第5話 プレゼントは素材から
まずは仲良くなろう。
イリスを引き取った日、イリスが泣いているのを見た俺はこれを第一目標に掲げた。
俺はイリスの両親の代わりになることは絶対にできない。
だけど頼れる人がいないというのは心細いものだ。
この1週間色んなことを試してみて少しずつ距離が縮まってきた気がするけどもう少し寄り添ってみようと思う。
「イリス、ちょっと外に買い物に行かないか?」
「買い物……ですか……?」
イリスはキョトンとした顔をする。
どうやら触られるのはまだ怖いが話すことには慣れてきてくれたらしい。
少し嬉しい気持ちになり俺は極力優しい顔を意識して笑顔を浮かべた。
「そうだ」
「わ、わかりました……お付き合いさせていただきます」
「あー違う違う。今日はイリスの物を買いに行くんだ。服だってそれしかないし他にも必要なものとかあるだろう?」
流石に口に出して下着やらなんやらは必要だろう?とは言えなかった。
しかしイリスは恐縮して困ったような顔をする。
イリスはやはり人から何かを貰うということに慣れていない。
「金のことは気にするな。ほら、身支度をして出発するぞ」
「は、はい……」
俺たちは身支度をした後、宿を出て街に繰り出す。
まずは服でも買ってやろう、そう思ったのだが……
「
「チっ!そんな穢れた奴は入店お断りだよ!」
どこも似たような反応で追い返される。
みるみるイリスの表情が暗いものへと変わっていってしまう。
俺は人混みが少ないところまでいってイリスに頭を下げた。
「すまなかった。無理やり連れ出したのにイリスに辛い思いをさせてしまった」
言い訳になってしまうが俺はジパン人を今まで見た記憶が無かった。
差別対象であることは知っていたがここまで対応が酷いとは思ってなかったのだ。
それでイリスを傷つけてしまうなんて……本当に俺は馬鹿だ。
「ご、ご主人様は悪くないです……!私こそごめんなさい……こんな髪の毛で……」
イリスは泣きそうになりながら腰までの伸びる自分の髪の毛を撫でる。
俺はそんなイリスの痛々しい姿を見て悲しみと同時に激しい怒りが湧いてきた。
なぜ同じ人間なのにここまで待遇が違うんだ。
前世でも人種差別があったのは知っている。
でも実際にこうやって目の当たりにするととても許せるものじゃなかった。
「では街の外に行かないか?」
「え?ですが外は……」
「お前のことは俺が守る。傷一つ付けさせないと約束しよう。あんなゴミどもが作ったものをイリスに身に着けさせたくない。俺が魔物を仕留めてその素材を使ってお前に必要なものを作ろう」
なんとまぁ便利なことに俺は創造魔法が使えた。
素材を組み合わせて作りたいものを作る創造魔法だが原子量の増減や種類の変換は不可能らしく素材はしっかりと集めなくてはならない。
わかりやすく言うなら何も無いところから何かを作ることはできないし鉄を銅に変えたりするのは不可能ということだ。
そんなわけで上質な素材が必要だ。
ちょうどいいから大量に色んな種類の素材を集めたい。
汎用性の高い魔法だし何かに使えるかもしれないからな。
「で、ですがそれではご主人様が危ないのでは……?」
「ん?大丈夫だ。俺は一応S級冒険者だしな」
「え、S級……そんなにすごい方だったなんて……」
S級とは国家に10人いれば良い方であるほど数が少ない冒険者の最高位。
蒼天の剣は全員S級冒険者で構成されていたからどれだけ化け物パーティーかわかるだろう。
「そういうことだ。行くぞ」
◇◆◇
「さて、着いたな」
「あ、あの……ここって……」
「ん?魔の森だけど?」
魔の森とは人が未だほとんど入ることができずほとんどが謎に包まれている魔境のこと。
新種の魔物と植物であふれ今までのセオリーはほとんど通用しないのが冒険者の中での共通認識だ。
「いざとなれば私がご主人様の盾になります……」
「そんなものは必要ない。イリスはちゃんと俺の後ろに隠れておけ」
魔の森で採れる素材はみな一級品。
女の子への初めてのプレゼントなんだから張り切っているのだ。
それに可愛い女の子にカッコいいところを見せたいという見栄もある。
かといってイリスを危険な目に合わせるつもりは毛頭ないので奥まで入るつもりはないが。
「イリス、これを持っておいてくれるか?」
「は、はい。わかりました」
イリスに渡したのは市販のバックに異空間収納を付与したもの。
異空間収納が使えることに気づいたので付与魔法と合わせて使ってみたら上手くいったのだ。
重さも変わらないし時間の概念も無いので生の物も腐らないというすぐれものだ。
「では素材集めを始めよう」
俺たちは使えそうなものを集めながら近づいてきた魔物を俺が狩るということを繰り返す。
気づけば小さな山が出来るくらいの量の素材が集まっていた。
「かなり集まりましたね」
「そうだな。でももう一押し欲しいんだよな……」
なんともラインナップがパッとしない。
せっかく魔の森に来たんだから誰もが見たことがないくらい素晴らしいものが欲しいと思うのは男のロマンだ。
だけどもうかなりの時間魔の森にいるしそろそろ撤退するかと考えをまとめたその瞬間、背中にゾクッとしたものが走る。
俺はすぐさま抜刀し気配のしたほうを睨む。
「ど、どうしたんですか……?」
「でかい気配がある。それもかなり強力なものだ」
『GYAooooooooooooo!!!!』
その瞬間、耳をつんざくような音が鳴り響く。
鳥たちが一斉に飛び立ち魔物たちもその気配から逃げるように移動しているのがわかる。
「イリス!俺から絶対に離れるなよ!」
「は、はい!」
イリスが俺のもとに駆け寄ってくる。
そうこうしている間にも強大な気配は接近してきていた。
「──!上か!」
その瞬間、ドーーンという大きな音と共に砂を巻き込んだ爆風が迫り俺はイリスを抱きかかえてかばった。
砂埃が晴れ視界が戻り始める。
そこにいたのは──
「……まさかこんな大物が魔の森の浅いところにいるとはな」
人間よりも何倍も大きい体躯。
デカい翼と光沢のある鱗は生き物として格が違うと言わんばかりに圧を放っていた。
そのシルエットから導き出される魔物は──
「あ、ぅ……ど、ドラゴン……」
隣のイリスが顔を青ざめさせて後退りする。
怖いのを我慢しているのだろう。
体は震えその目には絶望の色が浮かんでいた。
ドラゴンが現れるのは非常に稀とされ、ひとたび人里を襲えば数え切れないほどの死傷者が出ると言われている。
討伐できるのはそれこそS級パーティーかA級パーティーが5つほどの戦力が必要となる。
俺も蒼天の剣時代に相対したことがありそのときはみんなで助け合ってなんとか倒せた敵だった。
そんな敵を前にしているにも関わらず俺に恐怖はない。
それどころか笑いすら湧き出てくるようだった。
「クックック……あっはっは!」
「ご、ご主人様……?」
イリスが心配そうに聞いてくるが俺の笑いは収まらない。
だって……ドラゴンの鱗は服や鎧を作るうえで最高級の素材なんだぜ?
これを笑わずしてどうするというのだ。
「喜べイリス。お前に最高の服をプレゼントしてやれそうだ」
俺は腰の剣を抜き放ちドラゴンに向かって歩き出した──
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本日から先行公開を始めます!
今日は8話までサポ限で出す予定なのでよかったら見てみてください!
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