第2話 花が好き?

「起立、礼」


「さようなら~」


今日も授業が終わり、放課後がやってくる。


日直が号令し、挨拶を終えると、クラス中がとたんに騒がしくなる。




部活に行く人、残って課題をやる人、さっさと帰る人。


優馬はさっさと帰る人に分類される。




門を出て、見慣れた街道を歩いていく。空は赤く、美しい色に染まっていく。


学校から歩き15分。今朝と同じ公園が視界に入ってきた。




ふと優馬は足を止めて、公園を見渡してみる。




(……いないな)


どうやら今朝の彼女……如月葵はいないようだ。




彼女が放課後に何をしているか。当然誰も知らない。さっさと帰ってしまい、行方が知れないからだ。




そんなミステリアスで、不思議な彼女が悲し気な顔で花を見ている……


そんな光景は優馬にとって大いに興味をそそられることだった。




(あのあたりだったか)


彼女がなぜあの表情をしていたのか。その理由が知りたい一心で、今朝彼女が見ていた、たんぽぽの辺りに近づく。




花壇に植えられたたんぽぽは、春の訪れを喜ぶかのように咲き誇っている。


だが特に変わったところはないように思えた。いたって変哲もない普通のたんぽぽだ。




何か秘密があるのかそれを探るために腰掛けてたんぽぽに近づく。




ふいに人の気配を感じた。誰かそばに立っている。慌てて優馬は横を向くと、そこには青い髪を揺らし怪訝な目で優馬を見てくるクラスメイト




――如月葵が立っていた。




彼女は優馬を見下ろしながら


「……なに、してるの」


冷たく、そう言ってきた。




「あ……いや~えーと」


思わず立ち上がり、後ずさる。




さすがに目の前にいるクラスメイトの秘密を知りたかった、とは言えずにしどろもどろになってしまう。




優馬が動揺している間も、如月は怒っているような、訝しむような、そんな目で優馬を見ている。


とてつもなく冷たい空気を放っている。その眼差しはまさしく氷のようだった。




「あの~……そう!たんぽぽがきれいだなーって思っただけで……俺結構花が好きでさ」


「……ふーん」




優馬がそう言っても如月は納得のいってない様子だった。


「えーっと、如月……さん、も花が好きなの?」


「……別に関係ないでしょ」


彼女はつめたく、突き放すかのように言い放す。




完全に談笑できるような雰囲気ではない。




「あー、なんかごめん。もう行くよ」


ここでグダグダと会話しても埒が明かない。そう判断して優馬はそそくさと立ち去る。




急いで公園から離れ、近くのコンビニに駆け込む。


よほど緊張したのだろう


胸に手を当ててみると心臓が急速に鼓動を打っている




「……めっちゃ怖かったなあ」


思わずそうつぶやく。




ただ同級生と話しただけ。それだけなのに、ものすごく怖く感じた。


授業中に寝ている生徒にキレた先生よりもだいぶ恐ろしい存在だ。




(だけど、なんで怒ったんだろう)


恐ろしい存在ではあるのだが、なおのこと優馬は彼女の事情を知りたくなった。




彼女はミステリアスで何もわからない。だが今日は彼女と会話ができた。


あの何も語らない彼女と会話ができただけでもすごいことだろう。




あとついでに怒るとめちゃめちゃ怖いということも分かった。


ミステリアスな彼女の一面が少し知れた気がする。


そんな奇妙な満足感を胸に抱えたまま優馬は再び駅に向かって歩きだした。


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