第6話 ドラゴン狩り

「ご、ご主人様!近づかれては危ないです……!」


「大丈夫だ。守るからそこから動くなよ」


俺は地を蹴りドラゴンに接近する。

ドラゴンは魔力耐性が高くとても硬い鱗で体表を覆っているため物理攻撃と魔法攻撃がほとんど通らない。


ならばどうするか。

ドラゴンには2つの弱点が存在するのだ。

1つ目は鱗が覆っていない腹、ここは防御力は高いものの攻撃が通らないレベルではない。

2つ目は顔、目は当然弱いし魔法などが口から体内に入れば大ダメージを与えられる。

俺は剣も魔法も使えるので相手の攻撃を防ぎつつ弱点を狙う寸法だ。


「さぁ……お前には素材になってもらうぞ……!」


俺の心に恐怖はない。

あるのは可愛い子に最高のプレゼントをして喜んでほしいという下心ありまくりな男心のみ。


俺は敵の攻撃を正確に捉え相手の力を横に受け流してやり、体勢を崩したところで腹に狙いを定めた。

しかしその瞬間、ドラゴンは無理やり体を回転させ目にも止まらぬ速さで尻尾が迫る。


(なるほど……二段攻撃か……!)


体勢も悪く絶対に避けられない。

だがまだ揺らぐことはなかった。


「『守壁しゅへき大地だいち』」


簡易詠唱を用い一瞬で俺とドラゴンの間の地面がせり上がり盾となる。

簡易故に普通と比べると脆く薄いが一瞬だけドラゴンの攻撃を鈍らせる。

その際に生じた僅かな減速は俺がドラゴンの間合いから外れるには十分な時間だった。


「ご、ご主人様!お怪我は……」


「無傷だ。問題ない」


俺は仕切り直しと言わんばかりに再びドラゴンを見つめる。

確かにこいつは強い……人間とは明らかに格が違い尋常ならざる力を持っている。

だが……俺ならば勝てる。


思わぬ強敵を前に喜びが溢れ胸が高鳴る。

この気持ちは俺のもののようで少し違う。

これはレックスこの世界の俺自身の気持ちだ。

今までサポート役に徹し続け、まともに強敵と戦ったことがなかった。

初めて命を懸けて自分の実力を試すことができる。

そんな状況に武人としての血が騒いだのだ。


「さぁ……もう一回行こうか……!」


俺はもう一度接近する。

さっきと同じ軌道、攻撃であったがその速さは比べ物にならない。

横薙ぎに振るわれたその爪は俺を捉えることなく空振りし俺の一太刀はドラゴンの腹を少しだけ傷つけた。


「くっく……やはり大したことないではないか」


ここまで戦って気付いた。

蒼天の剣は俺のかせだったのだ。

仲間と協力する、仲間思いだった蒼天の剣時代はとにかく連携を意識してきた。

結果的に自己中な仲間に振り回され自分の実力の半分も発揮できていなかったと今この状況を見れば誰でもわかる。


「ご、ご主人様……すごいです……」


加えてイリスの尊敬の眼差し。

可愛い女の子からこんな目を向けられたら大抵の男子のテンションは上がる。

そして俺は大抵の部類だったのでもれなく調子がうなぎ登りであった。


(かっこよく魔法でもぶちかましてやろうかな)


『──!!─────!!!』


ドラゴンは再び咆哮すると周りに魔法陣が現れる。

その魔法陣の数と精度には脱帽を禁じ得なかった。

だがそれでもまだ俺が焦るには至らない。


(イリスが見てるんでな……!カッコ悪いところは見せられないぜ!)


