第2話 第二の人生の始まり

「さて、それじゃあまずは宿を取ることから始めるか」


二度目の人生を自由に楽しむと決めた俺は宿を取るべく歩き出す。

拠点がないとなにも始まらない。

これからの方針をゆっくりと練る必要があった。


「お金は……金貨10枚か……」


リチャードから渡された革袋の中を確認してみると金貨が10枚入っていた。

金貨は銀貨3枚分に相当し銀貨1枚でそこそこ良い宿に泊まれる。

元々俺は銀貨13枚を持っていたので1ヶ月はそこそこの宿屋に泊まれるだけの財力があることになる。

切羽詰まるほどではないようにも見えるがS級パーティーの退職金にしては異例なほど少ない。

まぁもとから期待はしていなかったが。


「宿屋だけはいいところを選ぶことにするか。安宿じゃあ拠点としては相応しくないしな」


この世界は日本と比べて全然発展していない。

故に安易に安宿を選ぶとセキュリティはガバガバだしそもそもが治安が悪い場所に立地している可能性が高い。

ならば多少金をかけてでもそこそこ良いところを選ぶのは当然のことであった。


俺はまだパーティーのランクが低くかった頃の記憶を引っ張りだし、そのときよく利用していた宿屋へ向かう。

久しぶりに訪れたその宿屋は記憶からほとんど変わっておらず懐かしさを感じさせた。

俺は扉を開くと懐かしい木の匂いが鼻腔をくすぐった。


「いらっしゃい!」


「久しぶりだな女将」


「ん……?あんたレックスか!随分とまぁ立派になったようで誇らしいもんよ」


出迎えてくれた女将に挨拶をすると向こうもすぐに気づいたようで俺の肩を叩きながら嬉しそうに笑う。

赤毛の恰幅が良く気前も良いおばさんで俺に親身になってくれた大切な人だ。

おそらく俺の追放の件はすでに伝わっているだろうに昔と変わらず接してくれるのが嬉しい。


「ちょっと泊まらせてほしくてね。部屋は空いてるか?」


「1部屋だけ空いているよ。泊まるなら少しだけサービスしとくさね」


「助かるよ。それじゃあ1週間まずはお願いする」


俺は金貨を渡そうとしたら2枚で良いと言われお言葉に甘えることにした。

チェックインを済ませると女将に部屋に案内される。

1人用の部屋だけあって広いとは言えないけど生活するには十分なスペースがあった。

清潔感もあるしここに泊まれるのはありがたい。


「それじゃあゆっくりしていっておくれ。私は下にいるから何かあったら呼ぶんだよ」


「わかった」


女将は満足そうに頷き部屋から出ていった。

俺は荷物を置くと剣は身につけたまま家具などの確認を始める。

盗聴や撮影といった類の魔道具が設置されていないか確かめるためだ。

これは宿屋を信頼していないわけではなく害意をもって仕掛ける第三者はたまに存在するのである。


「ふぅ……大丈夫か……」


一通り確認したが特に魔道具は見つからない。

しっかりと安全であることがわかり俺は剣を立て掛けてベッドに腰を掛ける。


「さて、これからどうしたもんかな……」


自由に生きると言ってもこれからの選択肢は無限大にある。

それこそ異世界にしか存在しないような職業についてみたい気持ちもある。

ソロで冒険稼業を続けるのも悪くないし王様に仕えてみても面白いかもしれない。

中二心をくすぐる異世界無双だって全然アリだ。


「女将に聞いてみるか……」


俺はこの世界の記憶を持ってるとはいえまだ前世の記憶と混ざり合って混乱している部分はある。

それに俺一人の意見で判断するより第三者にも意見を求めることは大切だ。

俺は剣と革袋を持ち部屋にしっかりと施錠をした後、下に降りる。


「女将、ちょっといいか?」


「おや、レックスじゃないか。何か不具合でもあったのかい?」


「いや、ちょっと散歩に行こうと思ってさ。その前に軽く世間話がしたくて。忙しかったら出直すよ」


「そんなの大歓迎さね。ゆっくり話をさせとくれ」


俺はカウンターの前に立ち女将と向き合う。

そんなに話し込むつもりはないので立ち話だ。


「今まで元気にしてたか?」


「もちろん、病気一つかかってないさ。レックスたちの噂はずっと入ってきていたよ。お前も元気だったんだろう?」


「……まあな。一応は元気にやっていたよ」


親友と婚約者に裏切られたけど、とはあえて口に出さない。

そんなことを言っても女将を困らせてしまうだけだ。


「なあ女将、俺これから何すればいいと思う?」


「なんだい突然そんなことを言って」


「ちょっと自分を見つめ直そうと思ってね。まだ15だし選択肢は色々あると思って」


俺は単刀直入に聞くが女将はバカにしないで真剣に聞いてくれる。

女将は顎に手を当てうーんと考え込む。


「好きにすれば良いと思うがレックスが求めているのはそういうことじゃないんだろう?」


「まあそうだな」


そんなものが分かれば苦労なんてしない。

こういう道もあるんだよという助言が欲しかった。


「クランを作る……とかどうだい?」


クラン、それはパーティーよりも人数の規模を大きくしたものであり優秀な冒険者はクランに属していることも多い。

人数がパーティーよりも大きい分より大規模なダンジョンや仕事を受けることができるんだ。

まさしく『異世界ならではのこと』である。


「……なるほどね。ありがとう、とても参考になった」


「そいつはよかったよ。それにしてもお前さん随分とすっきりした顔をしているねぇ」


「そうか?」


自分の顔はすっきりしているのか、それがピンとこずに聞き返す。

すると女将はそんな俺の様子におかしそうに笑う。


「今までも芯のある奴だとは思っていたけども……今は何も気負いもなくすっきりとした顔をしている。色んな可能性に目を向けだしたことだっていいことのはずさ。若者は夢追ってなんぼなんだ。お前の目指す道ならわたしゃいつまでも応援するよ」


そんな女将からのエールに俺は笑みがこぼれる。

信じていた人に裏切られたばかりだからこそその優しさが心に沁みた。


「……ああ。それじゃあ俺はちょっと外を散歩してくるよ。邪魔して悪かった」


「またゆっくり話をきかせとくれ」


俺は女将に感謝を伝え宿屋の外に出た。

ぶっちゃけ外は噂の件もあり居心地が良いとは言えないが引きこもっているともっと気が滅入りそうだった。

俺は女将との話で軽くなった心のまま適当に歩き出す。


どれだけ歩いただろうか。

いつの間にか日は沈みかけ薄暗いところまで来てしまっていた。

路地が入り組み路上生活者も多くいるようなそんな場所。


「やっべ……変なところに来ちまったな……」


明らかに治安が悪そうだし悪意を持った視線だって周りから感じる。

面倒事に巻き込まれそうだと俺が頭を悩ませたそんなときだった。

路地の奥の方から男の怒号が聞こえてくる。


「なんだ……?喧嘩か……?」


俺は奥の方へ歩いていく。

すると男がムチで首輪と手錠がつけられた俺と同い年くらいの少女を叩いていた。

俺はその光景を見た瞬間、少女がどういう身分なのかを悟ってしまう。


「奴隷か……」


この国において奴隷は合法。

しかも彼女はかなり特殊なケースだ。


「彼女は……ジパン人なのか……!?」


ジパン人。

それは穢らわしき黒系種ニーグルムと呼ばれこの世界で最も忌み嫌われる少数民族であり被差別種族の名であった。


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