第23話 ウィニードール②


 魔人による騒動に決着がつき、気づけば無人となっていたカジノにはふたりだけ。


 約束通りに、魔人が魔法でバニーガールたちの治療をおこなった。

 その後は近隣の虎の国の教会に被害者たちが引き取られることになっている。

 魔人は役目を終えたとばかりに気づけばいなくなっていたが……。


 被害者の怪我もなく障害も残っていなければ追いかけ回すこともないだろう。

 それに、今から探すには手間がかかり過ぎるため、追いかける気があっても手がかりがなく泣き寝入りするしかなかった。



「バニーさんも治療されてるはずだけど……体は痛む?」


「え? ……いいえ、特に……ないわ」


 バニーガールたちは一か所にまとめられ、これから船で移動する手筈だが……ウィニードールだけがチカチルと共にいる。教会より先に、彼女に保護されていた。


「…………チカちゃん、どうしてわざわざ私を……。他の人たちと一緒にまとめて送り出してしまえばいいのに……」


「うーん……」


 チカチルは感情を言葉にできないことをもどかしそうに感じながら、苦笑する。


「わかんない。なんだかバニーさんが取られちゃうと思って……嫌、だったの」

「…………」


 顔を背け、恥ずかしそうに口元をむにゃむにゃとさせるチカチルを見て、ウィニードールは自分の体温が急激に上がったことを自覚した。



(……ああ、これはやばい…………じゃあやっぱり、そういうこと……なのね……)



 故郷が嵐に巻き込まれた時、女どころか子供も助けずに自分の命を優先して逃げていった男たち。…………比べて、チカチルはどうだった?


 魔人を相手にしても一歩も引かなかった。

 さらには自分の命を賭けて大勝負に出た。

 負けて全てを失ってもおかしくなかったのに……。


 運に勝敗を委ねて――チカチルは全てを魔人から奪い返したのだ。


 勝利を手にした。

 彼女は、逃げずに立ち向かったのだ。


 ……カッコよかったし、今、こうして照れる姿は、とても可愛かった。


 だから。

 だから――これは仕方のないことなのだっ。



「チカちゃん、お願いがあるんだけど……服、持ってきてくれる?」

「? タオルじゃダメ? 探してくるけど……バニー衣装以外あるかな――」

「バニー衣装でもいいから!」


 今はなりふり構っていられなかった。


「今まで散々、それで苦しめられてきたのに……? でもどうして? タオルじゃ……やっぱり不安?」

「不安もだけど……その……不満なの!」


 必死のウィニードールに、チカチルも面食らって腰を上げた。

 助けられた身でわがままを言っていることに自覚があっても譲れない部分だった。

 これ以上、彼女の前で半裸の姿でいれば、どうにかなってしまいそうで――――


「ちょっと待っててね。バニー衣装ならたくさんあったから持ってきてあげる」

「ゆっくりで大丈夫」

「えぇ……? 早く着替えたいんじゃ……。まあ、うん、分かった」


 たたたっ、と着替えを取りにいってくれたチカチルの背中を見つめるウィニードール。

 気になるあの子がいなくなったことでほっと安堵する。肩の力が抜けた感覚だ。


 タオルで隠れているとは言え、自信のない体をチカチルに見られることに拒否感があったのだ……。やっと、タオルで体を隠す意識と力を抜くことができた。


 はぁ、と一呼吸。

 落ち着きを取り戻したものの、冷静になって自覚が芽生えたことで別の問題が浮上してきた……――チカチルの目を見ることができない。


 顔を見ることはできるけど、目が合えば、きっと顔が真っ赤になって悟られる。

 女の子にマジ恋する年上女性なんて……引かれて当然だ。


「…………」


 ウィニードールは男嫌いだ。大嫌いだ。つまり、女性のことが――――



「うぁあー…………」


 ウィニードールが両手で顔を覆う。今は、鏡が見れない。

 勇者チカチルは命の恩人であり初恋の人――初めて好きになった女の子。


 年下の。

 そして同性への、真剣な恋心だった。


「ど、どうしよ……どうするの!? ――どうしたらいいのよ私っっ!!」


 悩むウィニードールの前に、ふたつのバニー衣装を持って駆け付けてくれたチカチル。

 彼女は片方の衣装をウィニードールへ差し出し、もう片方を自分の体に当てた。


「バニーさんが着るならわたしも着るよ! ――ペアルックだね!」


 露出度が高いバニー衣装を着た肌色多めのチカチルの姿を想像したウィニードールが、分かりやすく真っ赤な鼻血を出していた。


 後遺症!? と焦るチカチルと幸せな姿を浮かべるウィニードール……。


 このあと、彼女は出血多量で生死の境を彷徨うのだが……それはまた別の話だ。

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