「ふん、この程度なら造作もない。『我が呼びしは業火の炎、矢となりて敵を撃ち抜け。炎環えんかん連矢れんや』」


俺の周りにも赤い魔法陣が大量に出現する。

その数はドラゴンのそれに及ばないものの圧倒的な魔力を持っていた。

俺は振り上げた手をドラゴンに向かって振り下ろす。


「放て」


『GYAooo!!』


俺の魔法陣からは炎の矢が、ドラゴンの魔法陣からは岩のつぶてが現れぶつかり合う。

その攻防は膠着しているようにも見えた。

しかし俺の放つ炎の矢は段々と押し始めていた。

まだ弾数にも余裕があるしこのままなら押し切れる。


「決めるぞ。貫け、炎の矢よ」


俺がより一層の魔力を込めると炎の矢は本来の大きさから何倍も巨大化する。

その矢は止まることなくドラゴンに直撃した。


「や、やりましたか……?」


それは言っちゃダメなやつ。

それ言ったときは大体倒せてないんだから。

俺の想像通りドラゴンは砂埃の中から立ち上がってきた。

しかし左目からは血が流れ目が閉じており脇腹からは少し大きめの穴が開いて血が吹き出していた。

満身創痍と言ってもいいくらいの手傷だ。


「流石ドラゴン。しぶといな」


『GAoooooooo!!!!』


俺が感心しているとドラゴンは翼を羽ばたき上空へと飛び上がった。

まさか逃げる気かと一瞬焦ったがそれは杞憂に終わる。

俺たちの上空を旋回したと思えば魔力を口元に溜め始めた。


「あれは……竜の息吹ドラゴンブレスか!」


(何考えてやがんだあの野郎!こんなところでそんなもん撃ったらこの森全部消し飛ぶだろうが!)


おそらく相手も最後の一撃なのだろう。

先ほどとは比べ物にならないほどの魔力を感じる。

俺はこの状況を打破すべく頭を回す。


(このまま打たせたら俺たちが防いだとしても森が文字通り消えてしまう……絶対にこの角度で撃たせてはダメだ……!)


相手の狙いは自分。

ならば俺の動き次第で照準を変えることも可能なはずだ。

俺はそう判断し高く飛び上がる。

予想通りドラゴンの目はこちらを向く。


「ドラゴンブレスがどんなものか……見せてもらおう」


俺は地属性の魔法を発動し足場を作ってドラゴンに向かって飛んだ。

勝負は一瞬。

気を抜けば間違いなくブレスで骨も残らず消し飛ぶことだろう。


『───!』


ドラゴンの口からレーザー砲のように純粋な魔力の塊が放たれる。

超高速に迫るブレスは完全に直撃コース。

これをくらえば俺は死ぬ……だがこれを防げば俺の勝ちだ……!


一般的に、剣は魔法よりも劣ると言われている。

間合いの長さが全然違うし人が剣を振るうよりも魔法という超常的な力の方が威力も出る、と。


しかしレックスは剣の可能性を捨てたりしなかった。

己も魔法を使えるからこそ剣に確かな強さを見つけ出すことができたのだ。

そして苦しい修行の末にさらなる境地にたどり着いた。

その奥義の名は──


かみとし」


魔法は神の御業によりこの世界に与えられたという。

それを人の力で打ち破るこの技は神すら墜とす、そう命名したのだ。


この技の性質は剣に纏わせた魔力の層。

そして極限まで研ぎ澄ました一閃である。

薄く魔力を纏わせた剣は魔法を切ることができる秘剣。

俺の研ぎ澄まされし一閃は本来は絶対に切れぬはずのブレスを斬り伏せた。


「これで、終わりだな」


振り抜かれた愛剣は止まることなくドラゴンの腹を袈裟斬りにする。

ドラゴンは鼓膜が破れそうなデカさの断末魔をあげそのまま墜落していった。

俺も重力に従って落ちていき着地すると少し離れたところにいたイリスがパタパタと走ってきた。


「イリス、怪我はないか?」


「わ、私は大丈夫です。ご主人様こそお怪我は……」


「俺も大丈夫だ。軽傷一つ負っていない」


何事もなく事が済み俺は一つ息を吐いた。

ふぅ……ドラゴン狩り終了だな。


心躍る戦いの勝利に俺は小さく拳を握った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る