欲望のヴィルグレーヴィア その2
私とファナナは駐機場に戻ると、各々のアストラナードに乗り込んで後部ライノクスへ飛んだ。
「そのペニーナントカっていうピエロ集団の中からどうやって"タトゥー"を捜すつもりなんだ?」
「今考えているところだ」そう言った直後、"狼の心臓"は別の音声通信を受信した。グレープ回線ではなく、メタフォース回線を使った通信だった。
「セイディ」電波の向こうの女は自分の名を名乗ると、こちらの返答も聞かずに話し始めた。「"アリエル"と"スカイ・ハイ"から再戦の申し出があった。ゲームは同じく二対二のシューティング・デスマッチ。自分たちの負け金以上を賭けて」
「悪いな。立て込んでる。後にしてくれ」
「そう言うと思ったから、あたしは別のペアで再戦を受けた。あんたよりも数段マシな相棒とね。安心して。勝とうが負けようが、あんたに金を請求するつもりはないから」
「だったら何の報告だ?」
「ログイン地点よ。場所の詳細はともかく、やつらは無防備にもアストラナードの中から〈ダウン・サイド〉に潜ってる。機体名はわからないけど、オンライン情報の数字からマシンからのアクセスということはわかった。あんた、もう〈ヴィルグレーヴィア〉に着いたんでしょう? やつらを見つけられてないなら、手がかりにならない?」
「今は、ゲームの最中か?」
「まだ。場所やルールの詳細設定で時間稼ぎをしているところ。でも、向こうもログイン中なのは間違いない」
「ファインプレイだ、セイディ」私はメタフォース回線のマイクを遮断するのも忘れて、Gnaviの音声機能に語りかけた。「ハロー、Gnavi、サーチ感度を最大に。〈ダウン・サイド〉に接続中の機体を見つけてくれ」
数秒の後、女性風の機械音声が答えた。「"ダイヴ"中の機体は二機。機体名、及びダイヴァー・ネームは不明。プロテクトがかかっている模様」
「上出来だ。その二機をロックして、情報を"灰色熊の爪"と共有してくれ」私はGnaviに命令するとグレープ回線の向こうにいるファナナに向かって叫んだ。「この二機が"アリエル"と"スカイ・ハイ"の可能性が極めて高い。待ち侘びていた"タトゥー"なのかもしれない」
「待って!」メタフォース回線からセイディの声がした。私の"狼"を経由した彼女の声は、当然ファナナにも届いていることだろう。「アリエルは、ウエストヴィクトリアに行ったことは一度もないと言っていた。確証はないけど、嘘は言っていないと思う」
「それじゃあ、ヴィオレッタのアンジェラ・ロメロはどうなる? 彼女の死体を捨てることなんて、できるわけないじゃあないか」
誰かが何かを叫び、別の誰かが何かを叫んだ。広大な宇宙領域の中、たった三人の会話だというのに、音声は乱れる。そこへさらに、声が割り込んでくる。
「おう! コラ、てめえら! 随分と調子こいてくれたみてえじゃねえか!」通信の発信源はライノクスから向かってくるアストラナードからだった。
「俺の仲間が世話になったなあ!」別の機体から声が聞こえた。
「なんだ、ファナナ。暴れたのか?」
「さあな。心当たりがありすぎる」
「ふざけるんじゃねえ!」三機目の機体から声がした。「第三レーンはペニー団長のレーンだってのに、ターキーなんぞ出しやがってこの野郎!」
「何を言っているんだ?」ファナナの困惑した声が聞こえた。
「まさかとは思うが、ボウリングのことを言っているんじゃあないだろうな?」
「他に何があるってんだこの野郎!」四機目––––いや、もうどの機体からの音声なのかはわからなかった。「しかも途中で逃げやがって、この野郎! 勝ち逃げしてんじゃねえぞ、この野郎!」
「それでわざわざ出迎えてくれたのかい?」
「ああ、てめえをぶち殺しになあ!」
一、二、三、四、五、六。総勢六機のマシンが私たちの方へ向かってきた。
「争う気はないんだ。俺たちは殺人犯を捜している。君たちのサーカスの中に––––」
「うるせえ!」敵の一機が飛行機銃を放った。私たちにあたるはずもなかったが。
「宣戦布告だな」私は操縦桿を握る手に力がこもった。「こっちもピリついているんだ。手加減してやる余裕はない」
私も、飛行機銃を撃って応戦した。
「なあ、ダン。おまえ……俺が"タトゥー"を捜している間、呑気にボウリングなんてしてたわけじゃあないよな?」
「後にしろよ、ファナナ。敵機が来てるぜ」
「この間抜けども、ターキーって言ってなかったか? おまえ……」
「集中しろよ、ファナナ。来るぞ」
ファナナの飛行機銃が、敵の一機に命中した。「言っておくがな、ダン。おまえより、俺の方が上手い」
「まさか、ボウリングの話じゃあないだろうな?」
「他に何がある?」
「そいつは聞き捨てならないな」
「だったら、勝負するか?」
「恥をかいてもいいんならね。まずは、このうるさいピエロどもを」
「ああ、沈めてから勝負だ」
隕石の間を、戦火が流れる。宇宙を流れる銃弾は、流れ星に似ていた。
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