誘われた悪党

 私は初めに来たときと同じモーテルに宿泊し、ゼペタ・ギャングについて訊いて回った。頭皮の薄くなったモーテルの親父は、初めこそ亡霊を見るような目をしたものの、深く詮索してくるようなことはなかった。

 二週間余りが過ぎ八月になったが、進展は何もなかった。ラビットホープの住人から得られる情報はない。一日の終わりには決まったバーを二、三軒ハシゴしてからモーテルに帰った。一つのモーテルに長く滞在しているのも、バーを絞ったのも、私の居場所を私以外の人間にもわからせるためだ。無理やり定めたルーティーンだったが、守ることにさほど苦労はなかった。

 この日も街で情報を集め、一軒目のバーでサン・トゥアンヌ・ブルーリボンズとウインズロウ・レックスのナイターゲームを観戦し––––残念ながらレックスはサヨナラ負けを喫した––––、二軒目のバーでアステロイド・レースを観戦した––––セイディ・マクファーレンは出場していなかった。

 第一レースが終わり、三軒目に移ろうかと表に出て煙草に火を灯したとき、やつらは現れた。

 整髪料で髪の毛をトサカのようにセットした男が一人。汗をかいているわけでもないのに髪が濡れている男が一人。後退する額を見せびらかすかのように長髪を後ろで縛った男が一人。三人目の男は暗がりがよほど怖いのか、額で月明かりを反射させ、夜道を照らしていた。

「俺たちを探っていやがるのはてめえか?」顔はよく見えなかったが、トサカのシルエットがしゃべった。

「おい、なんとか言えや」おそらく、濡れ髪の男だ。

「死にてえらしいな」月明かりを反射……ハゲロン毛だ。

「ここまでとはね」私は思わず声に出した。暗がりだろうがどこだろうが、誰がどこでどう見たって、ギャングのチンピラたちだった。予想していたとは言え、あまりにも型にはまり過ぎていた。

「ああん?」三人のうちの誰かが息巻いた。

 暗がりで人気のない路地。少しばかり気が大きくなっているようだ。仲間と連んでいるせいか、自分のテリトリーだと安心しきっているのか。誘い込んだのは私の方だというのに。

「一応確認しておきたい。君たちは、ゼペタ・ギャングだな?」

 男たちは一斉に何かを叫んだ。

 まったく。下品な言葉を一斉に浴びせられても、聞き分けられるはずがない。聖徳太子だってきっと不可能だ。

「イエス、ということだね? 人違いじゃあなくて安心したよ」私は煙草を放った。「ゼペダ・ゼペタの居場所を知りたい。おっと、その前に訊かせてくれないか。いかにもチンピラな振る舞いをして、恥ずかしいと思ったことはないか?」

 そこから先の未来は決まっていた。拳を振るい、最後には銃を抜く。何世紀も前から変わらない男同士のやりとりだ。そのすべてにおいて、私の方が彼らを上回っている。

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