺は現世の記憶にもっと酷い血みどろのものが多すぎて感覚が麻痺っているため大丈夫なのだ。


「いや、なんでもない……と言いたいところだがイリスに話がある。これの片付けが終わったら話してもいいか?」


俺は迷った末に話すことにした。

全てが終わったときに話をさせてほしいと伝えるとイリスは首を縦に振った。


「わかりました。私でよろしければいくらでもお聞かせください」


俺は頷き返して再びドラゴンの解体に取り掛かる。

イリスが了承してくれたらいいけどなぁ……

まあ本人の意思は尊重するつもりだけど……

俺は未来のことに思いを馳せ心の中でそう呟いた。


◇◆◇


「……ようやく終わったな」


「お、お疲れ様でした……」


全てが終わった頃にはもう日が暮れかけていた。

イリスは精神的にも身体的にも疲れた様子で俺は苦笑しながらイリスを労う。


「手伝ってくれてありがとう。助かったよ」


「いえ……これも私の役目ですので……」


「それでも、だ。まあその話はあとでゆっくりするとしてまずは森を出よう。夜の森は危険だからな」


「わ、わかりました」


俺たちは素早くその場から離れ街へと戻った。

宿に戻り風呂に入ったり夕飯を食べたりしていたらすっかり月は高くなっていた。

しばらく部屋でのんびりしているとイリスが緊張した面持ちで話しかけてくる。


「そ、それで森で仰っていたお話とは……」


「そうだな。その話をしなくちゃな」


俺はイリスに向き合うとイリスは余計に顔を強張らせ背筋がピンと伸びる。

俺は一呼吸置いて話し始めた。


「イリスのこれからについての話だ」


「……!!」


緊張が一転驚きへと変わる。

そしてイリスは悲しそうに顔を少し俯けた。


「そう……ですよね。ご主人様にはたくさんご迷惑をおかけしてしまいました。売るなり殺すなり、お好きになさってください」


ち、ちょっと!?

なんでお別れみたいな話になってるわけ!?

俺まだこれからの話としか言ってないんだけど……


「早まるな。俺はそんなことが言いたいんじゃない」


「で、ではこれから私をどうするのでしょうか……?」


これから俺がイリスに言うことは必ずしもイリスの幸せに繋がるかはわからない。

それでも、俺は言うべきだと思ったんだ。


「単刀直入に言おう。イリスをスカウトしたい」


「す、スカウト……ですか?」


「ああ。俺はこれからクランを作ろうと考えている。そのをイリスに任せたい」


「……!?」


イリスが驚くのは無理ないだろう。

この世界の常識に照らし合わせればスカウトだけでも異例なのに組織のNo.2になれと言っているのだから。


「俺は誰も成し遂げられなかったことを成し遂げたい。そのためには心強い仲間が必要なんだ」


昨日の夜もたくさん考えたけど俺はクランが作りたいと考えた。

伝説を作るのは男のロマンだし組織のトップというワードもなんとも形容しがたい魅力を持っていた。

でもたとえ伝説になったとしても1人で人生を過ごすことが俺は幸せだとは思わない。


もちろん幸せの形は人それぞれだから他の形を否定する気はないが人に裏切られた悲しみは人でしか癒せないと俺は思ってるんだ。

イリスだって人によって傷つけられた1人だし痛みも分かち合えると思う。

だからこそ俺はイリスをこれから作るクランにスカウトしたい。

たとえイリスに戦う才能が無くても事務作業とかやってくれるだけでもありがたい。

俺は前世で働いた経験が無いし自信がなかったのだ。


「もちろん断ってくれても構わない。断られてもイリスを害する気持ちなんて無いしイリスが決めていいんだ」


イリスは口をぱくぱくさせている。

美少女というのはこういう仕草もとてもかわいらしい。

もし俺がやったらキモがられるのがオチだ、とどうでもいいことを考えていて今はスカウトの途中だったと我に返る。


「で、ですが私はジパン人でこんな髪をしているんですよ……?」


イリスはそう言って自分の髪を撫でる。

この世界最大の宗教、主神教の教典に黒は穢れた色として書かれている。

そこから連想ゲー厶のようにジパン人は迫害されるようになってしまったのだ。

だが俺は首を横に振りイリスの頭を優しく撫でた。


「俺はそんなことは気にしない。とても綺麗な髪だと思うぞ」


「〜〜っ!?」


イリスの顔が真っ赤に染まり俺から少し距離を取る。

そこで俺は自分の失態に気づく。


(つ、付き合ってもいないのに頭を撫でるのはアウトだったか……!?セ◯ハラで訴えられないよな……?それに髪のせいで差別を受けたのに髪を褒めたのもよくなかったかも……)


「も、もしイリスが入ってくれるなら……そうだな、クランの名は……」


やべ、全く考えてない……!?

カッコいいクランの名前を紹介すればさっきの失態もチャラになってイリスも首を縦に振ってくれると思ったのに……!


か、考えろ……俺……!

俺の髪の色は白でイリスは黒。

で、でも白黒はダサいしどうすれば……!?

迷う俺に一つの名が舞い降りる。


「……黒白双龍団こくびゃくそうりゅうだん。俺が考えるクランの名だ」


さっき考えた白黒を黒白に変え龍を入れとけば取り敢えずカッコよくなるだろうとのことでこの名前になった。

即興で考えんだからダサいとか言わないでほしい。

でも俺とイリスの特徴が入っていて双龍とすることで助け合っていこうという意味みたいな感じで案外良いんじゃないかと思ってる。

のだが……


俺の渾身の名を聞いたイリスは今までで一番驚いた顔をしていた。

え?なんで……?


「どうした。そんなに驚くこともないだろうに」


「………ご、ご主人様は本気で成し遂げる気なのですか?」


「当然だ。俺は誰も成し遂げたことがないことこそやるんだ」


伝説になるなんてThe異世界無双みたいな感じでなんかカッコいい。

取り敢えずなんでもいいから伝説を作りたかった。


「わ、私なんかでご主人様のお役に立てるでしょうか……?」


「俺が誘ってるんだからそんなことをお前は気にしなくてもいいんだがな。あえて言わせてもらうなら


イリスの頬を、涙が伝う。

次から次へと流れる涙は昨日の食堂のとき以上だった。

俺が近寄ろうとするとイリスは涙を拭いてその場に跪く。

俺はその行動で何を意味しているかを悟り真剣な面持ちへと変えた。


「ご主人様……」


「レックスでいい」


「ではレックス様。これより私、イリスは貴方様の剣となり盾となり身も心も忠誠も私の全てを捧げることを誓います。全ては貴方様のために」


イリスの今までで一番力強い言葉は予想外にもめちゃくちゃ激重で言葉を失う。

え、えーっと……そこまでは言ってないよ?俺……


「む、無理する必要はないからな」


「無理などするはずもありません。貴方様のためになれるならばこの命も喜んで捨てますし妾にでも何にでもなりましょう」


「………」


ほ、本気で言ってやがる……

なんでさっきの会話からそんなことになっちゃったわけ!?

一緒にクランを作って仲良くやっていっていずれ『すごーい』とか言われちゃう存在になりたいよねって話をしただけなのにすごい忠誠心なんですけど……


……多分テンションが高くなってこうなってるだけだよな。

俺は敬われるようなことはしてないしあくまで一過性のもののはずだ。

明日にはもとに戻っているだろう。

そう俺は判断してひとまずイリスの反応にはスルーすることにした。


「では記念にイリスにプレゼントをしよう」


俺は異空間収納バッグを開け創造魔法を発動する。

中からどんどん素材が出てきて空中でクルクルと周りだし、真ん中に集まって光り始めた。

イリスに似合うのは……こんな感じかな?

俺はイリスに似合う服を想像し服を作り上げた。

俺の手には一つの軍服が収まっていた。


「竜の皮で作った軍服だ。受け取ってくれ」


「こ、こんなに良いものを受け取ってもよろしいのでしょうか?」


「もちろんだ。イリスのために作ったのだからな」


「私のため……」


よほど嬉しかったのかイリスの口角は上がっている。

喜んでくれたようでプレゼントした俺もとても嬉しい気持ちになる。


「それじゃあこれからよろしくな、イリス」


「はいっ……!よろしくお願いします!」


俺とイリスの手はがっちりと握られた。


しかしこのときの俺は知らなかったのだ。

己の言葉の真の意味に。

そして運命の狂いはもう戻れないほど大きくなったことに……

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